七十五話 束の間の休息
迷宮の中をさらに進むこと少し――
「む、この抜け道は……」
「どうやら安全地帯のようですね、少し休みましょうか」
安全地帯への抜け道を見つけ、サヤとフランがやり取りを交わす。
サヤを先頭に安全地帯へと入っていく一行。
エルフの里の近くにある安全地帯と同じく、泉の湧いた空間が広がっていた。
かなりの広さがあり、配下にしたモンスターたちも余裕で入ることができそうだ。
『まさか迷宮の中にこのような空間が広がっていたとは……』
『この辺は何度か通ったことがあるが、全く気づかなかったな……』
安全地帯の中を見廻しながら、オニイチやウルが声を漏らす。
やはりミノたちと同様に、モンスターは安全地帯を自ら認識することができないようだ。
「けっこう歩いたし、せっかく安全地帯があるんだから腹ごしらえでもするにゃん」
『ああ、食材を取り出すとしよう』
ヴァルカンの言葉に答え、ダークがスキル《収納》を発動する。
すると異空間に収納していた食料が次々に出てきた。
串に刺して焼いた肉、煮魚料理、スープ、パン、それにココナッツの実など様々だ。
【ダークのおかげで、迷宮の中でこうしたものが食べられるのはありがたいのう】
「ほんとですね、予め作っておいた料理を収納できるなんて、便利なスキルです」
配膳の準備をしながらシグレとアリサがそんなやり取りを交わす。
どういう仕組みになっているのか、ダークの《収納》スキルは食べ物の温度を保ち、劣化を防ぐ効果があるのだ。
「お前たちもこっちに来て食べるがいい」
『お、俺たちもよろしいのですか、サヤ様……?』
『強いだけでなくお優しい方だ……』
隅の方で待機していたモンスターたちにサヤが声をかけると、ウルやオニイチがそんな反応を示す。
皆で円になり料理を囲む。
初めて見る調理された食材を前に、ウルたちは興味津々といった様子だ。
「ほら、食べてみろ」
たまたま隣に座ったワングの前に、串肉を差し出すサヤ。
主人から直々に料理を差し出されたワングは、恐る恐るといった様子で大きな口を開く。
『な、なんだこれは! 美味すぎる……!』
肉を咀嚼しながら、興奮した声を漏らすワング。
ワングに倣い、他のモンスターたちもそれぞれ串肉を口にする。
『ほ、本当に美味い!』
『下級モンスターの肉など比べ物にならんぞ!』
オニイチやウルたちも串肉が気に入ったようだ。
それぞれ興奮した声を漏らすと、夢中で肉を貪り始める。
『これはもっと量が必要だな』
そんな言葉とともに、再び《収納》スキルを発動するダーク。
すると異空間から、さらに大量の串肉が出てきたではないか。
『『『うおぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!』』』
串肉の山を見て、興奮のあまり雄叫びを上げるモンスターたち。
そんな彼らにアリサたちは苦笑しながら、自分たちも食事を始める。
「よし、姿を変えるとしよう」
そう言って、スケルトンの姿からエルフの姿へと変身するサヤ。
ウルを始めとしたモンスターたちが『『『……ッッ!?』』』と驚愕の息を漏らす。
「サヤ、頑張って作ったので食べてみてください」
そう言って、サヤの隣に座ったフランが、フォークに刺した煮魚を差し出してくる。
「む、そうか、いただくとしよう」
フランの行動に何の疑問も持たず、彼女のフォークから料理を口にするサヤ。
「あ! またフランさんが抜け駆けしてます!」
【く……っ! 配膳の準備に手間取って、サヤの隣を確保できなかったのが敗因なのじゃ!】
フランとサヤのやり取りを見て、悔しげな声を漏らすアリサとシグレ。
「にゅふふふ……」
『ご主人、やりおるな……』
相変わらずヴァルカンとダークはニヤつきながら、フランとサヤを見守り、グランペイルが『こ、こいつら……』と呆れた表情を浮かべる。
『サヤ様、強いだけじゃなくてメスにもモテまくりじゃねーか!』
『羨ましい! 羨ましいぞぉぉぉぉぉ!』
ウルとオニイチを始めとしたモンスターたちが、嫉妬の嵐を巻き起こしている。