七十四話 さらに進む者たち
『おお、これは!』
『傷が治ってゆくぞ……!』
シグレによる治療を受け、感動の声を漏らす二体のオーガ。
どうやらこの二体は兄弟に似た関係らしく、常にともに行動しているらしい。
「では兄の方に〝オニイチ〟、弟の方に〝オニジ〟の名前を授けるとしよう」
『我らに名前を!?』
『オニジ! なんて力強い響きなんだ……!』
サヤの名付けに、二体のオーガ――オニイチとオニジが興奮した声を上げる。
「さて、質問です。あなたたちはどうしてこの階層に現れたのですか? この者たちのように、他のモンスターに奥の階層から追いやられたのですか?」
『ああ、その通りです、強きエルフよ』
ウルたちに視線をやりながら、オニイチたちに問いかけるフラン。
彼女の問いに、オニイチが悔しげな表情で答える。
【お前たちほどのモンスターを低層へと追いやるモンスター……いったい、どのような存在なのじゃ?】
連携の取れたAランクモンスターであるオニイチたちですら怯える相手が気になり、シグレがそんな質問を投げかける。
『強き者の武器よ、我らをこの階層へと追いやったのは一体の〝飛竜〟です』
『単純なパワーなら我らと互角でしょうが、ヤツには凄まじい切れ味の爪、口から吐く炎のブレス、そして飛行能力があります』
シグレの質問に、追いやられた時のことを思い出したのか、さらに表情を苦いものに変えながら、オニイチとオニジは答える。
「飛竜……となると、多分〝ワイバーン〟のことにゃね」
『ああ、Aランクモンスターの最上級の強さを誇るモンスターだな』
モンスターの正体を予想するヴァルカンとダーク。
そんな中、フランがサヤに問いかける。
「サヤ、迷宮の異常調査はここまでにしますか? あなたはスケルトン、奥にいるであろうワイバーンのブレスを喰らってしまっては、ひとたまりもありません」
……と――。
「いや、このまま進もう。……シグレ、いざとなったら〝アレ〟をやるぞ」
【了解じゃ、サヤ。ワシたちの新たな力を見せてやろう!】
フランに答えつつ、何やらシグレとやり取りを交わすサヤ。
「……何か秘策があるようですね、さすがはサヤです」
サヤとシグレのやり取りを聞き、フランは微笑を浮かべる。
表情はクールそのものだが、どこかワクワクした印象を受ける。
『い、いくら強き者――サヤ様であれど、飛竜の相手は……』
『ヤツの戦闘力は桁違い、危険です!』
妖刀形態へと変身したシグレを腰に差し、奥へと進もうとするサヤを、オニイチとオニジが引き止めるようとする。
『心配するな、サヤ様はお前たちが思う以上に強きお方だ』
『ああ、ワイバーンが相手であろうと必ず勝利してみせるだろう。妾たちが保証する』
恐怖に怯えるオニイチたちに、グランペイルとダークが安心させるかのように語りかける。
『え、えっと、犬と猫にそんなこと言われてもな……?』
『え? というか、サヤ様は飛竜に一人で挑むおつもりなのか!?』
オニイチは犬と猫にしか見えないグランペイルとダークの言葉に困惑し、オニジはサヤが一人で戦おうとしていることを悟り驚愕する。
「まぁ、そんな反応にもなりますよね」
「サヤくんは規格外だから仕方ないにゃん」
二体の反応を見て、アリサとヴァルカンは少々苦笑しながら、そんなやり取りを交わすのであった。
「よし、先に進むとしよう」
「次はどんな戦い方を見せてくれるのか、楽しみです」
サヤに続き、フランもそんな言葉とともに歩き始める。
アリサ、ヴァルカン、ダークにグランペイルも同様だ。
その後ろではウルやワングたちが興奮したかのように遠吠えを上げ、後に続く。
『くっ……こうなれば我らも行くしかあるまい!』
『サヤ様を信じるのだ!』
オニイチたちも意を決した様子で、皆のあとを追いかける。