七十二話 聖剣使いと妖刀使い
迷宮の中を進むことしばらく――
サヤたちは次なる階層へと足を踏み入れた。
途中、下級モンスターに何回か出くわすことはあったが、サヤの後ろに追随するウルたちの姿を見ると、モンスターどもは一目散に逃げていった。
『この気配、ヤツらがいるぜ……!』
『サヤ様、お気をつけください!』
灰色の毛並みを逆立て、その表情に警戒の色を示すウルとワングたち。
すると奥から、二体の異形が現れたではないか。
『なんだ? スケルトンが犬どもを連れているだと?』
『いや、それだけではない。人間まで連れているではないか』
サヤたちの姿を見て、二体の異形がそんなやり取りを交わす。
身長は二メートルほど、肌の色は赤褐色、前頭部には二本の角が生え、両者ともに長大な金棒を手にしている。
【アレは、確か〝オーガ〟か?】
「はい、鬼人型の強力なモンスターです」
サヤの手の中で疑問を口にするシグレに、フランが小さく頷きながら答える。
鬼人型モンスター、オーガ――
階級はAランクに属しており、凄まじい膂力を持つことで知られている。
オーガの持つ金棒による攻撃をまともに喰らえば、並の冒険者であれば一撃で殺されてしまうであろう。
ウルたちの反応を見るに、彼らはこのオーガたちによって、階層を押し出されたのであろう。
(ふむ、それは面白そうだ……)
などと思いながら、シグレを手にサヤが前に出ようとする――のだが……
「サヤ、ここは私にも参加させてください」
……そう言って、フランがサヤとともに前に出る。
「……では、それぞれ一体ずつ倒すとしよう」
「了解です」
サヤの言葉に、一瞬だけ彼と視線を交えながら答えるフラン。
そんな二人のやり取りを見て、オーガどもが――
『フハハハハハハ! 聞いたか兄者、あの者どもの言葉をッ!』
『聞いたぞ弟よ! スケルトンと人間如きが、一対一で我らを倒すと言ったな!』
――などと、まるでサヤたちを見くびるかのように笑い声を上げた。
「その余裕がいつまで続くか楽しみだ」
そう言って、サヤがシグレを抜く。
その瞬間、オーガどもも笑い声を止め、その視線を鋭く細める。
さすがはAランクモンスター、どうやらサヤとシグレから放たれる凄まじい剣気を、一瞬で感じ取ったようだ。
「来なさい、聖剣 《アロンダイト》――!」
サヤに続き、今度はフランが前に手を突き出す。
するとその手の中に眩いばかりの光が灯り、やがてその光は美しく輝く白銀の剣へと姿を変えたではないか。
「いったいアレは……!?」
「アリサちゃん、アレはフランちゃんがスキルで生み出した、聖剣という特殊な武器にゃん」
アリサの疑問に、軽く説明を交えて答えるヴァルカン。
フランは聖なる武器を生み出す古代スキル、《聖剣創造》を所持している。
武器の属性は〝神聖属性〟――。
神聖属性はあらゆるモンスターの弱点となり、魔王やその配下の魔族にすら絶大なダメージを与えるとされている。
『ほう、これはこれは……』
『サヤ様とフラン、なかなか絵になるな』
後ろでフランとサヤを見守りながら、ダークとグランペイルがそんなやり取りを交わす。
片や燦然と神聖なる光を放つ聖剣使いのフラン。
そしてもう片方は漆黒なる闇霞を纏う妖刀使いのサヤ。
聖と魔――二つの存在が並び立ち、強力な敵に向き合う様は、まるで神話の光景の如しだ。
『ぐ……っ、なんだ、この者たちの力の波動は……!?』
『狼狽えるな、弟よ! 冷静に対処してこの者どもを倒すのだ!』
サヤとフラン、二人の力の波動を前にして、気圧される一体のオーガ。
そんな片方のオーガを叱責し、金棒を構えるもう一体のオーガ。
「では、いきましょう」
「ああ、楽しませてもらう」
フランと短くやり取りを交わすと、サヤはその場から勢いよく飛び出した――。