七十一話 久しぶりの名付け
ワーウルフにビッグファング。
なかなかに練度が高いようだ。
先頭のサヤを囲むように、一斉に飛びかかってくる。
「ふんっ……」
しかし、サヤはそれを一笑する。
そのまま目にも止まらぬ速度でシグレを振り抜き、その場で回転斬りを放った。
左から右へと、一閃のもとに斬撃をその身に刻まれるビッグファングども。
そのどれもが大きな悲鳴を上げながら、切り傷から派手に鮮血を撒き散らす。
『グゥゥゥッッ!?』
その中で唯一、ワーウルフのみが致命傷を免れた。
しかし――
『降参だ、俺たちの負けだ……ッ!』
――腕の切り傷を抑えながら、そんな言葉とともにワーウルフはその場に片膝をついた。
「……驚きました。まさかスキルもなしに、Bランクモンスターを五体も同時に降してしまうとは」
倒れるビッグファングたち、そして敗北の言葉を紡いだワーウルフを見て、フランは思わず声を漏らす。
「ならば、我の配下になるということでいいな?」
自身の持つスキル、《敗者隷属化》が発動していることを確認し、その上であえてワーウルフたちに問いかけるサヤ。
ワーウルフは『もちろんです、強き者よ』と頭を下げ、ビッグファングたちも弱々しい声で鳴いて答える。
「よし。シグレ、こいつらを治してやれ」
【わかったのじゃ】
変身を解き、普段の姿に変わるシグレ。
ワーウルフとビッグファングの方へと手をかざし、彼らを黒いオーラのようなもので包み込む。
『こ、これは……!』
『傷が治っていくだと……!?』
ワーウルフたちが目を見開き、それぞれ驚きを露わにする。
今まで自然回復以外に傷を治した経験などなかったのであろう。
「さて、さっそくだが、お前たちに聞きたいことがある」
『なんでしょう、強き者よ!』
サヤの言葉に、片膝をつきながら姿勢を正すワーウルフ。
後ろのビッグファング四体もそれに倣う。
「どうしてお前たちのようなモンスターがこの階層にいる? 普段はもっと奥の階層に生息していると聞いたが?」
『強き者よ、それは俺たちが普段いる階層からここまで追いやられたからです』
『ある日、迷宮の奥から、我らよりも強力なモンスターが押し寄せてきたのです!』
サヤの質問に、ワーウルフとビッグファングたちが口々に答える。
「んにゃ〜、やっぱり迷宮の奥の方で異常事態が起きてるっぽいにゃね?」
「どうやらそのようですね」
ワーウルフたちの言葉を聞き、ヴァルカンとフランは予想が当たっていたと確信する。
【であれば先に進むのじゃ】
「ああ。そうだな、シグレ」
再び妖刀形態に変身し、サヤの手の中に収まるシグレ。
彼女を腰に差しながら、サヤは小さく頷く。
「ところで、お前たちはどうする? この場で我らの帰りを待つか、それともこのままついてくるか?」
ビッグファングたちに向かって、問いかけるサヤ。
今は戦力的にも足りているので、ワーウルフたちにその気がないのであれば、無理してついてこさせる必要もないと判断したのだ。
『ぜひお供させてください、強き者よ!』
『あなたほどの強者と一緒であれば、奥の階層にいるモンスターなど怖くはありません!』
サヤの問いかけに、ワーウルフとビッグファングたちは、尻尾をブンブン振りながら答える。
「よし、それでは奥に進むとしよう」
『『『はっ!』』』
奥へと歩き出したサヤのあとについていくワーウルフたち。
『がはははは! まるで飼い犬だな!』
『それをお前が言うのか……』
従順なワーウルフたちを見て笑い声を上げるグランペイルに、ダークは呆れた様子を見せる。
ちなみに、サヤはワーウルフを〝ウル〟と名付け、ビッグファングたちを順番に〝ワング〟、〝ツーグ〟、〝スリーグ〟、〝フォーグ〟と名付けた。
「あ、相変わらず安直な名付けですね……」
サヤの名付けのセンスに、苦笑するアリサ。
しかし、当のワーウルフ――ウルたちは……
『よっしゃぁぁ! 今日から俺の名は〝ウル〟だ!』
『『『ワォォォォォォ――ンッッ!』』』
……と、興奮した様子で叫びや遠吠えを上げている。