六十九話 指名依頼
こんな時間にいったい誰だろうか……。
少々不思議に思いながらも、フランは玄関へと向かう。
少しすると、フランは一人の初老の男を連れてきた。
「これは食事中であったか。それに来客中とは、朝早くから申し訳ない」
テーブルの上に並ぶパンケーキや、サヤたちの姿を見て、男は詫びの言葉を口にする。
「朝早くからどうしたのですか、〝ギルドマスター〟」
「フラン嬢、実は冒険者ギルドから緊急の指名依頼をしたくてな。いきなりで申し訳ないのだがコレを読んでほしい」
男――会話の内容から察するに、冒険者ギルドのギルドマスターから、フランに一枚の羊皮紙が手渡される。
「迷宮の異変ですか……」
「ああ、普段では迷宮の奥の層にしかいないようなモンスターが、下層で現れるようになってな。すでに冒険者の何人かが犠牲になっている。今回はその原因を探り、可能であれば解決してほしい」
羊皮紙に目を通しながら、フランとギルドマスターがそんなやり取りを交わす。
どうやら、Sランク冒険者である彼女に指名依頼をしなければならないほどに、事態は深刻なようだ。
「皆、申し訳ありません。私はこれから冒険者ギルドへと向かいます。……マスター、何人か同行する冒険者を募ってください」
「依頼を受けてくれて助かる、他の冒険者については、これから募集を――」
フランとマスターが、依頼に向けてやり取りを進める最中であった。
「む? モンスターと戦うのか? であれば我も同行したい」
サヤがそんなことを言い始めた。
「サヤ、いいのですか……?」
意外そうな表情で、サヤに問いかけるフラン。
てっきりバカンスを堪能し尽くすつもりだと思っていたのだから当然だ。
【サヤの前で戦いの話をすればそうなるのじゃ】
「旦那さま、次なる武勲の報告を楽しみに待ってますね♪」
呆れた様子で言うシグレに、新婚旅行中だというのに、マリナまでサヤの手柄を願うようなことを言い出す。
「フラン嬢、そこの彼は何者なのだ?」
急に会話に入ってきたサヤに、不思議そうな表情を浮かべながら質問するギルドマスター。
「ギルドマスター、彼の名前はサヤといいます。模擬戦ではありますが、私と互角に戦えるほどの剣士です」
「なんと……! Sランク冒険者であるフラン嬢と互角とは、ぜひとも参加願いたい!」
フランの話を聞くと、少々興奮した様子を見せるギルドマスター。
サヤたちに軽く自己紹介すると、依頼内容の説明や、事態を解決してくれれば報酬をたっぷりとはずむ、などと伝えられる。
『サヤ様が行くなら、俺も参加するぜ!』
『無論、ご主人とサヤ殿が行くのだ、妾も同行しよう!』
グランペイルとダークが張り合うように参加の意志を告げる。
その横でギルドマスターが、「犬と猫が喋っている……!?」などと、度肝を抜かれている。
「久々のフランちゃんとの冒険者活動、腕がなるにゃん!」
ヴァルカンもやる気満々といった様子だ。
「どこまで役に立てるかわかりませんが、私も同行します!」
【パートナーのワシがいなければ始まらんからの。サヤよ、とっとと終わらせて、またバカンスを楽しむのじゃ!】
グランペイルたちに続き、アリサとシグレも名乗りを上げる。
皆の参加表明に、サヤは大きく頷く。
「決まりですね。皆、本当に感謝します。……というわけですので、他の冒険者たちの募集は不要です、ギルドマスター」
「了解した。貴君らの幸運を祈る」
フランの言葉に頷くと、ギルドマスターはさらに詳細を伝えたのちに、屋敷をあとにするのであった。
「フラン、その迷宮とやらはどこにあるのだ?」
「サヤ、迷宮はこの王都から街道で少し行った場所にあります。朝食を済ませたら準備を始めましょう」
「ああ、了解だ」
そんなやり取りを交わすと、サヤたちは朝食を再開する。
美味しいパンケーキで英気を養うと、それぞれが戦いに向けて準備を始める。