六十八話 交差する一撃
翌朝――
「それでは始めますよ?」
「ああ、よろしく頼む」
屋敷の裏庭にて、木刀を手にしたフランと、同じく木刀を腰に差したサヤがそんなやり取りを交わす。
昨日、サヤから要望があったとおり、模擬戦をしようというわけである。
フランは上段に、対してサヤは中段に木刀を構えると、二人揃ってその場を飛び出した。
目にも止まらぬ速度で木刀による攻撃を繰り出し、そのまま交差する二人……かと思えば、サヤもフランも動きをピタっと止める。
その刹那であった――
パァンッッッ!
――そんな破裂音とともに、二人が手に持つ木刀が弾け折れてしまったではないか。
「……驚きました。まさか私とほぼ同じ速度で動けるとは、しかも攻撃の速度までほぼ同じなんて」
「なるほど、これがSランク冒険者の速度か」
互いに、弾け折れた己の木刀に視線を落としながら、そんなやり取りを交わすフランとサヤ。
模擬戦なのでフラン自身もスキルを使っていなかった。
サヤもスキルはもちろん、街中なのでスケルトンの姿では戦えず本気は出していなかった。
しかし、純粋な体術で……一撃だけだが、Sランク冒険者のフランと互角に剣を交えることができた。
それが意味するものはかなり大きいであろう。
「んにゃ〜! サヤくん、私と模擬戦した時より腕が上がってる気がするにゃん!」
『さすがサヤ殿だ、まさかご主人と互角に打ち合えるとはな……』
庭の片隅で模擬戦の行方を見守っていたヴァルカンとダークが、そんなやり取りを交わす。
【サヤよ、ホフスタッターでの戦いで、さらに成長しおったようじゃな】
ここに来てまだ成長するのかと、シグレは思わず舌を巻く。
「すごい、わたしは二人の動きを目で追うのがやっとでした」
「すごいわね、アリサ。私は目で追うことすら厳しかったわ……」
『まぁ、アークデーモンの俺を倒してしまうほどに強いからな、サヤ様は』
異次元の戦いを目の当たりにし、引きつった表情を浮かべるアリサとマリナのやり取りを聞き、グランペイルは満足そうに頷いている。
(Sランク冒険者、本気を出したらどれほどのものなのだろうか……。その時が来るのを楽しみにさせてもらおう)
木刀からフランへと視線を移しながら、いつか彼女の本気を見られる時がくることを想像し、その表情に微笑を浮かべるサヤ。
そんな彼の視線に気づくと、フランは少々頬をピンクに染め、視線を逸らすのであった。
◆
一時間後――
「ふわぁ〜、すごく美味しいです〜!」
【ほんとじゃな! これなら何枚でも食べられるのじゃ!】
屋敷のリビングにて、とろけた声を漏らすアリサとシグレ。
そんな二人の反応を見て、フランが「気に入ってもらえて何よりです」と、微笑を浮かべる。
食卓の席に着いた皆の目の前には、この国名産のハチミツがたくさんかかったパンケーキが並べられている。
パンケーキとハチミツの甘さに、アリサとシグレはすっかり虜になってしまったようだ。
「たしかに美味しいわね」
「ああ、たまには甘いものも悪くないな」
パンケーキをナイフとフォークで切りながら、マリナとサヤもそんなやり取りを交わす。
『おい、しっかり半分こしろ!』
『ええい、言われなくてもわかっておるわ!』
テーブルの端では、グランペイルとダークが少々言い争いしながら、同じ皿のパンケーキを一緒に食べている。
この二体、しょっちゅう言い争いや取っ組み合いをしているが、やはり仲がいいのでは……?
「んにゃ〜、甘いパンケーキに、サッパリしたシークワァーサージュースがぴったりにゃん」
ヴァルカンはこれまたこの国の名産である、甘さと酸味が特徴的な、シークワァーサーという果物のジュースを飲んでご満悦顔だ。
「さて、今日はどのようにもてなしましょうか――」
フランがサヤたちにそんな風に話しかけていたその時だった。
カーンっ、カーンっ!
庭の方から呼び出しの鐘の音が鳴り響いた。




