六十七話 フランの気持ち
「サヤ、やはり私に何かできることはありませんか?」
フランはそう言いながら、波打ち際で遊ぶシグレ、アリサ、そしてマリナを眺めながら、浜辺でリラックスするサヤの隣に座る。
自分の掛け替えのないパートナーであるダークを封印から救ってくれた。
それだけでなく、こうしてダークたちと再会できるように面倒までみてくれた。
その事実に、フランはどうしてもサヤに恩返しがしたくてたまらないといった様子だ。
「ふむ、そうだな……それでは、そのうちどこかで、我と模擬戦をしてくれないか?」
「模擬戦、ですか?」
サヤの提案に、フランは不思議そうに首を傾げる。
「ああ、Sランク冒険者の力がどれほどのものなのか、興味があってな。ぜひ手合わせを願いたい」
「……面白い人ですね。いいでしょう、私なんかでよければ相手になります」
サヤの答えに、少々苦笑しながら、フランはそんな風に答える。
そんな彼女から、今度はこのような質問がなされる。
「サヤ、あなたはハーレムというものに興味はありますか?」
「ハーレム……? なんだそれは?」
「なるほど、ハーレムを知らないのですか。モテそうな見た目をしているので、その辺のことには詳しいと思ってましたが……」
首を傾げるサヤを見て、何やらぶつぶつと呟くフラン。
そのまま少しの間呟きながら何やら考える様子を見せたあと――
「そうですね……ハーレムについては、また今度教えてあげます」
――そう言い残すと、その場を立ち上がり、自分もアリサたちに混ざりに行く。
『くくくく……これはご主人、本気なのではないか?』
「にゅふふふ……こんなフランちゃんを見るのは初めてにゃ。どうなるのか楽しみにゃん」
庭の陰で、サヤとフランのやり取りを眺めていたダークとヴァルカンが、ニヤニヤとそんなやり取りを交わしている。
『こ、こいつら、出歯亀じゃねーか……』
何やらニヤつく二人の様子を見ながら、グランペイルは引きつった表情を浮かべるのであった。
◆
その日の夜――
「綺麗ですね……」
【本当じゃな……】
浜辺を歩きながら空を見上げ、アリサとシグレがそんなやり取りを交わす。
上を見上げれば、雲ひとつない満点の星空が広がっている。
そして真っ直ぐ前を見れば、月と星の明かりに照らされた美しい夜の海を堪能できる。
「昼の景色も素晴らしいですが、夜の空と海も格別ですよ」
そんな言葉で夜の散歩をフランから提案され、サヤたちは再びビーチへとやってきたのだ。
「ふむ、確かに綺麗だな」
「こんなに幻想的な景色は初めてかもしれないわ……」
感想を漏らすサヤと、彼の腕に自分の腕を絡ませ、同じく感想を口にするマリナ。
そんなマリナのマリンブルーの瞳に、満点の星空が映り込み、まるで銀河のように美しく演出する。
「毎晩……私はこの星空を見上げ、必ずあなたが見つかるようにと願ってました」
『ご主人……』
フランの言葉を聞き、彼女の胸の中でダークは瞳を潤ませる。
ダーク自身も、暗い迷宮の中で同じことを願っていたのだ。
「そんな私たちが、こうして再会できたのもサヤのおかげなのですね……」
感慨深そうに、その事実を口にするフラン。
もう何度目になるだろうか、それほどに彼女はサヤに感謝しているのだろう。
【あ、あれ? 気のせいかの? フランの頬が赤くなっているような気がするのじゃが……気のせいじゃよね?】
「いえ、多分気のせいじゃないですよ……。はぁ…………」
シグレは何やら現実逃避をするような言葉を口にし、それを聞いたアリサが否定の言葉を口にし、ため息を吐く。
頼むから、もうこれ以上は勘弁して……。
そんな声が聞こえてきそうなオーラを、シグレとアリサは醸し出すのだが……サヤはそれに気づいた様子はないのであった。
『あーあ……サヤ様、何かと苦労しそうだな。……いや、サヤ様のことだからわりと大丈夫なのか?』
皆を端から見ていたグランペイルは、そんな感想を抱く。