六十五話 フラン
ショートボブの髪は輝く白銀、淡いヴァイオレットの瞳は少々切れ長、バランスの取れた美しいプロポーションの体に、タイトなスカートが特徴的な白と黒を基調とした冒険者衣装を纏う……そんなエルフの美少女だ。
『ご主人……っ!』
少女の姿を見るや否や、ダークがその場を駆け出した。
そして少女の胸に向かって跳躍する。
「ダークっっ!」
飛び込んでくるダークを胸の中にキャッチし、抱きしめるエルフの少女。
その瞳から次々と涙が溢れてくる。
「ふむ、あのエルフがダークの主人というわけか」
【どうやらそのようじゃな】
ダークとエルフの少女の反応を見て、そんなやり取りを交わすサヤとシグレ。
「んにゃ〜! 久しぶりにゃん!」
「ヴァルカンまでここに……! いったいどうなっているのですか?」
ヴァルカンに話かけられ、彼女の存在にも気づいたエルフの少女。
そんな彼女に、ダークとヴァルカンは事情を説明しつつ、サヤたちの紹介をする。
「なるほど……サヤ、あなたがダークを救ってくれたのですね。私の名前は〝フラン〟といいます。ダークを封印から解き放ってくれたこと、感謝に絶えません」
ダークを愛おしげに胸に抱えながら、サヤに向かって深く頭を下げるエルフの少女――フラン。
「気にするな。成り行きで助けることになっただけだし、こちらもダークには世話になったからな」
頭を下げるフランに、少々ぶっきらぼうな様子でサヤは答える。
自分から人に感謝を伝えることはできても、人に感謝を伝えられるのはどうにも気恥ずかしいようだ。
「ダーク、ヴァルカン、せっかく再会できたのだ。少しの間三人で過ごしてはどうだ? 我らは適当に宿屋でも探す」
『いや、サヤ殿、一緒にいてくれ。もっとサヤ殿のことをご主人に紹介したい』
「そうにゃ! それにもっとみんなにフランちゃんのことも知ってほしいにゃん!」
サヤの提案に、そんな風に返すダークとヴァルカン。
彼女たちの反応に、サヤはどう返したものか……と人差し指で頬をかく。
「あなたは私の恩人でもあります。そんな人物を放っておくことなどできません。よかったら私が拠点としている仮住まいの屋敷へと案内させてくれませんか?」
切れ長の瞳を優しく細め、サヤに問いかけるフラン。
三人にここまで言われては仕方ない。
サヤたち一行は、フランが泊まっている屋敷へと案内されるのであった。
◆
ギルドの外で、馬車をつかまえ揺られること少し――
「ふわぁ〜……」
【これはまた立派な屋敷じゃのぅ……】
馬車を降り、フランに案内された場所を見て、思わず声を漏らすアリサとシグレ。
目の前には立派な二階建ての屋敷があり、その後ろには浜辺と海が広がっているのが見える。
「さぁ、遠慮なく入ってください」
そう言って庭の門を開け、そのまま屋敷の中へと案内するフラン。
中は二階まで吹き抜けになっている広々とした空間が広がっていた。
生活感があまり感じられないほどに物は少ないが、造り自体はかなり洒落たものになっている。
「二階に空いている部屋がいくつかあるので案内します」
そう言って、階段をのぼり始めるフラン。
一行は彼女のあとについていき、それぞれ部屋に案内される。
サヤはマリナと夫婦だと馬車の中で伝えていたので、フランは気を遣い、二人を同じ部屋へと案内した。
グランペイルはサヤと別部屋になるのが少々寂しい様子だったが、ここは空気を読んで、アリサ、シグレと同じ部屋で過ごすことにしたようだ。
「素敵な景色ね、旦那さま……」
「ああ。そうだな、マリナ」
部屋のテラスに出て、目の前に広がる景色を堪能する二人。
眼下には整理された裏庭が、そしてその先には白い砂浜と、どこまでも済んだクリアブルーの海がどこまでも広がっている。
どうやら裏庭の扉を開ければ、そのままビーチに出られるようになっているようだ。
さすがは一流冒険者の拠点だ。
仮住まいだと言っていたのに、もはや高級宿屋も顔負けのクオリティである。
サヤとマリナはしばしの間、美しい景色と静かな波の音、そして二人の時間を過ごすのであった――。