六十三話 二人きりの時間
その日の夜、船の甲板にて――
「む、シグレ、お前もきたのか」
【なんじゃ、サヤも風にあたりにきたのか?】
サヤが風にあたって涼んでいると、シグレが甲板へと現れた。
【マリナはどうしたのじゃ?】
「今は部屋で寝ている。少々酒を飲み過ぎたようでな」
【昼に続き、夜もけっこうな量を飲んでおったからのぅ。アリサのやつも部屋で寝ておるわ】
少々呆れた表情でサヤに答えるシグレ。
この船に用意された酒があまりに美味しいので、マリナたちは親子揃って酔い潰れてしまったのだ。
「そういえば、お前とこうして二人きりになるのは久しぶりだな」
【そうじゃな、最近は色々な出来事があったからの。こうしていると、お前と出会ったばかりのことを思い出すのじゃ】
そんな風に答えながら、サヤの隣に立つシグレ。
思えば、全てはシグレと出会ったことによって始まった。
迷宮で他のモンスターから逃げ惑う毎日を送っていたサヤ。
それが彼女と出会うことで戦う意志と力を手に入れ、迷宮を支配した。
その後もエルフの里を救い、旅に出て様々な経験をすることとなったのだ。
「どれもこれも、お前がいたからできたことだ。シグレ、我はお前に感謝している」
【な、なんじゃ、急にそんなことを言い出しおって……!】
サヤに感謝を伝えられ、少々恥ずかしげな様子をみせるシグレ。
そんな彼女に、「お前は我にとって、かけがえのない存在だからな」と、サヤはさらに言葉を紡ぐ。
【サヤよ……】
かけがえのない存在、それはシグレにとっても同じことだ。
そしてサヤもそう思っていてくれたことに、シグレの瞳が潤む。
そのまま二人は、出会った頃の会話に花を咲かせる。
「そういえば、シグレと話していて思い出したのだが……」
会話の途中、サヤはふと、とあることを思い出す。
【む? どうしたのじゃ?】
「この前手に入れたスキルだが、グランペイルが召喚されている状態で使うとどうなるのかと疑問に思っていてな」
【《サモンゲート》のことか、確かに気になるのじゃ。ちょうど誰もおらんし、ここで試してみるか?】
「よし、《サモンゲート》――」
シグレの提案に頷きつつ、スキルを発動するサヤ。
サヤたち以外に誰もいない甲板の上に、紫色の魔法陣が描かれる。
するとその中から……
『ブモっ? なんだここは……?』
……そんな声とともに、一体のミノタウロスが現れた。
「これは驚いた……」
【まさかミノが現れるとはの……】
予想外の結果に、目を大きくするサヤとシグレ。
そう、現れたのはエルフの里にいるはずのミノだったのだ。
『グギャ!? なんだここは! あれ? そこにいるのはサヤ様ですか!?』
ミノどころではない。
彼に続き、今度はゴブイチまで現れたではないか。
【なるほど、どうやらこのスキルはグランペイルを召喚するだけでなく、お前の配下を召喚する効果があるようじゃの】
「どうやらそのようだな」
『ブモっ、いったいどうなっているんです、サヤ様?』
『グギャっ、俺たちは里の見回りをしてたんですが……』
サヤとシグレのやり取りを聞きながら、問いかけるミノとゴブイチ。
そんな二体に、サヤはスキルを使った結果であること、そしてその効果などを伝える。
『ブモっ! さすがはサヤ様、素晴らしい力をお持ちだ!』
『グギャ! ということは、サヤ様と離れていても、戦いとなればすぐにお力になれるということですね!』
サヤの説明に興奮した様子を見せるミノとゴブイチ。
彼らの言うとおり、このスキルがあれば、たとえ相手が強敵であろうと、モンスターたちを呼び出して圧倒することができるであろう。
それだけではない。
敵の隙を突いて使えば、不意打ちや強襲にも使えるはずだ。
「ふむ、このスキルについてはもう少し研究する必要がありそうだな」
【そうじゃな、さっそく使い方を色々考えるのじゃ】
ひとまず、見つかって騒ぎになる前にミノたちには帰還してもらい、そのまま様々な戦いを見出すために、スキルについての考察を始めるサヤとシグレ。
久しぶりの二人きりの時間を、サヤたちは深夜まで楽しむのであった――。