六十一話 リューイン再び
一週間後――
サヤたちは侯爵領、リューインへとたどり着いた。
今回、ダークの主人に会うために向かう場所は〝ナツイロ王国〟という常夏の島国だという。
島国であるナツイロ王国に向かうには、船が必要だ。
このリューインの近くには港があり、ナツイロ王国への直行便が出ているのだ。
「ふむ、やはりこの都市は美しいな」
辺りを見渡し、声を漏らすサヤ。
「ほんと、旦那さまの言ってたとおり、素敵な街ね……」
サヤの隣で、感嘆の声を漏らすマリナ。
どうやら、彼女もこの美しい都市の景色を気に入ったようだ。
「とりあえず、券売所に行くにゃ」
『まずは全員分のチケットを確保しなければな』
そう言って、ゴンドラの停まっている桟橋へと歩き出すヴァルカンとダーク。
彼女たちの後に続き、サヤたちはゴンドラを確保すると、そのまま乗り込む。
「私、船に乗るなんて初めてだわぁ……」
サヤの隣でうっとりとした表情を浮かべ、ゴンドラに揺られるマリナ。
旦那であるサヤとの新婚旅行がよほど嬉しいのか、彼女にしては珍しくワクワクした様子だ。
(ま、まぁ、これくらいは仕方ないのじゃ……)
(今回の主役はお母さまですからね……)
シグレにアリアは、サヤの隣で密着しているマリナを羨ましく思うも、今回ばかりは邪魔することはしない。
新婚旅行がどれほど大切な催しか、二人ともしっかり理解しているのだ。
むしろ、そんな旅に自分たちも同行させてもらっていること自体が幸運なことなのだと。
『おい、サヤさまとマリナの邪魔をするなよ!』
『ふんっ! 貴様に言われなくてもわかっているわ!』
相変わらずな雰囲気で、グランペイルとダークも隅の方でそんなやり取りを交わしている。
そんなこんなで商業区へと到着すると、一行はナツイロ王国へと向かうためのチケットを確保するために、券売所へと向かう。
『ラッキーだったな、サヤ様』
「ああ、まさか明日のチケットを手に入れることができるとはな」
ワクワクした様子で話しかけるグランペイルに、小さく頷きながら答えるサヤ。
チケットは無事に人数分手に入れることができた。
それも明日の朝に出向する便がたまたまあったという、最高のタイミングだったのだ。
『もうすぐ、ご主人に会えるのだな……』
「会えたらたっぷり甘えるといいにゃん」
少しだけ瞳を潤ませながら、期待に胸を膨らませるダーク。
それに優しい表情で声をかけるヴァルカン。
本当に、彼女たちの絆は深いもののようだ。
「お、サヤたちじゃねーか!」
「また来てたんだね!」
向こうの方から、そんな声が聞こえてくる。
サヤたちが声のした方向を見ると、ダニーとケニーが歩いてくるではないか。
いつもの軽鎧を身につけているのを見るに、都市の見回り警備をしていたのだろう。
「お前たちか」
「この前はありがとうございました!」
相変わらず憮然とした挨拶をするサヤに、伯爵の件の礼を言うアリサ。
「おや? そっちのべっぴんさんは誰だい?」
マリナの方を見て、問いかけるケニー。
ダニーはマリナのあまりの美しさに少々呆けた様子だ。
「ダニー、ケニー、彼女はマリナ。我の伴侶だ」
「初めまして、サヤさまの妻のマリナといいます。お二人の話はサヤ様から聞いてます。この度は伯爵の件でご助力いただきまして、感謝に絶えません」
サヤに応じて自己紹介、そして伯爵の件の礼を述べ、深く頭を下げるマリナ。
ダニーたちのことはサヤから聞いていた。
彼女にとっても、ダニーたちは恩人にあたる人物だ。
「い、いやぁ、こんな美人さんに礼を言われると照れちゃうね……」
「っていうか、サヤ! お前こんな美人な奥さんがいたのかよ!」
ケニーは照れた様子で頭をかき、ダニーの方は「羨ましいぞ!」とばかりにサヤに食いついている。
どうやら二人ともちょうど仕事が終わるようなので、一緒に夕飯をともにすることになる。
雰囲気のいい酒場で料理を堪能していたのだが、ダニーがサヤとマリナの夜の生活にまで触れ始めたあたりでケニーが彼の頭に拳を落とすなどのハプニングも起きた。
一緒に大きな戦いを潜り抜けた者たちの宴は、大いに盛り上がったのである。