六十話 次なる旅へ
翌日――
「さて、ヴァルカン、それにダーク、お前たちはこれからどうする?」
自宅のリビングで、彼女たちに問いかけるサヤ。
伯爵の件は片付いた。
であれば、二人は仲間たちのもとに戻るべきだろう、そう思っての相談だ。
「サヤくん、私たちは仲間たちにダークちゃんが戻ったことを報告しに行きたいと思うにゃん」
【まずはご主人がいる場所へと向かう旅に出るつもりだ。そこでなんだが……サヤ殿、よかったら一緒に来てくれないか? 恩人であり、第二の主人であるサヤ殿を紹介したいのだが……】
ヴァルカンに続き返答するとともに、ダークはそんな風にサヤに問いかける。
主人であるエルフの少女に会いに行きたい。
しかし、大好きなサヤからも離れたくない、そんな気持ちで……。
「ふむ、また旅に出ることになるのか……」
少し考え込む様子をみせるサヤ。
彼としても、新たな世界に興味はあるし、Sランク冒険者であるダークの主人にも会ってみたい気持ちもある。
しかし、ダークの主人であるエルフの少女は他国にいると聞く。
そうなれば里を長期間離れることになるし、何よりマリナをまたも放っておくことになるのはいかがなものか……。
そんな風に考えたのだ。
「旦那さま、もし旅に出るなら私も連れていってくれないかしら?」
考え込むサヤの隣で、マリナがそんな提案をする。
「む、そうか、その手もあったか」
マリナの提案を聞き、ポンっと手の骨を打ち鳴らすサヤ。
サヤの反応を見て、マリナが「せっかくですから、新婚旅行にしましょう♪」などとウキウキした様子を見せる。
【し、新婚旅行じゃと!?】
「お母さま! また抜け駆けするつもりですか!」
会話を聞いていたシグレとアリサが、させるか! といった様子で食いついてくる。
それに対し、マリナは「うふふ……っ、よければ二人も一緒にくる?」と、余裕の笑みを浮かべる。
「「ぐぬぬぬ……!」」
サヤの正妻を自負するマリナの振る舞いに、悔しげな様子をみせるシグレとアリサ。
やってやろうではないか! といった感じで、今回の旅に二人も同行することに決めるのであった。
(うふふっ……二人とも、頑張りなさいね?)
心の中で、マリナは二人にこっそりとエールを送る。
マリナ的には、アリサとシグレも一緒に、サヤのものになってもいいと思っているのだ。
エルフには一夫多妻で暮らす家庭があるし、人間にも貴族や実力のある冒険者なども一夫多妻で暮らすことが国から認められている。
アリサは愛する愛娘、そしてシグレはサヤとともにこの里を救ってくれた恩人、マリナとしては、そんな大切な二人がサヤに受け入れてもらうことを望んでいる部分もあるのだ。
もっとも、それを二人に伝えて好き放題されるのは、一人の女として面白くないと思ったりもする。
あくまでサヤの一番は自分でありたい……。
そんな思いがあるからこそ、このような対応になっているのである。
「となると、あとの問題は、里を長期間離れなければならない点に関してだな」
マリナの考えなど露知らず、サヤは次の問題点を考える。
と、そこへ、サヤの膝の上で丸くなっていたグランペイルから、こんな提案がなされる。
『サヤ様、よかったら、俺が里に結界を張らせてもらおうか?』
――と……。
「結界だと? どのような効果があるのだ?」
『里に暮らすエルフやモンスターたちに、悪意や敵意を持った者の侵入を阻む効果のある結界だ。昨日いたミノとかいうモンスター程度の実力を持つ者までなら侵入を防げると思うぞ』
「なるほど、となるとモンスターや冒険者でいうBランク程度の存在の侵入を防げるということか、お前は優秀なスキルを使えるのだな」
グランペイルの説明を聞き、感心したかのように、その頭にポンっと手を置いてやるサヤ。
それに満足そうな様子で、ドヤっ! とした表情を浮かべると、グランペイルはダークに視線を送る。
『き、貴様! また挑発しおってからに……っ!』
グランペイルの安い挑発に乗り、その場を飛び出したダーク。
そのままグランペイルに飛びかかると、猫と子犬で、わちゃわちゃと取っ組み合いを始めるのであった。




