五十六話 第二形態
「ったく! なんて数なんだい!」
戦斧を振るい、レッサーデーモンを蹴散らすケニー。
その横ではダニーも「おらよっ!」と、剣を薙ぎ払い、次々にレッサーデーモンを斬り伏せていく。
「住人は広場に避難しろ!」
「やらせるか!」
住人に襲い掛かろうとするレッサーデーモンに剣を突き刺しながら、オヴィとディンを始めとした騎士たちが避難誘導する。
「よくわかんないけど、私たちも加勢するよ!」
「「「おうっっっ!」」」
そんな声とともに、レナが冒険者を引き連れて騎士たちに加勢する。
他にも、回復スキルを使える住人が、傷ついた騎士たちを癒し、戦線に参加している姿が見受けられる。
「《円月閃》……ッッ!」
裂帛の声を上げながら、アリサもサヤにもらった刀とスキルを駆使して、レッサーデーモンを駆逐していく。
まだまだ動きに危ういところもあるが、何とか騎士たちと連携して奮闘してみせている。
そんなアリサの視線が、天空に浮かぶ大規模な魔法陣を捉える。
方角は伯爵の屋敷のある方……つまり、サヤたちがグランペイルと戦っている場所だ。
(サヤさま、どうかご無事で……!)
駆けつけたい衝動に駆られるも、アリサはそれをしない。
自分が行っても足手まといになることを理解しているし、何より、愛しいサヤのことを信じているからだ。
アリサは尽きかけたマナを補充するために、太ももに装備していたポーションを手に取り、一気に呷ると、レッサーデーモン目掛けて攻撃を再開する。
◆
『ちっ……変身したか』
忌々しげに声を漏らすダーク。
その視線の先には、紫色のドラゴンの様な化け物が佇んでいた。
『俺をこの姿にさせるまでに追い詰めるとは……貴様ら、必ず血の海に沈めてくれるッッ!』
血走った瞳で呪詛を吐くドラゴン――グランペイル。
悪魔にはいくつかの姿を持つ個体が存在する。
グランペイルもそのうちの一つである。
そして、変身後は格段に戦闘力が上がるとされている。
その証拠に、先ほどとは比べ物にならないほどのプレッシャーを、グランペイルは放っている。
だが――
「いくぞ、シグレ」
【ああ、ワシたちの前に立ち塞がるなら、斬り伏せるのみじゃ】
――サヤと妖刀形態のシグレは臆した様子を見せるどころか、好戦的なやり取りを交わす。
それを面白く思わなかったのか、グランペイルは『クソがぁぁぁぁぁぁ――ッッ!』と咆哮を放った。
そして周囲にいくつもの魔法陣を展開し、それぞれから紫電を帯びた火球を放ってくる。
サヤ、ダーク、ヴァルカンは、それぞれ緩急をつけたステップを繰り返し、何とか火球を躱してみせる。
行き場を失った火球が地面に着弾すると、稲妻を纏った小規模な爆発を起こしたではないか。
(紙一重で躱すのは危険か)
その光景を目の当たりにしたサヤは、さらにステップの幅を大きくし、火球を避ける。
そして――
「ここだ……ッ!」
――瞬時に火球による弾幕の薄いルートを見極め、グランペイルに向かって急接近する。
『馬鹿めッッ!』
迫り来るサヤを嘲るように笑うと、グランペイルはその場で半回転。
自身の持つ長大な尻尾を、サヤに向かって薙ぎ払ってきたではないか。
『そう簡単にやらせるか! 《ロックエッジ》!』
「私たちのことも忘れてもらっちゃ困るにゃん!」
ダークが尻尾を焔の剣から、岩石のような纏った大剣のような形状に変えてグランペイルの右サイドに現れる。
その反対側からは、こちらも火球の弾幕を掻い潜ったヴァルカンが、ハンマーを振りかぶりながら急接近する。
『グッ!?』
彼女たちの接近に気づき、呻き声を漏らすグランペイル。
しかし、サヤに向かって勢いを乗せたテールアタックを繰り出していたため、その動きを止めるができない。
そのまま右脚と左の脇腹に、ダークとヴァルカンの攻撃による大ダメージを負うこととなる。
「喰らえ……!」
ダークとヴァルカンの攻撃によって、グラペイルのバランスが崩れたところに、サヤがその場で跳躍し――
「縦・一文字斬り――ッッ!」
――叫び声とともに、グランペイルの顔にシグレによる斬撃を放った。
『ガギャァァァァァァ――ッッ!?』
グランペイルが耳を劈くほどの悲鳴を上げる。
そして最後の抵抗とばかりに、魔法陣を周囲に大量展開する……が――
次の瞬間、グランペイルの顔は真っ二つ割れ、その場に大きな音を立てて崩れ落ちた。
それとともに、展開されていた魔法陣が消え失せるのであった。
『見事だ! サヤ殿!』
「グランペイルを倒しちゃったにゃん!」
グランペイルが完全に沈黙したのを確認すると、ダークとヴァルカンが歓喜の声を上げる。
「……お前たちがいたおかげだ」
サヤはそう言って、グランペイルの血を払い、シグレを静かに納刀する。
【まったく、素直じゃないのぅ】
サヤの照れ隠しとも取れる言動に、シグレは苦笑するのであった。