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五十三話 ホフスタッター伯爵

 その日の夜――


【む? サヤよ、何を難しい顔をしておるのじゃ?】


 ベッドの上で、何やら考えているかのような表情を浮かべるサヤに、シグレが問いかける。


「シグレよ、伯爵を捕まえる際に何が起きるかわからん。であれば万全の状態で事に当たりたい。しかし、街中で本来の姿で行動するわけにもいかぬから、どうしたものかと思ってな」


「あ、確かにそうですね」


 サヤの言葉を聞き、頷くアリサ。


【であれば、こんなのはどうじゃ?】


 そう言って、サヤの顔に手をかざすシグレ。

 するとサヤの顔が漆黒の光に包まれた。

 やがて光が止むと、その中から無機質な仮面に包まれたサヤの顔が現れた。


「なるほど、これであれば我がスケルトンであるということも、他の騎士や住人たちにバレることはないな」


 仮面の後ろに、エルフ状態のサヤと同じ色の髪がついているのを確認しながら、鏡を覗き込むサヤ。


【あとは手も籠手で包んでやれば完璧じゃの】


 そう言って、サヤの手に自分の手をかざすと、今度は漆黒の籠手がサヤの手を包み込んだ。


 騎士たちには、サヤが戦う時に使用するマジックアイテムだと説明すれば、この格好にも納得してくれるだろう。


「何事も起きることなく、円滑に伯爵の身柄を拘束できれば一番なのですがね……」


 万事を考え、準備をするサヤたちを見て、アリサは少々不安そうな表情を浮かべる。

 何かが起きる……と、彼女のエルフの勘が囁いているのだろうか……。


 ◆


 翌日――


「来たか……」


 伯爵の屋敷の陰で、静かに呟くサヤ。


 屋敷に向かって、豪奢な造りの馬車が何台も走ってくる。

 とうとう、今回の事件の元凶――ホフスタッター伯爵が戻ってきたのだ。


 馬車が屋敷の前に停車する。

 それを見計らって、待機していた騎士たちが馬車を包囲する。


「な、何のつもりだ!?」


「いったい何が起きている……っ!」


 オヴィとディンを始めとするこの都市の騎士たちに取り込まれたことで、伯爵の護衛たちが、動揺した声を漏らす。


「うるさいぞ! 何の騒ぎだっ!」


 そんな声とともに、馬車の中から太った男が現れた。


「ホフスタッター伯爵の、あなたの身柄を騎士団で拘束させてもらう」


「これは皇帝陛下の(めい)だよ」


 伯爵へと近づき、用件を告げるダニーと、皇帝からの指令状を取り出すケニー。


 身柄を拘束? 皇帝陛下からの指令!? 何がどうなっている……ッ!

 突然の出来事に、目を白黒させる伯爵。


 伯爵の世話係と思われる執事服の男が、ケニーから羊皮紙を受け取ると、驚愕のあまり表情を歪ませる。


「ええい! 寄越せッ!」


 執事から乱暴に羊皮紙を奪う伯爵。

 その内容を見るうちに、顔からみるみる血の気が引いていく。


 当然だ。

 自分の悪事、その証拠が第三者に掴まれた上に、この国のトップ……皇帝にも知られてしまったのだから。


「あの男が伯爵……っ!」


 屋敷の陰から、瞳を鋭く細め伯爵を睨みつけるアリサ。

 その右手は刀の柄に添えられ、体は小刻みに震えている。


「落ち着け、アリサ」


 アリサの肩に、優しく手を置くサヤ。

 彼の声を聞き、幾分か冷静さを取り戻したのか、アリサは大きく息を吐く。


 もっとも……サヤ本人でさえ、伯爵を前に感情が乱れているようだ。

 アリサに落ち着けと言いながらも、自分自身もいつでも飛び出せる態勢に入り、妖刀形態へと変身したシグレに左手を添えている。


 その後ろでは、いつ何が起きてもいいように、ハンマーを持ったヴァルカンと、その隣にダークも待機している。


 いったいどうすればいいのか……。

 そんな様子で、伯爵と騎士たちを交互に見つめる執事服の男。

 護衛たちは、伯爵の悪事が明るみになった事により、すでに投降する意思を見せている。


「ふ、ふざけるなぁッ! こんなものはデタラメだ……ッッ!」


 激昂した様子で令状を地面へと叩きつける伯爵。


 皇帝からの書状をそのように扱うとは……っ!

 ダニーを始めた騎士たちが一斉に殺気を帯び、伯爵との距離をジリジリと詰め始める。


「くぅ……っ、こ、こうなれば……ッッ!」


 呻き声を漏らす伯爵。

 それとともに、懐から禍々しい色をした手のひら大の水晶のようなものを取り出した。


 いったい何をするつもりだ、とダニーを始めとした騎士たちは身構える。


「は、伯爵様! それは……っ!」


「うるさい! 黙れッッ!」


 制止するかのような執事の男の声を無視して、伯爵は水晶を地面へと叩きつけた。

 地面へと叩き落とされたことで、水晶は砕け散る。


 そして次の瞬間、砕け散った水晶から、凄まじいほどの毒々しい紫の光が放たれたではないか――。

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