五十一話 伯爵領へ
三日後――
サヤたちは侯爵の屋敷へと呼び出された。
「皇帝陛下より返事が届いた。早急にホフスタッター伯爵の身柄を確保しろとのことだ」
侯爵が皇帝から届いた内容をサヤたちに説明する。
いよいよ、今回の件について動く時がきたようだ。
本来であれば帝都から騎士団を派遣したいところだが、帝都から伯爵領まではかなりの距離があるのと、今はとある事情で騎士団を動かしにくいらしい。
そこで、伯爵の身柄を確保するまでの工程を、侯爵に一任すると返事が来たようだ。
現在、伯爵は前情報通り公国にいる。
今から伯爵領に向かえば、伯爵が戻ってきたタイミングで捕縛することができるだろうと、侯爵は話す。
「伯爵の捕縛任務には、この二人を向かわせる予定だ」
粗方の内容を話終えると、侯爵は後ろに控えていた二人の騎士の方へと目をやる。
「よっ! 三日ぶりだな!」
陽気な感じで言うのは、先日、サヤたちをこの屋敷へと案内してくれた、騎士隊の副隊長ダニーだ。
そしてもう一人は――
「アタイの名前は〝ケニー〟だ、よろしくね!」
――ダニーと同じく、軽鎧姿の女騎士が挨拶をする。
赤茶色の髪をポニーテールでまとめ、同じ色の瞳は少々目つきがキツいが、どことなく優しさを感じる……そんな女騎士だ。
この二人が、現地にいる信用のおける騎士たちと連携し、伯爵の身柄を拘束するという算段だ。
今回の関係者であるということと、冒険者でもあるという理由で、サヤたちは侯爵からの依頼という形で、ダニーたちに協力することになった。
「いよいよですね……っ!」
エルフの里を襲い、大切な者たちの命を奪った伯爵への復讐が果たせる……。
待ち望んだ時が近づいてきていることに、アリサは瞳を鋭く細め、声を漏らす。
サヤたちは荷物などの準備を終えると、ダニーとケニー、二人の騎士を加えて伯爵領ホフスタッターへと旅立つのであった。
◆
「それにしても、久しぶりじゃないか、ダーク」
街道を荷馬車に揺られながら進む中、女騎士ケニーがダークへと話しかける。
『本当に久しぶりだな、こうして二人に会えるのも、サヤ殿のおかげだ』
「話はダニーから聞いたよ。サヤ、アンタはダークたちの恩人なんだってね?」
ダークの返事に頷きながら、サヤに話を振るケニー。
そんな彼女に、サヤは「成り行きでな」と、無愛想に答えるのだが、なぜかケニーは、サヤのそんな態度が気に入ったようで、「そうかそうか!」と面白そうに笑う。
「ってーかよ、ヴァルカンちゃん、サヤたちはダークがアレのことを知ってるのか?」
様子を窺うように、ヴァルカンへと尋ねるダニー。
サヤとシグレ、それにアリサは「「「アレのこと……?」」」と首を傾げる。
「ダークちゃんの正体がベヒーモスだってことは、すでにみんな知ってるにゃよ」
「ああ、そうだったのか! それなら安心だな」
ヴァルカンの答えを聞き、ガハハ! と笑うダニー。
なるほど。ダニーとケニーは、ダークの正体を知るほどに彼女たちと親しい仲のようだ。
二人がダークの正体を知っているのを見るに、恐らく侯爵もそれを承知の上で関係があるのだろう。
「サヤくん、もしよければ、サヤくんのことも二人に教えてあげちゃダメかにゃ? この二人なら安心できるにゃん」
「ふむ……ヴァルカンがそう言うのであれば大丈夫か」
ヴァルカンの問いに、徐に返事をするサヤ。
ダニーとケニーは何のことだ? といった表情を浮かべる。
そんな二人の前で、サヤは元の姿へと変身してみせる。
「ス、スケルトン……だと!?」
「サヤ……アンタもモンスターだったのかい!?」
スケルトンの姿に変身したサヤを見て、素っ頓狂な声を上げるダニーとケニー。
しかし、ダークの存在でモンスターと行動することに慣れてしまっているのか、敵意を向けてくることはない。
【ちなみに、ワシも元の姿はこんな感じじゃ】
そう言って、今度はシグレが妖刀形態へと変身し、サヤの手の中に収まる。
「こ、今度はシグレちゃんが武器に変身しちまった……!」
「まさか、インテリジェンスウェポンってやつかい!?」
サヤとシグレに興味津々といった様子で、ダニーとケニーは、サヤたちに質問責めを開始するのであった。




