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五十話 贈りもの

「サヤ様、どうしたのでしょう……?」


【何やら気になることがあると言っておったが……】


 アリサとシグレが心配そうな声を漏らす。


 海の幸を中心とした料理を心ゆくまで堪能し、レストランをあとにした一行。

 その途中で、サヤは「少し気になることがあると」言い残し、一人でどこかへと行ってしまったのだ。


『サヤ殿のことだ、心配することはなかろう』


「男の子には一人でいたい時もあるってもんにゃ」


 二人に、心配するな、と言い聞かせるダークとヴァルカン。


 実際、サヤは刀がなくとも優れた体術を使えるし、豊富な魔法スキルに、以前ガリスから手に入れたレッサースキルプロテクションリングもある。

 そこらのゴロツキや、冒険者なんかでは相手にならないであろう。


 それもそうかと、シグレたちは幾分か安心した表情を浮かべると、宿屋へと戻るのであった。


 ◆


 小一時間後――


「ふむ、少し遅くなってしまったか」


 そんな風に呟きながら、表通りを歩くサヤ。

 その手にはいくつかの上質そうな紙袋を持っている。


「うわっ、めっちゃイケメン……!」


「ほんとだ、エルフの中でも極上の美青年って感じね……」


 美しい銀の髪を靡かせながら、悠然と歩くサヤの姿を見て、年頃の娘たちがそんな会話を交わす。


 なんだか見られている気がするが、その辺に疎いサヤは「……?」とキョトン顔を浮かべている。

 そんなサヤの純粋な反応を見て、娘たちがいわゆるギャップ萌えというヤツにやられているのだが……もちろんサヤにはそれすらもわからない。


(変なヤツらだ)


 だいぶ失礼な感想を抱きながら、サヤは宿の方へと歩いていくのであった。


 ◆


「戻ったぞ」


 宿泊室へと戻ってきたサヤ。


 シグレとアリサが彼を迎え入れる……のだが――


【む? なんじゃ、その紙袋は?】


「何か買い物でもされたのですか?」


 ――サヤの持つ紙袋を不思議そうに見つめる二人。


 そんな二人に、サヤは「開けてみてくれ」と短く言うと、紙袋をそれぞれ差し出した。


「え? こ、これって……」


【サ、サヤ、まさか……】


 紙袋から出てきた、上品な装飾がされた小さな箱を見て、瞳を丸くしながら声を漏らすアリサとシグレ。


 いいから開けてみろ、と促すサヤに従い、箱を開けると……それぞれ中にはリングが入っているではないか。

 アリサの方にはアイスブルーの宝石が嵌まったリング、シグレにはアメジストヴァイオレットの宝石が嵌まったリングだ。


【サ、サヤよ、コレを……】


「わたしたちにプレゼントするために、別行動を……?」


 箱の中に収まるリングを潤んだ瞳で見つめながら、問いかけるシグレとアリサ。


「ああ、二人とも欲しそうにしていたからな」


 彼女たちの問いかけに、サヤは何の気なしに答えるのだった。


「で、でも……このリング、すごく高かったですよ?」


【そうじゃ! いったいどうやって……】


 目玉が飛び出るくらい高かったリングを、サヤがどのように手に入れたのか、それが気になるアリサとシグレ。


 答えは簡単だ。サヤは迷宮の中にいくつものコレクションを持っていた。

 その中に金貨や銀貨があり、それをこの旅に出る際にそれなりの量を持ってきていたのだ。


 サヤの持ってきた金銭の中には白金貨と呼ばれる硬貨がいくつもあった。

 通常、金貨には、二枚でこの都市であれば四人家族が一ヶ月暮らしていけるくらいの価値がある。


 白金貨はその金貨の十枚分の価値があるので、シグレたちのジュエリーを買ってやるくらいの余裕は十分にあったのだ。


「大切なコレクションを使って指輪を買っていただけるなんて……」


【サヤよ、ワシは感動してしまったのじゃ……!】


 頬をピンクに染め、サヤに感謝の思いを伝えるアリサとシグレ。

 嬉しさが感極まってしまったのか、リングを薬指に嵌めてほしいと、サヤにおねだりする始末だ。


 よく意味がわかっていないサヤは、「いいだろう」と、軽く返事すると、それぞれの薬指にリングを嵌めてやる。

 二人のリングには魔法がかけられており、装着者の指に合わせてサイズ調整してくれるので、ピッタリと嵌まってくれる。


【ふわぁ……】


「素敵です……」


 自分の薬指に嵌まったリングを見つめ、甘いため息を吐くシグレとアリサ。

 だが、そんな二人の視線がサヤのそばに置かれたもう一つの紙袋に止まる。


「ああ、これはマリナの分だ。土産に持っていってやろうと思ってな」


 二人の様子に気づいたサヤは、そんな風に答える。


 それを聞いたシグレとアリサは「「ぐぬぬぬ……!」」と悔しげな表情を浮かべる……のだが、やはりサヤからリングをもらえた喜びが上回ったのか、すぐに幸せそうな表情に戻るのであった。

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