四十九話 束の間の休息
「ここまではうまく動いてくれたな」
豪華な宿泊室のベッドに腰掛けながら、サヤが徐に呟く。
【そうじゃな、ヴァルカンの言っていたとおり、侯爵はすぐに行動してくれそうじゃ】
「エルフの勘も、侯爵様が悪人でないと告げています」
サヤの言葉に、頷きながら同意するシグレとアリサ。
『ああ、侯爵殿は慈善事業にも力を入れておられる御仁だからな』
「私たちの冒険者チームも侯爵様の依頼で、闇組織の壊滅任務なんかを手伝ったこともあるくらいにゃん」
侯爵の人物像を掻い摘んで説明するダークとヴァルカン。
彼女たちの話を聞く限り、侯爵は正義に厚い人物なのだと、サヤたちは再認識する。
確かに、ホフスタッターと比べ、この都市リューインは街中の整備が行き届いており、人々も活気に満ちているように感じる。
侯爵が都市の発展や治安維持に努めている証拠であろう。
『サヤ殿、せっかくだし、昼食がてら都市の中を散策しないか?』
「ほう、それは面白そうだな、この都市の食べ物にも興味がある」
ダークの誘いに、若干ワクワクした様子で答えるサヤ。
【ずっと緊張続きじゃったし、いいかもしれんな】
「たまには息抜きしましょう!」
シグレとアリサも賛成のようだ。
そうと決まれば、とばかりに身支度を荷物の整理を済ませ、サヤたちは街に繰り出す。
◆
都市の中を移動し、商業区へとやってきたところで――
「あ、アレって、もしかして宝石店ですか!?」
――愛らしい瞳を大きく見開きながら、アリサがとある店舗を指差す。
彼女の言うとおり、そこは宝石の類を扱うジュエリーショップであった。
【ほう……これはなかなか上質な宝飾品が揃っておるな】
ショッピングウィンドウに飾られているジュエリーの数々を、アリサとともに眺めながら、シグレが感嘆の息を漏らす。
「この指輪……とっても綺麗です……」
【ワシはこっちの指輪もいいと思うぞ】
アリサとシグレ、二人はそれぞれアイスブルーの宝石が嵌め込まれたリング、それとアメジストヴァイオレットの宝石が嵌められたリングに夢中になっている……が――
「さ、さすがに高いですね……」
【やはりこれだけ質のいい宝飾品じゃからのう……】
――そばに立ててあった値札を見ると、引きつった表情を浮かべて、サヤたちの元へと戻ってくるのであった。
「ふむ……?」
二人の様子を見て、サヤは何やら考えるような表情を浮かべるのであった。
◆
「ここにゃん! ここがおすすめのお店にゃ!」
歩くこと少し、ヴァルカンがとある店の前で立ち止まる。
この都市に来たら食べに来てほしい店があると言うので、サヤたちは彼女に着いてきたのだ。
店の中へと入る一行、すると一気に、食べ物のいい匂いに包まれる。
ちょうど席が空いていたようで、サヤたちはすぐに案内された。
ヴァルカンにお任せで、いくつかのメニューの注文を済ませる。
しばらくすると、料理が運ばれてきた。
「ほう、これは美味そうだ……」
運ばれてきた料理の数々を見て、小さく呟くサヤ。
メニューは魚介の乗ったサラダに、こちらも魚介たっぷりのトマトスープ、そして大きなステーキと一緒にさらに大きなロブスターの乗ったグリルプレートだ。
「この都市は近くに漁港があるから、新鮮な魚介類がとにかく美味しいにゃん!」
料理を皿に取り分けながら、そんな説明をするヴァルカン。
皆に料理が行き渡ったところで、サヤは切り分けてもらったロブスターを口に入れる。
「これは……!」
瞳を見開き、思わず声を漏らすサヤ。
ロブスターの食感はプリプリとした歯応えがあり、甘味がある。
味付けはシンプルにバターソースのみのようだが、それがロブスターの美味さをより引き立てている。
「ん〜! スープも美味しいです!」
【ステーキもサラダも絶品じゃな!】
サヤの両隣で、アリサとシグレも幸せそうな表情を浮かべる。
『ここに連れてきて正解だったな、ヴァルカン嬢』
「にゃ〜! ここまで喜んでもらえると、こっちまで嬉しいにゃん♪」
サヤたちの様子を見て、ダークとヴァルカンは微笑ましい表情を浮かべるのであった。