四十八話 リューイン侯爵
「おお、久しいな。ヴァルカン、それに……よくぞ戻った、ダークよ!」
侯爵家の屋敷へと到着すると、ダニーとともにサヤたちは客間へと通された。
そしてしばらくすると、そんな声とともに赤い髪と同じく赤い瞳を持った美丈夫が現れた。
「お久しぶりですにゃん、侯爵様!」
『元気そうで何よりだ、侯爵殿』
美丈夫――リューイン侯爵に挨拶を返す、ヴァルカンにダーク。
侯爵は満足そうに頷くと、サヤたちに視線を向ける。
「侯爵様、こちらはサヤくんにシグレちゃん、それにアリサちゃんといって――」
ヴァルカンが侯爵にサヤたちの紹介、そして彼らがダークを封印から解き放ってくれたことなどを話し始める。
「そうか……そなたたちは、ダークたちの恩人というわけだな」
ヴァルカンの話を聞き終わり、大きく頷く侯爵。
そしてサヤの方を見て――
「して、ダークたちの恩人であるそなたたちが、私に何のようかな?」
――と、真剣な表情で質問してくる。
Sランク冒険者パーティの一員であるヴァルカンとダークが、連れてきた客。
そんなサヤたちの用件が、ただ事ではないことを既に察しているようだ。
「侯爵殿、今回、我らがここに来た理由は――」
徐に、里への襲撃の件などを始めとした、これまでの出来事をヴァルカンたちとともに説明し始めるサヤ。
話を聞くに連れて、侯爵の表情が険しいものへと変わってゆく――……。
「ホフスタッター伯爵の手の者によるエルフの里への襲撃、並びにその悪事の証拠……か」
瞳を鋭く細めながら、今回サヤたちが持参した証拠となる契約書などを検める侯爵。
そのどれもに、伯爵家の家紋の押印がされているのを見て、頭を抱えている。
「侯爵様、どれも本物のようです」
侯爵の横に控えていた執事が、モノクル越しに契約書である羊皮紙を覗き込み、報告する。
彼の持つモノクルは鑑定効果のあるマジックアイテムだそうで、伯爵家の家紋と、契約書の内容が本物であるかどうかを見極めていたのだ。
「……わかった、これは皇帝陛下のお耳に入れた上で、動く必要がありそうだな」
執事の言葉に頷きながら、徐に言葉を紡ぐ侯爵。
【(ふむ、どうやら動いてくれるようじゃの)】
「(ヴァルカンさんたちの言ったとおり、信用できるお方のようですね)」
侯爵の反応に、ほっと息を吐き、シグレとアリサが小声でそんなやり取りを交わす。
皇帝陛下という言葉が出たことから察するに、今回の件は、国として動いてくれるようだ。
「とりあえず、今回の件を書状にして皇帝陛下へと届ける準備を始める。待たせて済まないが、返事が来るまで数日間この都市に滞在してくれ。宿は私の方で手配しよう」
執事に証拠となる契約書を保管するように指示を出すと、侯爵はサヤたちにそう言って立ち上がる。
サヤたちはその指示に従い、使用人の案内のもと、侯爵の手配してくれた宿屋へと移動を開始する。
◆
【ほう、これはこれは】
「立派な宿屋ですねぇ……」
ゴンドラに乗り、宿屋街へと移動したサヤたち。
目的の宿に着いたところで、シグレとアリサが宿を見上げて声を漏らす。
白塗りで、五階建ての大きな宿屋だ。
外から見るだけでも広々としたテラスが確認できる、まさに高級宿といった感じだ。
宿の中に入ると、立派なエントランスと受付、そして受付嬢がサヤを迎え入れた。
侯爵家の使用人が、慣れた様子で手続きを済ませると、そこでサヤたちに別れを告げ、あとの案内は宿屋の従業員へとバトンタッチする。
「こちらへどうぞ、お客様」
感じのいい女性従業員が、サヤたちを案内すべく階段へと移動する。
それに従い、サヤたちは宿泊室へと向かうのであった。