四十六話 模擬戦
相手にとって不足はない。
サヤはヴァルカンに向け、鋭い刺突を放つ。
「んにゃっ!」
ヴァルカンは軽く腕を振るうと、ガントレットで刺突をいなしてみせる。
そしてそのままその場で半回転、お返しとばかりに勢いを乗せた拳を繰り出す。
タンッ――!
小気味いい音とともに、その場でサイドステップを踏むサヤ。
大きく躱されたたことで、ヴァルカンの拳が空を切る。
『驚いた、ヴァルカン嬢の拳を躱すとは、サヤ殿は本当に強いな』
いつの間にかシグレの隣にきて、見物を決め込んでいたダークが、思わず声を漏らす。
幾体ものモンスターを従えているのを見るに、それなりの実力者だとは思っていたが、まさかAランク冒険者のヴァルカンとやり合えるとは……と驚いているのだ。
だが、ヴァルカンの攻撃はこれで終わりではなかった。
攻撃をかわされたと見ると、その場で軽く跳躍し、サヤの頭部に向けて回転蹴りを放つ。
「ほう……っ」
面白そうな反応を示すとともに、サヤは半身を捻り、ヴァルカンの蹴りに合わせて木刀による打撃を放つ。
ヴァルカンの蹴りは紙一重でサヤの頭部の横を通り過ぎる。
そのままサヤの木刀がヴァルカンの肩に直撃――すると思われたが、ヴァルカンは空中で身を捻り、攻撃を躱してしまった。
サヤが木刀を振り切り、ヴァルカンが地面へと着地する。
間髪入れず、両者は己の木刀と拳を繰り出し――その先端がぶつかり合うと、ピタリと動きを止めた。
【引き分け……といったところじゃな】
『まさか、模擬戦とはいえヴァルカン嬢と引き分けるとは……恐れ入ったぞ、サヤ殿!』
サヤとヴァルカンの動きが止まったところで、シグレはホッと息を漏らし、ダークはサヤの実力に改めて舌を巻く。
「んにゃ〜! いい勝負だったにゃん! サヤくん、付き合ってくれてありがとにゃん!」
「こちらこそ感謝する。久しぶりに楽しい戦いであった。――ところで……」
「んにゃ? どうしたにゃん?」
何かを尋ねようとするサヤに、不思議そうに首を傾げるヴァルカン。
そんな彼女に、サヤはこんな質問をする。
「ヴァルカン、普段はどんな武器を使って戦っているのだ?」
と――
「にゃははっ、バレちゃったにゃん?」
彼の質問に、ヴァルカンは悪戯っぽく笑ってみせる。
【む? サヤよ、いったいどういうことなのじゃ?】
「シグレ、我はヴァルカンと戦っていて、その動きに違和感を覚えたのだ。それで、恐らくいつもは他の武器を主体に扱っているのではと思ってな」
「サヤくんのいう通りにゃ。私は本来、ハンマーと徒手空拳を組み合わせた戦い方をするにゃん! まさか互角にやり合うだけじゃなくて、そこまで見抜かれるとは驚きにゃ!」
サヤの洞察力に称賛を送るヴァルカン。
彼女の言葉を聞き、サヤは「やはりな……」と納得した様子を見せる。
「でも、サヤくんも本気じゃなかったにゃんね? 模擬戦用の木刀だったし、何よりスキルを一個も使ってなかったにゃ」
ヴァルカンもまた、サヤが本当の意味で、本気ではなかったことを指摘する。
彼女の指摘に、サヤは「ふむ……」と、少し気恥ずかしそうに、自分の顎の骨を掻くのであった。
(サヤ殿……戦いを学び出して、まだほんの数ヶ月だと聞く。この調子で成長すれば、いずれSランク冒険者であるご主人にも匹敵するほどの実力者になるやもしれんな……っ!)
Eランクモンスターであるスケルトン。そんなサヤがこれほどの実力を持っていることに戦慄しつつも、恩人であり、自身の二人目の主人である彼が、まだまだ強くなるという未来を想像し、ダークは期待に胸を膨らませるのだった。