四十五話 旅立ちと模擬戦
であれば話は早い。
サヤはヴァルカンとともに、この国の侯爵が治める都市、リューインへと旅立つ準備を始める。
今回の旅も前回と同じく、シグレにアリサ、それにダークも一緒だ。
「ではお前たち、里の守りは頼んだぞ」
『ブモっ! お任せください、サヤ様!』
『グギャッ! 何人たりとも、里のエルフには触れさせません!』
サヤの言葉に、自身たっぷりといった様子で答える、ミノとゴブイチ。
それぞれミノタウロスナイトとゴブリンウォーリアへと進化したのはもちろん、そこからさらに訓練を積み、件の襲撃があった際よりも格段にパワーアップしている。
そんじょそこらの野盗では相手にならないであろう。
「旦那さま、気をつけてね?」
「ああ。安心しろ、マリナ」
そんな挨拶とともに、軽くキスを交わすマリナとサヤ。
それを見たヴァルカンが「お二人は熱々にゃん!」と興奮した声を上げる。
その横ではシグレとアリサが――
「や、やんっ! 見せつけないでください……っ♡」
【だ、大事なトコロが疼いてしまうのじゃっ……♡】
などと、蕩けた声を漏らしている。
(こ、この二人……!?)
(や……やっぱり目覚めてるにゃんっ!?)
シグレとアリサの興奮する様を目の当たりにし、ダークとヴァルカンは引きつった表情を浮かべるのであった。
◆
その日の夕刻――
「そういえば……ダーク、お前には他にどんな仲間がいるのだ?」
街道の隅に馬車を停め、野宿の準備をしながら、サヤがダークへと問いかける。
『サヤ殿、妾の仲間はあと三人いる。一人はご主人、聖剣使いだ。あとは槍使いの娘と、魔法使いの娘がいる』
「そのパーティ全員がSランク冒険者なのか?」
『いや、Sランクなのはリーダーであるご主人だけで、あとはAランクだ』
「そうか。……Sランク冒険者、いつか会えるのが楽しみだな」
強さを求めるサヤ、冒険者の頂点であるSランクの存在が気になるのも当然であろう。
「楽しみにしてるといいにゃ。Sランク冒険者は凄まじい強さにゃんっ」
ヴァルカンも、仲間たちのことを懐かしむような表情で、そんな風に言うのであった。
◆
翌日、早朝――
「……んにゃ? サヤくんも起きるの早いにゃね」
寝袋の中から目を擦りながら、ヴァルカンが出てきた。
サヤはスケルトンの姿に戻り、シグレを手に素振りをしている最中だ。
「ヴァルカンも早いな」
「商人として生活していると、自然と早起きになるにゃん」
伸びをしながら、そんな風に答えるヴァルカン。
そんな彼女から、ふとこんな提案がなされる。
「そうにゃ。サヤくん、よかったら私と模擬戦をしないにゃん?」
と――
「ほう……面白い、ぜひ頼もう」
「よかったにゃん! 最近戦ってなくて、体が鈍っていたところにゃ。今模擬戦用の木刀を馬車から持ってくるから、少し待つにゃ!」
そう言って、馬車の方へと小走りで駆けていくヴァルカン。
少しすると、彼女は一本の木刀を持って戻ってきた。
「む? どういうことだ、ヴァルカンは木刀を使わないのか?」
「その通り、私は〝コレ〟で戦うにゃん」
そう言って、ヴァルカンはサヤに拳を向けてくる。
(なるほど、徒手空拳というわけか、面白い……)
拳で戦う相手は初めてだなと、内心ワクワクするサヤ。
【剣の達人のサヤ、そしてAランク冒険者のヴァルカンとの模擬戦か。これは見ものじゃな】
妖刀形態から人の姿へと変身し、シグレは見物を決め込むことにしたようだ。
「それじゃあ、始めるにゃん」
「ああ、よろしく頼む」
そんな言葉を交わすと、木刀を持ったサヤと、ガントレットを嵌めたヴァルカンが、同時に飛び出した――。