四十三話 予期せぬ再会
翌日、早朝――
「ふむ、マリナはまだ寝ているか」
窓から差し込む光と、小鳥のさえずりの中、ベッドから起き上がるサヤ。
その隣では、マリナがあられもない姿で小さく寝息を立てている。
まだ朝も早い、彼女を起こさぬように、サヤはベッドから抜けると、ある程度身嗜みを整えて外に出る。
朝の散歩も兼ねて、里の中を歩き回るつもりなのだ。
『む、サヤ殿、今日も起きるのが早いな』
歩き始めて少し、そんな声とともにダークが向こうの方から歩いてくる。
「ダーク、お前も散歩か?」
『そんなところだ』
サヤの質問に答えながら、彼の胸元へとダークは軽やかに跳躍する。
そんなダークを腕の中にキャッチし、何事もなかったかのように歩き始めるサヤ。
ダークは満足げに喉をゴロゴロと鳴らすと、サヤの腕の中で丸くなる。
『そういえばサヤ殿、例の作戦の続きについて、何かアイディアでも思いついたか?』
「ああ、昨日寝る前に、マリナとそのことについて話してな。いい案が出たので皆に相談しようと思っている」
『ほう、さすがサヤ殿とその奥方だ。期待させてもらおう』
サヤの言葉を聞くと、ダークは感心した様子で尻尾をゆったりと左右に振る。
そんな時であった――
「……む?」
――村の入り口の方を見ながら、サヤが声を漏らす。
『どうしたのだ、サヤ殿?』
不思議そうに首を傾げるダーク。
そのままサヤの視線の先に、自分も目を向ける。
すると蹄の音とともに、一台の馬車が現れたではないか。
『な……ッ!?』
馬車――正確には馬車の御者台に乗っている、とある人物を見て、ダークがその金の瞳を見開く。
その声に気づいたのか、御者台に乗っていた人物――虎耳商人の少女、ヴァルカンがサヤたちの方へと視線を向け――
「にゃ……ッ!?」
――彼女もまた、その可愛らしいエメラルドグリーンの瞳を大きく見開いた。
「…………??」
いったい、この者たちはどうしたのか……。
不思議そうな表情で、首を傾げるサヤ。
するとダークが『ま、まさか……』と、声を漏らしながら、サヤの腕の中から飛び降りる。
そしてヴァルカンも御者台から降りると、急いでこちらへと駆け寄ってくる。
『や、やはり! ヴァルカン嬢ではないかッ!』
「んにゃぁぁぁッ!? やっぱりダークちゃんにゃんッ!」
ダークにヴァルカンは、両者ともに大声を上げるのであった。
「ダークちゃん! 今までどこにいたにゃん!」
『ヴァルカン嬢! 元気そうで何よりだ! ご主人は……他の皆は無事なのか!?』
互いに興奮……というか、混乱しているのか、質問をぶつけ合う。
状況が飲み込めないが、今のやり取りで、ダークとヴァルカンが気心の知れた仲なのだと、サヤは理解する。
その上で――
「二人とも落ち着け、とりあえず状況を説明しろ」
――と、サヤが静かに説明を求める。
『す、すまぬサヤ殿、彼女は……ヴァルカン嬢は、前に離れ離れになった仲間の一人なのだ!』
「え、えっと……とある戦いの中、私たちとダークちゃんは離れ離れになって、彼女のことをずっと探していたにゃん!」
まだ若干の混乱をしながらも、そんな説明をするダークとヴァルカン。
ヴァルカンは感極まったといった様子で、ダークのことを抱き上げると、その胸の中に優しく抱きしめる。
『ヴァルカン嬢、ご主人と他の皆は……?』
「安心するにゃん。みんな無事で、今はそれぞれ別行動で、ダークちゃんのことを探しているにゃん」
『そうか……それを聞いて安心した』
ヴァルカンの言葉を聞き、ようやく落ち着いた様子を見せると、ダークは瞳を潤ませつつも、ホッと息を漏らす。
(ふむ……何となくの事情はわかった。あとは二人が完全に落ち着いたところで、改めて説明してもらうことにしよう)
ダークとヴァルカンのやり取りを眺めながら、サヤは両者がゆっくりと話し合う時間を作ってやるのだった。