四十二話 新たな一手と、久しぶりのお楽しみ
数日後――
「お帰りなさいませ、旦那さま!」
『ブモッ! お待ちしてましたぜ、サヤ様!』
里へと帰ってきたサヤたちを、マリナやミノたちが出迎える。
その表情は期待半分、不安半分といった様子だ。
「安心しろ、ダークのおかげで作戦は成功だ」
「まぁ!」
『さすがサヤ様たちですぜ!』
サヤの言葉を聞き、マリナとミノ、そして周囲のエルフやゴブリンたちも歓喜の声を上げる。
「ダークちゃん、大活躍だったのね!」
「見た目は可愛い猫ちゃんなのに、本当にSランクモンスターなんだねぇ!」
サヤの「ダークのおかげ」という言葉を聞き、エルフの娘たちがキャッキャとやり取りを交わす。
その正体がベヒーモスだと聞いても、可愛らしい容姿と、サヤに懐いている様子を見て、エルフたちはダークのことを好意的に受け入れているのだ。
ダーク自身も、Sランクモンスターだという誇りのようなものはあまり持っていないようで、エルフたちに「ちゃん」付けで呼ばれても気にした様子はないのである。
「さて、ダークよ」
エルフやモンスターたちにあらかた挨拶し終えたところで、サヤがダークに話しかける。
『む、どうした、サヤ殿?』
「これにて今回のお前の役目は終わりだ、お前の主人であるエルフの少女を探す旅に出るか?」
『サヤ殿……』
またしても自分のことを思ってくれるサヤに、思わず声を漏らすダーク。
大陸の地図を手に入れ、ある程度の目星をつけてダークの元の主人を探す準備は整いつつある。
サヤ自身はまだやることがあるので、一緒にいくことはできないが、ダークの旅に配下を同伴させるくらいのことは考えてあるのだ。
だが――
『いや……少なくとも今回の件が全て解決するまで、妾はとことん付き合わせてもらうことにする』
――ダークは潤んだ瞳で、首を横に振る。
(ご主人のことも大事だが、妾はサヤ殿にも忠誠を誓った。それに……もし旅に出るのであれば、サヤ殿と一緒がいいからな……)
少し気恥ずかしくて、ダークはそこまで伝えることはできない。
しかし、なんとなく彼女の思いはサヤに伝わったようだ。
「そうか」
サヤは一言だけ呟くと、彼の腕の中で見上げてくるダークの頭を、そっと撫でてやる。
『ふにゃ〜……』
ダークは安心したかのような声を漏らすと、そのままサヤの腕の中で丸くなる。
【ぐぬぬぬ……!】
「なんだか、最近サヤさまとダークちゃん、いい雰囲気過ぎませんかね……」
サヤとダーク、二体の主従以上の……絆のようなものを感じ取り、シグレとアリサは悔しそうな表情を浮かべるが、当の本人たちはそれに気づいていないのであった。
◆
その日の夜――
「ふむ……」
「どうしたの、旦那さまぁ……?」
ベッドの上で、考えにふけるように呟くサヤに、その隣で魅惑的なボディを密着させながら、マリナが悩ましげな声で問いかける。
「今回の旅で、目的のものは手に入った。しかし、その先の一手が打てぬことがもどかしくてな」
「……そうね、一つ手があるとしたら、あの子に相談するくらいかしら?」
これからお楽しみだというところで、サヤが他のことを考えていることに少しの不満を抱きつつも、マリナはそんな風に答える。
「あの子……?」
「旦那さま、前にこの里に来た商人の女の子は覚えてるかしら?」
「ああ……ヴァルカンという娘だな、彼女がどうした?」
ヴァルカン――以前、ホフスタッターまでサヤたちを送ってくれた虎耳娘だ。
「あの子……商人としての付き合いしかないけれど、里のエルフたちはとても信頼しているの」
「それは、エルフの勘というやつか?」
「ええ、その通りよ。エルフの勘は鋭いから、善人悪人の判断くらいなら大体できるの、それに……」
「それに?」
「ヴァルカンちゃんが、この里のエルフたちがモンスターと共存していると知ったあと、都市から討伐隊なんかが送られてきたことは一度もないわ」
「なるほど……ヴァルカンはこの里の秘密を守ってくれている。だからこそ信用できる、というわけか」
マリナの説明に、顎に指を当てながら考えを口にするサヤ。
それを肯定するように、マリナ「うふふ……っ」と、妖艶に笑いながら、サヤの胸にしなだれかかる。
(よし、ヴァルカンが里に来たら相談するという手を、明日皆で話し合って見るとするか)
そこまで考えたところで、サヤは思考を切り替える。
目の前の絶世の美女エルフ、マリナと……今夜はどのように楽しむことにするか、と――。