四十一話 目的のもの
裏路地にて――
「戻ってきたか……」
向こうの方から駆けてくるダークの姿を見て、サヤが徐に呟く。
「どうだった、ダークよ」
『恐らく目的のものは手に入ったはずだ。他の目ぼしい部屋も当たってみたが、他のそれらしきものはなかったからな』
サヤの問いかけに、自信ありげな様子で答えるダーク。
【よし、それでは里に帰るとするのじゃ】
「騒ぎになる前に、ですね」
シグレとアリサのやり取りに頷くと、サヤは皆を連れてホフスタッターを後にする。
目的の物が手に入ったという確証はないが、直に伯爵の部屋に侵入したことは明るみになる。
目的の物が手に入ってなかったとしても、警備はさらに厳重になり、再侵入は至難の業となる。
であれば、騒ぎになり都市の中で犯人探しが始まる前に、出発しようというわけだ。
◆
その日の夜――
「さて、では始めるとするか……」
街道の端で、焚き火に当たりながらサヤが呟く。
万が一にも追手に捕まらないために、夜明け前からぶっ通しで移動を続けてきた。
ここまでくれば、安心だろうと判断し、ダークが手に入れた物を確認しようというわけだ。
『うむ、では取り出すぞ、《収納》スキル……発動』
サヤの言葉に頷きながら、自身の持つスキルを発動するダーク。
すると皆の目の前に、三つの大きな金庫が現れたではないか。
スキル《収納》――
物質を亜空間に保管し、必要な時に取り出せるという効果を持つ。
さすがはSランクモンスター、優秀なスキルを所持しているものだ。
「シグレ――」
【うむ、了解じゃ】
サヤの言葉に応え、シグレが妖刀形態へと変身する。
彼女を手にすると、サヤは……スパン――ッ! と、一つ目の金庫の鍵部分を斬り裂いた。
シグレを納刀し、金庫の取手に手をかけるサヤ。
すると、中からいくつもの羊皮紙の束が出てきたではないか。
【これはもしや……】
「いきなり〝当たり〟かもしれませんね……」
羊皮紙の数々を見て、真剣な表情でやり取りを交わす、シグレとアリサ。
さっそく皆で、羊皮紙の内容の確認を始め……そして――
【あった……! あったのじゃ!】
羊皮紙の一つを片手に、声を上げるシグレ。
シグレが持つ羊皮紙の中を覗き込むサヤたち。
内容を全て読み上げたところで――
「よくやってくれた、ダーク」
ダークに向け、サヤは改めて労いの言葉をかける。
『くくく……やはり、睨んだとおりであったな』
面白そうに笑いながら、サヤに応えるダーク。
羊皮紙に書かれた内容、それは襲撃事件を起こした傭兵団と、伯爵との契約書だった。
これこそが今回、サヤたちが求めていたものだったのだ。
契約書の内容を明るみにし、伯爵を失墜させる……それこそが、ダークが思いついた作戦だ。
暗殺ではなく、法に裁いてもらおうというわけである。
まぁ……この件を明るみにする際に、誰に相談するかという課題は残ってはいるのだが……。
信用のおける相手でないと、伯爵にこの件が伝わってしまう可能性がある。
その辺に関しては、改めて考えていく感じとなるだろう。
「それにしても……」
【奴隷売買、薬物の製造……】
「色々出てきますねぇ」
呆れた表情でやり取りを交わすサヤ、シグレ、アリサ。
他の羊皮紙の内容を確認しても、とんでもない案件にまつわる契約書が出てくる出てくる。
冒険者のレナから得た、伯爵の黒い噂は本当だったというわけだ。
ちなみに、他の金庫からはとんでもない大金や、宝飾品の数々が出てきた。
同じ金庫に納められていた書類を見るに、違法な手段で手に入れた物が多いようだ。
これらも、伯爵を裁くのに役立ってくれるだろう。
「そういえば……ダーク、昨日のうちに大陸の地図を買っておいた。お前の主人であるエルフの少女を探すのに役立つと思ってな」
『サ、サヤ殿……! 妾のためにそんなことを!』
懐から地図を取り出しながら語りかけるサヤに、ダークは瞳を潤ませ、感極まった声を漏らす。
まさか、出会ったばかりの自分のために、そこまでしてくれるとは思わなかったのだ。
ひとしきりサヤに感謝を述べると、ダークはワクワクした様子で、地図を覗き込むのであった――。