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三話 添い寝と不思議な感情

『ブヒョォォォォォッ!』

『ブヒッ、ブヒッ……!』


 先を進むこと少し――


 サヤの前に再び異形が現れる。

 先ほどと同じく、豚人型のモンスター、オークだ。

 数は二体、今度はどちらも棍棒を持っている。


【気をつけろ、サヤ! スケルトンのお前は斬撃には強いが打撃には弱い】

「了解だ、シグレ。ならば攻撃を喰らわぬよう、こいつを発動する」


 シグレの言う通り、肉体を持たないスケルトンに斬撃は効きにくい。

 しかし、肉体を持たない分、打撃によるダメージは通りやすくなってしまう。

 オークの膂力で棍棒を喰らえば、シグレに用意してもらった着物を着ていてもダメージは免れないだろう。

 そんなわけで、サヤは《エンチャント》のうちの一つを発動する。


 その名も――


「《エンチャント・ウィンド》……ッ!」


 サヤがスキル名を口にした瞬間、シグレの刀身に風が纏わりついた。


 ビュオ――ッ!


 次の瞬間、そんな鋭い音とともにサヤが一気に飛び出した。


 疾い!

 今までとは桁違いのスピード、まるで弾丸のようだ。


『ブヒョッ!?』


 一瞬にして懐へと飛び込まれたオークの一体が驚愕の声を上げる。

 すぐさまサヤの頭蓋を砕こうと棍棒を振り下ろす……のだが――


「遅い」


 オークが棍棒を振り下ろした瞬間、サヤの姿が掻き消えた。


「ここだ」

『ブヒッ!?』


 棍棒が空振ったその刹那、側面から聞こえた声にオークが再び驚愕する。

 そこにはシグレで自分の肩をコツコツと叩くサヤが立っていたからだ。

 再びオークが棍棒を振り上げようとするが、それは無駄に終わる。


 スパン――ッ!


 そんな音とともに、オークの首が転がり落ちたからだ。


【なんと言う疾さじゃ、《エンチャント・ウィンド》……武器に風の属性を付与するだけでなく、発動者の動きを加速させることもできるようじゃな】

「どうやらそのようだ、我自身これほど速く動けることに驚いてはいるがな」


 サヤの速さを体感し、シグレは《エンチャント・ウィンド》の特性を理解する。

 それにサヤも応えるが、彼自身、この疾風の如き速さに驚いていた。


 正確に言えば、《エンチャント・ウィンド》は刀に風を纏わせ気流を生む。

 その気流を操作することで、サヤは高速移動体術を手に入れたのだ。


『ブ……、ブヒィィィィィィッッ!』


 仲間がやられたことに(いか)ったのか、もう一体のオークが雄叫びを上げ、仕掛けてくる。


【ククク………馬鹿なヤツじゃ。力の差は歴然だというのに、怒りに駆られて仕掛けてくるとは、逃げ出せば良いものを】

「逃げ出したところで、それを許すつもりはないがな」


 棍棒を振り上げ接近するオークを前に、シグレとサヤはそんな会話を交わす。

 まるで自分が眼中にないような態度に、オークはさらに怒り狂い、大振りな横薙ぎを繰り出す。


 トン……ッ。


 対しシグレは、静かなバックステップで棍棒を躱す。


「《エンチャント・フレイム》……」


 そして静かにスキル名を紡ぐと、オークに向かって袈裟斬りを放つ。


 (ゴウ)――ッッ!


 猛る炎を纏った剣撃がオークの肩から脇腹にまで走る。


『ブギャァァァァァァ――ッッ!?』


 悲鳴を上げるオーク。

 言うまでもなく、その切り傷からは炎が燃え広がっていく。

 激痛に悶え、為すすべのなくなったオークが、首を刎ね飛ばされたのも言うまでもないだろう。

 


【止まれ、サヤ】

「どうした、シグレ」


 二体のオークを倒してから歩くこと少し、腰に差したシグレがサヤに止まるように声をかける。

 どうしたのかサヤが聞くと、シグレは霧散し、少女の姿へと変身する。


【〝安全地帯〟を見つけたのじゃ。ずっと戦い通しだったことだし、この辺で休むとしよう】

「安全地帯……? 何だそれは」

【ほれ、ここのことじゃ】


 サヤに問われたシグレが、そう言ってサヤの真横を指差す。

 見ると、そこには人ひとりがやっと通れるような通路があった。


「む、何だこれは? 言われるまで気づかなかったが……」

【ワシは気づくのに、モンスターであるサヤは気づけなかった……そうか。そういうことか! いいかサヤよ、安全地帯とは迷宮に存在するとある空間のことじゃ。迷宮に存在しながら、なぜかモンスターは寄り付かず、迷宮を探索しに来た人間の休憩場所として使われるのじゃ。ワシに言われるまでこの通路に気づかなかったということは、モンスターは自分では安全地帯を認識することは出来ぬようじゃな】


 シグレの解説に、そんな場所があるのかとサヤは感心する。

 だが……。


「いや、休息は不要だ。スケルトンの我は疲労とは無縁だ。それよりも早く強くなりたい、先を急ごう」


 ……と、サヤはシグレからの提案を一蹴する。

 彼の言う通り、スケルトンを含めたアンデッドモンスターは疲労とは無縁なのだ。


【ダメじゃ、確かにお前は肉体を持たぬから、身体的な意味で疲労とは無縁だろう。だが、思考や心の疲れとなれば話は別だ。一旦体を休めることで、頭の中をスッキリさせておくべきじゃ! それに、ワシも少し休みたいからの】

「そういうものか……。わかった、シグレの言うことに従おう」

【うむ、素直でいいのじゃ】


 サヤが頷いたのを見ると、シグレは満足そうな……それでいて優しげな笑みを浮かべて安全地帯へと通ずる道へと進んでいく。


 少し進むと、そこにはそれなりの広さの空間が広がっていた。

 人が十人くらい入れるくらいだろうか。

 天井もそれなりに高く、奥には泉のようなものが湧いている。

 それを除けば、あとは岩肌の地面と壁があるだけで、ほとんど外と変わらない景色だ。


【んん〜〜……! やっぱり安全な空間はいいのう】


 シグレが気持ち良さそうに伸びをする。

 その際に、彼女の豊満なバストが柔らかそうに揺れ、着物の間からさらにふとももも大きく覗く。

 彼女のような絶世の美少女の油断した姿……普通の男であれば大喜びだろう。


 しかし、サヤは肉体を持たないスケルトンだ。

 シグレの動きを不思議そうに見つめるのみだった。


【さて、サヤよ。ワシは少し寝ることとする。お前も隣にくるのじゃ!】

「よく分からんが、お前のマネをすれば良いのか?」


 シグレが地べたに仰向けになりながら、サヤを呼ぶ。

 寝るという行為をサヤはよく理解していないが、とりあえずシグレに従い隣に同じ体勢で横になる。


【ふふふ……まるで母親のいうことをきく赤ん坊のようじゃ。可愛いぞ、サヤ?】

「……?」


 大人しく従うサヤを見て、慈しむような瞳で彼を見つめるシグレ。

 そのまま自然な動きで、サヤの頭に手を伸ばすと優しい手つきで撫でる。

 またも撫でられたことで、自分は何をされているのだろうかと、キョトンとした様子だ。


 腕を伸ばしたことで、シグレの着物の胸元が大きく肌ける。

 彼女の胸がかなり大胆なところまで……。


【何じゃ、サヤ。ワシの胸が気になるのか?】

「その二つの膨らみは胸というのか、我の体にはないから少し気になる」


 自分の胸にサヤが顔を向けていることに気づいたシグレが聞くと、そんな答えが返ってくる。

 自我を持ち始めたサヤは、あらゆることに興味が湧くのだ。


【ふふふ……やはり可愛いヤツじゃ。良いだろう、それならば今日はお前を抱き枕にして眠るとしよう】


 そう言って、シグレは少し寝る位置をずらして横を向く。


 そしてそのまま――むにゅんっ……。


 サヤの頭に手をまわし、彼の顔を胸の中に埋めてしまう。


【どうじゃ、気持ちいいか?】

「よく意味が分からない……が柔らかい。それに不思議な気分だ」

【ふふふ……不思議な気分か、お前が感じているのは安心感なのか、それとも……どっちじゃろうな? クククク………っ】


 サヤの答えを聞き、シグレは面白そうに笑う。

 そして少しすると、サヤの頭を抱いたままスヤスヤと寝息を立て始める。


 シグレの言葉が何を意味しているのか分からない。

 だが、なぜかこの体勢は落ち着く。


 サヤは不思議な感覚を抱きながら、シグレの目覚めを待つことにするのだった。

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