三十八話 復讐の方法
「旦那さま、お帰りなさい……って、その子は?」
里へと帰ってきたサヤたちを、マリナが迎え入れ……ようとするのだが、その視線はサヤの腕の中で丸くなるダークに釘付けだ。
『旦那さま……ということは、このエルフがサヤ殿の奥方なのか?』
「ああ、そういうことだ」
マリナを見つめながら問いかけるダークに、サヤは小さく頷きながら答える。
「ね、猫ちゃんが喋ってる……!?」
見た目はただの黒猫なダークが喋っているのを見て、マリナは目を見開く。
そんな彼女に、サヤは――
「マリナ、新しく我の配下になったダークだ。ベヒーモスという種族らしい」
――と、ダークの頭を撫でながら紹介する。
「え、えっと……ベヒーモス……?」
魔王にも匹敵する超弩級のSランクモンスターの名を出され、困惑するマリナ。
目の前の愛らしい黒猫がベヒーモスなどとは信じられないだろう。
しかし、サヤが冗談を言うとも思えない、それゆえの困惑だ。
「お母さま……サヤさまの言っていることは本当です。彼女――ダークちゃんは先ほどまで迷宮の中に封印されていて、その時の姿は伝承通りのベヒーモスの姿そのものでした……」
【うむ、そして封印が解かれると、今の猫の姿に変身したのじゃ……】
マリナに事情を説明すべく、疲れた表情でアリサとシグレが言う。
その後ろでミノも大きく頷いている。
「ま、まさかベヒーモスまで配下にしちゃうなんて、さすがは旦那さまだわ……」
引きつった笑みを浮かべながら、声を漏らすマリナ。
皆の言葉と様子を見るに、もはや目の前の黒猫の正体がベヒーモスだということを認めざるを得ないと判断したようだ。
『妾の名はダークという。よろしくな、サヤ殿の奥方よ』
マリナが納得したのを確認すると、後ろ足で首を掻きながら、ダークは挨拶をするのであった。
「よし、マリナへの自己紹介が済んだところで、里を案内するとしよう」
そう言って、サヤはダークを抱いたまま里の中へと歩き出す。
『ほう、ここはエルフ族の住う里なのか……というか、モンスターと共存しているのか?』
里の中を見渡し、エルフとモンスターが共存していることに、金の瞳を大きく見開くダーク。
モンスターであるサヤとミノ、二体と一緒に行動をしていたシグレとアリサを見て、もしやと……はダークも思っていたものの、実際に目の当たりにすると面喰らうというものだ。
「ああ、その通りだ、ダーク。その辺の説明もしておくとするか」
ダークの問いに答えつつ、今までの経緯――シグレとの出会い、モンスターたちとの出会い、そしてこのエルフの里で暮らすことになった理由を、シグレたちとともに掻い摘んで説明するサヤ。
それらの話を聞き、ダークはその愛らしい瞳を鋭く細め――
『エルフ族を狙う貴族か……厄介な存在だな』
――反吐が出る……とでも言いたげな声で、言葉を紡ぐ。
「ああ、里の安全のため、そしてエルフたちの復讐のために、我らは伯爵の暗殺計画を練っている」
【しかし、伯爵の屋敷は都市の目立つ場所にあり、警備も厚い。おおよそ暗殺は難しいと困っていたところなのじゃ】
さらに事情を説明するサヤとシグレ。
伯爵が外出した時を狙ったとしても、都市の構造上すぐに騒ぎになり、捕まってしまうだろうとも、アリサが説明を加える。
『封印から解き放ってくれた礼もある。妾としてもサヤ殿たちの力になりたいところだが……む? 待てよ?』
「どうした、ダーク?」
『サヤ殿、暗殺よりもいい復讐方法を、妾は思いついたやもしれぬ。それとその実行方法も大まかにではあるが……』
暗殺よりもいい復讐方法――その言葉を聞き、シグレやアリサたちが瞳を鋭くする。
「ダーク、内容を細かく聞かせてくれ」
『ああ、妾の考えは――……』
サヤの言葉に頷くと、ダークは徐に語り出す――。