三十七話 ダーク
『さて、それでは自己紹介といこう! 妾の名は〝ダーク〟という。よろしく頼む、サヤ殿』
金色の瞳でサヤのことをジッと見つめながら、ベヒーモスが言葉を紡ぐ。
そんなベヒーモス――ダークに、サヤは満足げに頷く。
【ま、まさか……】
「本当にベヒーモスが配下に加わってしまうなんて……」
『ブモっ……やっぱサヤ様はとんでもないぜ……』
サヤとダークのやり取りを眺めながら、シグレ、アリサ、ミノが唖然としてしまうのであった。
『ふむ、どうやら封印されていた影響が大きいようだ……』
「む? どういうことだ、ダーク?」
『サヤ殿、妾はいくつかの姿を持っており……まぁ、見てもらう方が早いな』
サヤの問いかけに、そう答えるダーク。
するとその体が漆黒の光に包まれたではないか。
「きゃっ!?」
『な、何が起こるんだ!』
悲鳴を漏らすアリサ、戦斧を構え警戒するミノ。
シグレも無言ではあるが、妖刀形態へと変身しようとする――のだが……
『にゃ〜ん!』
漆黒の光の中から、そんな声が聞こえてきた。
やがて光は収まり――
「「「は……?」」」
――シグレたちが間抜けな声を漏らす。
漆黒の光……その中から出てきたのが、一匹の可愛らしい〝黒猫〟だったからだ。
「どういうことだ? ダーク、お前は変身ができるのか?」
『その通りだ、サヤ殿。むしろこれこそが妾の本来の姿だ。先ほどまでの姿が変身後の姿なのだが、封印されていたせいで思った以上にマナを消耗していたようでな、変身を保っていることが難しいので本来の姿に戻ったのだ』
前足で顔を洗いながら、サヤにそんな風に説明するダーク。
【驚いたのじゃ。ベヒーモスは目撃数が少なく、その生態のほとんどが謎に包まれていると聞いていたが、まさかこのような特性を持っているとは……】
サヤとダークのやり取りを聞き、思わず言葉を漏らすシグレ。
「か、可愛いです……」
猫の姿へと変身したダークを見つめ、アリサが頬を染める。
ダークの瞳はまん丸と愛らしく、漆黒の毛並みも素晴らしい。
そんな感想が漏れても仕方ないだろう。
「ふむ、可愛いか。たしかにそうかもしれんな」
アリサに頷きながら、サヤはその場に屈むと、ダークを腕の中に抱いてみる。
『ふっ……ふははは! 妾をベヒーモスと知りながら、躊躇せずに抱いてしまうとは! 面白い、面白いぞ! サヤ殿!』
肝が据わっているのか、それともただの天然なのか。
なんとも判断に困るサヤの行動に、ダークは思わず笑いだす。
『ひ、ひえぇ……ベヒーモスをなんの躊躇いもなく触っちまうなんて……』
サヤの大胆な行動に、ミノは戦々恐々だ。
【ベヒーモス……ダークといったな? ワシの名はシグレ、サヤのパートナーじゃ】
「ふむ、サヤ殿のパートナーか。よろしく頼む、シグレ」
シグレの名乗りに、ダークはサヤの腕の中で丸く収まりながら返事を返す。
『ブモっ! 俺の名はミノ! サヤ様の最初の配下だ!』
「わ、わたしはアリサといいます。サ、サヤ様のお嫁さんです……!」
シグレに倣い、ミノとアリサがそれぞれの自己紹介する……のだが、アリサはドサクサに紛れて何を言っているのだろうか?
案の定シグレにふざけるなとツッコミを入れられている。
「二人は何を喧嘩しているのだ? 我の嫁はマリナなのだが……」
またもやボケを炸裂させるサヤ。
そんな彼の言葉を聞いたシグレとアリサが、「「ゲハァ……っっ!?」」と深いダメージを負っている。
『むむ? サヤ殿、お主はスケルトンなのに嫁がいるのか?』
「ああ、色々あってな。ダークお前の紹介も兼ねて里へと案内しよう。今日の迷宮攻略はここまでだ」
『ほう! 迷宮の外で暮らしているのか、面白い! その世界へ出られる日を……どれだけ待ち焦がれたことか……。ぜひ案内してくれ!』
サヤの提案に瞳を潤ませるダーク。
ひとまず迷宮探索はここまでとし、一行は迷宮の外へと向かう――。




