表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/129

三十五話 伯爵の黒い噂

「なぁ、あんたサヤっていったよな? 俺らのパーティに入らないか?」


「おい! 抜け駆けすんじゃねーよ! サヤさん、こっちのパーティに入ろうぜ!」


「いいえ、サヤさんは私たちのパーティに入るべきよ」


 レナとの模擬戦を終えたところで、ワラワラと冒険者たちがサヤのもとに集まってくる。

 どうやらレナとの模擬戦の行方を見守っていたようで、凄腕のサヤを自分たちの冒険者パーティに引き込みたいようだ。


「…………?」


 キョトンとした表情を浮かべるサヤ。

 このような勧誘を受けるのは初めてなので、どうしたらいいのか、わからない様子だ。


【そこまでじゃ。サヤはどこかのパーティに属する気はないからの】


「そうです! 行きましょう、ご主人様!」


 冒険者とサヤの間に割って入るシグレとアリサ。

 二人のとんでもない美少女を前に、冒険者たちはタジタジだ。


 冒険者たちの輪からサヤを救い出すと、そのまま二人はギルドの中へと入っていく。


「それでは冒険者登録を再開させていただきますね」


「ああ、頼む」


 カウンターに移動し、受付嬢の言葉に頷くサヤ。


「通常であれば、冒険者ランクはEランクからスタートですが、サヤさんは先ほどレナさんに勝利しましたので、Bランクからスタートとなります」


「む? そうなのか?」


 受付嬢の言葉に首を傾げるサヤ。


 話を聞けば、レナは冒険者であるとともに、このギルドに試験官として登録されているらしい。

 試験官との腕試しで力が認められれば、その試験官と同ランクで冒険者活動を始められるとのことだ。


 ちなみに、冒険者ランクはモンスターランクと同様に、下からE〜Sの六ランクに分かれており、その強さもモンスターランクと比例する。


 冒険者登録を済ませたところで、サヤたちに首飾りのような者が渡される。

 冒険者タグという代物で、冒険者としての身分証になる他、タグの色でランクを表している。


 Eランクのシグレとアリサは黒石製のタグ、Bランクのサヤは銀製のタグだ。


「ところで、お兄さんたちはなんで冒険者になろうと思ったの?」


 受付を離れたところで、レナが話しかけてくる。


【色々事情があるのじゃ。それよりレナよ、少し聞きたいことがあるのじゃが……】


「えっと……たしかシグレさんだったよね? 何? 聞きたいことって?」


【この都市の領主、ホフスタッター伯爵のことじゃ】


「……っ!」


 シグレが伯爵の名を出した瞬間、レナが目を見開き、息を漏らす。


「ここじゃアレだから、少し移動しようか」


 そう言って、レナはギルドの裏手へと移動を開始する。

 裏庭の隅の方へと皆で移動したところで、レナが徐に口を開く。


「伯爵の名前は、あんまり表で出さない方がいいよ」


【その様子じゃと、やはり伯爵は良からぬ事を働いている……ということじゃな?】


「そうだね……あくまで噂レベルの話だけど」


 シグレの質問に、静かに頷くレナ。


 噂では違法な人身売買や、薬物の製造・売買にも手を出しているという。

 伯爵の屋敷には夜中に不審な人物が出入りしているのが目撃されているとも……。


【ふむ、やはり危険な人物のようじゃな……】


 そう言って、シグレは会話を打ち切った。


「何を探っているのか知らないけど、伯爵と関わるのはやめておきな」


 心配そうな表情を浮かべ、そんな言葉を残すと、レナはギルドの中へと戻っていく。


「傭兵から吐かせた言葉に、今の情報……」


「やっぱり伯爵が里を襲撃させた黒幕で間違いなさそうですね」


 レナがいなくなったところで、サヤとアリサは頷き合う。


【レナはああ言っておったが、里が再び襲撃されないとも限らん。ひとまず伯爵の屋敷の周りを偵察するのじゃ】


「ああ」


「了解です」


 シグレの言葉に、サヤとアリサが応じたところで、三人は移動を開始する。


 ◆


「アレが屋敷か……」


 レンガ造りの建物の並ぶ石畳の道を進む事しばらく――


 サヤの視界に大きな屋敷が見えてきた。


 屋敷の周りには柵が張り巡らされており、遠目から見ても警備の人間が何人も確認できる。

 これでは近づいただけで警戒され、あっという間に包囲されてしまいそうだ。


 さらに、街中には見回りの騎士たちも散見される。

 何か起きれば伯爵家の警備の人間だけでなく、騎士たちまで駆けつけてしまうだろう。


(この都市がどの程度の戦力を保有しているかわからない以上、正面から伯爵を襲うのは危険だな……)


 シグレたちと歩きながら、サヤはその事を理解する。


 伯爵家の警備の人間だけでなく、騎士たちの中にガリスのような実力者が何人も潜んでいないとも限らないのだ。


(かと言って……アレだけ警備が厚くては、暗殺も至難の業となりそうです……)


 サヤ同様に、アリサも思考を巡らせる。


 結局、この都市には二日間ほど滞在し情報収集などに勤しんだが、伯爵の失脚や暗殺成功の手がかりになるような成果は得られなかった。


 あまり長期間いても効率が悪く、里の様子も気になるので、サヤたちは一旦帰還することとなる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ