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三十二話 冒険者とアーティファクト

「その耳……どうなっているんだ?」

「んにゃ? サヤくんは〝虎耳族〟を知らないにゃん?」


 ヴァルカンの荷馬車、その御者台の上で、サヤがヴァルカンの頭にある耳を見て問いかける。


「ああ、我は迷宮で生まれて迷宮でずっと生きてきたモンスターの他に知っている種族はエルフと人間だけだ」

「なるほどにゃん。虎耳族っていうのは虎の血を宿した種族のことにゃん。褐色の肌と濃いめの金髪、それと怪力を持ってるにゃん」

「怪力か……どれくらいのものなんだ?」

「う〜んそうにゃね。個人差もあるけど、本気を出せばこの荷馬車を持ち上げられるくらいかにゃ?」

「それは……ミノタウロスよりも上ではないか」


 ヴァルカン――虎耳族の秘めた力に、サヤはさらに興味を抱く。

 そんなやりとりを荷馬車の中からシグレとアリサが眺めながら……。


【むぅ、さっきから虎耳娘と喋ってばかりなのじゃ……】

「この旅でご主人様との距離を縮められると思っていたのですが……まさかヴァルカンさんに興味を全部持っていかれるなんて、不覚です」


 ……と弱々しい声を漏らす。


 馬車で楽な旅ができると思ったのだが、まさかこんな弊害が待っていようとは。

 この旅で一発キメるつもりだったシグレとアリサは「「ぐぬぬぬ……」」と声を漏らす。


 虎耳族の少女、ヴァルカン。控えめに言っても美少女と言える容姿をしている。

 アリサほどではないが胸も大きい。地肌にオーバーオールなど着ているものだから、豊満な谷間と横乳が大サービス状態だ。


 そんな魅力的なヴァルカンに、マリナの時と同じようにサヤが女として興味を持たないか、シグレとアリサは不安なのである。


 もっとも、ヴァルカンはスケルトンの姿のサヤしか知らないし、彼女自身も飄々とした感じなのでそのようなことは起き得ない……はずなのだが、それはさておく。


「んにゃ〜、だいぶ移動したし、そろそろご飯でも食べるにゃん?」


 移動してしばらく経ったころ、ヴァルカンが伸びをしながら皆に提案する。


 その拍子に彼女の胸が大きく震え、健康でエロティックな脇が大サービス状態になる。

 その辺の健康な男子が見ていたら、思わず前屈みになっていたところだが……スケルトン状態のサヤにはどうということはない。


 街道の外に馬車を止め、ヴァルカンが食事の準備を始める。

 サヤたち自身も、もちろん干し肉などの携帯食を準備してきたのだが……せっかくだから美味しいものを食べるにゃん! というヴァルカンの言葉に甘え、彼女の荷馬車に積んである食料にありつくことになった。


「シグレ、我も食事がしたい」

【むぅ……他の女子(おなご)の前でエルフ姿のお前を披露するのは避けたいが……仕方あるまい】


 シグレはサヤの要求に応え、渋々といった様子で力を解放し、彼を再びエルフの姿に変身させる。


 それを見たヴァルカンは――


「んにゃ〜! ほんとにスケルトンがエルフに変身したにゃん!」


 ――と、驚いた声を上げるととともに瞳を爛爛と輝かせる。


 しかし、その様子を見る限り美青年エルフであるサヤにときめいた……というよりは、珍しいものを見てワクワクしている、といった感じだろうか。


「サヤくん、今変身したのってどういう仕組みになってるにゃん?」

「我もよくわからんが、シグレが今まで吸収してきた生命力を使って体を変化させてくれているらしい」

「生命力にゃん?」

「ああ、こう見えてシグレは人間ではなく意志を持った妖刀だからな」

「んにゃ!? シグレちゃんまで人間じゃなかったにゃん!? 妖刀……しかも意志を持ったってことはインテリジェンスウェポンにゃ……!?」


 サヤの答えに、今までで一番驚いた声を上げるヴァルカン。そしてその食いつき方も今までで一番だ。


「ヴァルカンさん、シグレ様に興味があるのですか?」

「もちろんにゃ、アリサちゃん! 今は行商人をやってるけど、少し前まで私は冒険者兼鍛冶士をしてたにゃん。だから珍しい武器には目がないにゃん!」

【ふむ、一人で行商人をやっているのを見るに只者ではないと思っておったが元冒険者であったか、ちょうど良い。ワシの本来の姿を見せておくのじゃ!】


 街道を行き来するのは相当なリスクを伴う。にも関わらず一人で行商人をやっているヴァルカンを、シグレは相当な手練れと踏んでいた。


 そしてそれは当たりだった。冒険者――モンスターを討伐し、その討伐報酬や素材を売って稼ぎを得る者たちの呼び名だ。

 冒険者にはE〜Sの六つランクが存在する。恐らくヴァルカンはその中でも上の方のランクなのであろう。


 それはさておき。


 ヴァルカンに本来の姿を見せるべく、シグレが妖刀形態に変身する。


「んにゃ〜! これは相当な業物にゃ! それにこの溢れ出さんばかりのマナ……〝アーティファクト〟にも匹敵するかもだにゃん……!」


 妖刀形態のシグレを見て、ヴァルカンは感嘆したかのような声を漏らす。


 アーティファクト――簡単に言うと、特殊な鉱石を一流の武具職人が武器や防具に加工した特別な力を持つ存在の総称だ。

 加工には特殊な技術、および鍛冶スキルが必要となり、一般に流通することはほぼないとされている。


 シグレにそんなアーティファクトと同等の価値があると、元鍛冶士であるヴァルカンは判断したようだ。


 そこからはヴァルカンは食事の準備をしつつ、そして食事をしながらも、シグレについて質問責めを続けた。

 本当に武器が好きなのだろう。いつもすまし顔をしているシグレをワタワタさせるほどの質問責めっぷりであった。


「これは……美味いな」


 質問責めにされるシグレをほっぽらかして、サヤはヴァルカンの用意した白パンを口にし、その美味さに思わず声を漏らす。

 エルフの里でも何度かパンを食べる機会はあったが、その全ては硬い黒パンだった。ふっくらとして程よく塩気に効いた白パンに感動を覚えたのだ。


「こっちのスープも美味しいです……!」


 アリサは用意されたスープに夢中だ。何やら肉の他に特殊な保存方法で鮮度を保った魚介も入れてあるらしい。

 エルフの里は海からは離れているので、魚介が食べられても塩漬けされたものがほとんどだ。なので、アリサの感動っぷりも納得である。


 そんなこんなで、美味しい食事を食べ終えたサヤたちは少し休むと、再び都市ホフスタッターに向けて移動を開始するのだった。


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