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三十一話 行商人の猫耳少女

「さて、どうするか……」


 ガリスたちの襲撃があった翌日――

 サヤはおもむろに声を漏らした。


 迷宮の結界が解除された……。

 本来であればすぐにでも攻略に乗り出したいところなのだが……。

 アリサたち里のエルフに、この里の領主になってくれないかと頼まれてしまった。

 その他にも、ガリスたち傭兵を差し向けた貴族……ホフスタッター伯爵の動向も気になるところだ。


 流石にあれほど大規模な襲撃を仕掛け失敗したのだ。

 すぐにまた襲撃を仕掛けてくるということはないと思うが……それも断言できるわけではない。


【サヤよ。ここは一度、都市ホフスタッターに行ってみるのはどうじゃ?】

「なるほど。敵の根城を偵察し、可能なのであれば――殺す、ということか……?」

【そういうことじゃ。もっとも、伯爵というくらいじゃ。そう簡単にはいかんと思うがの……。あとはサヤ、お前がエルフの里以外の世界を学ぶ機会にもなるのじゃ】

「ふむ、迷宮の攻略ほどではないが……面白そうだな」


 シグレの提案に、サヤは思う。

 エルフ以外の多種族の生態や生活には実に興味がある。

 何より、今まではモンスターであるから人族の生活圏に入るなどという考えには至らなかったが、シグレの力によりサヤはエルフの姿に変化することができる。

 であれば、敵情視察を兼ねた少しの旅も悪くない……というわけである。


「もし行くのであれば、わたしもおともしますね、ご主人様っ♡」


 隣で話を聞いていたアリサが、サヤに腕を絡めながら甘い声で自分も行くと言う。

 シグレはムッとしながらも【まぁ、外の世界の地形がわからん以上、同行人は必要なのじゃ……】と渋々アリサの同行を認める。


 初めての旅――それにワクワクしつつも、サヤは少々不安な気持ちを抱く。

 自分がこの里を離れる期間に万が一のことがあったら……と――


【ブモ! 安心してくだせぇ、サヤ様!】

【キシャ! 私たちはサヤ様のおかげで進化しました。力は格段に増し、この間の傭兵たち程度相手にもなりません!】


 話を聞いていたミノとペドラが自信に満ちた表情でサヤに言う。


 実際、二体の力は前とは比べものにならないほどに強力になっていた。

 二体とも、攻撃力と防御力はもちろん上位種に変化したことにより、とあるスキルも獲得していた。

 早朝に、力を試してみたいとサヤに模擬戦を申し込んだのだが、勝てるとまではいかないものの、善戦してみせたほどだ。


「ふむ……ならば行ってみるか、人間の住まう都市とやらに」

【決まりじゃな!】

「ご主人様との旅、楽しみです……!」


 サヤが決意すると、シグレとアリサはパッと表情を輝かせるのだった。


 そうと決まれば話は早い。

 三人は旅支度を始め、いよいよ旅立ち――


 そんな時であった……。


「んにゃ〜!? 何にゃこれは〜〜〜っっ!?」


 ……里の中に、そんな声が響き渡った。


「あ! 〝ヴァルカン〟さん! お久しぶりです!」


 声のした方を見て、アリサが手を振りながら声を上げる。


 そこには一人の少女が立っていた。

 濃い金色のショートヘア、そしてその上には猫のような耳、肌の色は褐色、そしてその褐色の地肌をオーバーオールで包み込んだ少女だった。


「ア、アリサちゃん……! どういうことにゃ!? 里の中がモンスターだらけにゃん!」


 アリサに気づくと、猫耳の少女は急いで彼女に駆け寄りながら質問をする……のだが、アリサの隣にスケルトンであるサヤが立っているのに気づいてギョッとした表情を浮かべる。


「落ち着いてください、ヴァルカンさん! ここにいるモンスターさんたちは良いモンスターなんです」

「ど、どういうことにゃ……? でも、たしかに私を見て襲ってこないにゃん……」

「ひとまず説明しますね。サヤ様、自己紹介をお願いします」


 突然現れた猫耳少女に自己紹介をしろと言われて、サヤは少々困惑する……のだが、たしかに言葉が通じることがわかれば話は早そうだと、アリサの言うことに従うこととする。


「我の名はサヤだ。とある迷宮の支配者をしている。ここにいるモンスターは皆、我の配下だ」

「ス、スケルトンが喋っているにゃん!? それに最下級モンスターであるスケルトンが迷宮の支配者にゃん……?」


 モンスターが人の言葉を喋ることに驚愕し、そして迷宮の支配者であるという言葉に困惑する猫耳少女。

 そんな彼女の代わりに、アリサがサヤとシグレに向かって彼女の紹介を始める。


「サヤ様、シグレ様、彼女の名前はヴァルカンさんといって、この里にたまにくる行商人さんなんです」

【ふむ、そういえば前に行商人が来ることがあると言っておったの。ヴァルカンよ、ワシの名前はシグレという。よろしくなのじゃ】

「えっと……よ、よろしくにゃん……?」


 自己紹介をするシグレに対し、またもや困惑しながら返事を返すヴァルカン。

 ひとまず、サヤたちが敵ではないということを何となく理解してもらえたところで、アリサは今までの出来事に対して説明を始める。


 するとヴァルカンは――


「なるほど、野盗の襲撃があったにゃんて……」


 ――深刻そうな表情で、声を漏らす。

 どうやらサヤたちのことを信じてくれたようだ。


 まぁ、さすがに行商人であるヴァルカンに、全てを話すのはどうかと思われたので、裏に貴族の存在があるということ、そしてあわよくばその貴族――ホフスタッター伯爵の殺害を企てていることは隠してあるが……。


「そんなわけで、襲撃者の情報を集めるべく都市ホフスタッターに向かおうと思っているんです」

「なるほどにゃん。たしかに、あの都市は大きいし何か情報が得られるかもしれないにゃん」


 適当な理由をつけて都市へ向かう理由を説明すると、ヴァルカンはそれも信じてくれたようだ。そして何と、都市まで自分の馬車で送っていこうかと提案までしてくれた。


「ありがとうございます、ヴァルカンさん! ぜひお願いします!」

「任せるにゃん! ホフスタッターの都市には私もちょうど用があったにゃん♪ ところで……都市まで送るのはいいけど、スケルトンであるサヤくんは都市に入れないにゃよ……?」

「ああ、それなら問題ありません。サヤ様はエルフに変身できるんです!」

「んにゃ!? 言葉を喋れるだけじゃなくてそんな能力まであるにゃん!?」


 ヴァルカンは、ここに来て何度目かの驚愕の声を漏らすのだった。


 しかし、サヤたちは何とも幸運だ。

 都市に行くのには歩きであれば数日はかかるところだったが、ヴァルカンが馬車で送ってくれることになったので約一日で辿りつくことができるようになったのだから。


「旦那様、お気をつけてくださいね♡」

「ああ、なるべく早く帰ってくる」


 出かける直前に里の出口で、マリナはサヤにしなだれかかると、彼の頬骨に甘いキスをする。


 それを見てアリサとシグレが――


「や、やん! わたしたちがいるのに見せつけるなんて……っ♡」

【な、なぜじゃ! なぜサヤが他の女にいいようにされるのを見ると、ワシのお腹の下は疼くのじゃ……っっ♡】


 ――と、少々蕩けた表情を浮かべながら声を漏らす。


(う、うにゃあ……この二人、目覚めてるにゃん……)


 二人の少女の反応を見て、ヴァルカンは若干……というか思いっきり引くのであった。 



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