三十話 紅蓮の雨とともに
「はっ! さっきまでの勢いはどうした!」
『ブ、ブモ……』
ガリスが小太刀を振るいながら、愉快そうな声を上げる。
それに対し、ミノは弱々しい呻き声を漏らしながら、防戦一方だ。
その体にはいくつもの切り傷が刻まれており、おびただしい量の出血をしてしまっている。
(ブ、ブモ……このままでは……。しかし俺が倒れるわけにはいかない。サヤ様の最初の配下として、この場を何としても守り抜く……!)
とうに限界を迎えているというのに、ミノはガリスの猛攻の前に必死に耐える。
しかし、すでに後方のペドラは力尽きる寸前であり、ともに戦うゴブリンたちも多くが傷だらけだ。
前方でミノと戦うゴブジたちも重傷を負っており、アリサも、ミノがガリスを相手にしている隙に里に侵入してこようとする敵を相手に何度もスキルを使ったせいで、マナが底を尽き始めてしまっている。
「これで終わりだ! 《六閃斬》……!」
『ブモっ……!?』
血を流しすぎたせいで、ミノの体がフラついた。
その一瞬を見逃すガリスではなかった。
ガリスは今まで純粋な剣術と体術で戦ってきた。
だが、ここが好機と判断し、温存していたスキルを発動したのだ。
小太刀術スキル《六閃斬》――
対象に対し、六連斬を〝同時に〟発生させる中級スキルだ。
ミノの体に、六つの斬撃が同時に襲いかかり――その体に深い傷を負わせる。
「こ、こいつ……なぜ倒れない……!?」
しかしどういうことだろうか。
呻き声を漏らしたのはミノではなくガリスの方であった。
当然である。
致死レベルの傷を負いながらも、ミノはその場で倒れるどころか、一歩も動かないのだ。
『サ……ヤ、様の……ため……倒れる……もの、か……!』
途切れ途切れ……言葉を紡ぎながら、斧と盾を構えるミノ。
全ては敬愛する主人のため――ただその使命感だけで……。
「も、もうやめてミノさん……! このままじゃ死んじゃいます!」
アリサが悲痛な声を漏らす。
自分たちの里のために、目の前のミノタウロスが死んでしまう。
その事実に耐えられず、涙を流している。
「クククク……モンスターにしては見上げた根性だ。いいだろう、次で仕留めてやる。その後にたっぷり犯してやるからな、お嬢ちゃん……!」
ガリスが勝ち誇った笑みを浮かべながら、再びスキルを放つ構えに移る。
そして舐めるような視線でアリサを見る。
周りの傭兵たちも、勝利を確信しいやらしく口元を歪める。
「ひ……っ」
こんな男どもにわたしは……。
そんな想像をし、アリサが絶望した表情を浮かべながら、小さな悲鳴を漏らす。
「さぁ、死ぬがいい……!」
とうとうガリスは小太刀を振り抜く……その刹那だった――
「《ファイアーレイン》――ッ!」
――裂帛の声が響きわたった。
そして、ミノの後方から炎の弾丸が雨のように傭兵たちに降り注いだ。
「ち……っ、何だこの攻撃は……!?」
とっさに火の弾丸を大きくサイドステップすることで回避するガリス。
しかし、突如の攻撃に反応できたのはガリスのみであった。
他の傭兵たちはまともに火の弾丸を喰らい、炎に包まれながら大きく吹き飛んでいく。
『ブ……モ……来てくれると、信じて……ましたぜ、サヤ、様……!』
その場に膝をつきながら、笑みを浮かべて言葉を紡ぐミノ。
その後方から……
「よくやった、ミノ、お前たち。……あとは我がやる。下がっていろ」
……静かに、しかし確かな怒りを感じさせる声が聞こえる。
「サヤ様!」
アリサが表情を輝かせて叫ぶ。
そう、サヤだ。
疾風を纏ったサヤがそこに立っていたのだ。
【ふむ、スキルの応用攻撃の練習をしておいて正解じゃったの】
サヤの腰に差したシグレが、目の前の光景をみて呟く。
今、サヤが放ったのはスキルの応用技だ。
《ファイアーバレット》を複数展開し、一斉に放ち雨のように降らせる技術、《ファイアーレイン》――
燃え盛る炎の雨に、傭兵の先頭部隊たちは焼かれ、吹き飛ばされたのだ。
「刀を持ったスケルトン……? いや、それ以前に今の攻撃……」
再び小太刀を両手に構えながらも、ガリスが声を漏らす。
最下級モンスターであるスケルトンが服を着て刀を持っている。
それどころかトンデモナイ威力の攻撃を放ってきた……。
そんな事実に動揺が隠せないのだ。
『キシャ……サ、サヤ様が、来てくださった……』
瀕死のペドラの、残された片目に希望の光が宿る。
そして何とか体を動かし、ゴブイチたちとともに少しずつ後退していく。
主人が、あとは任せろ言った。
配下である自分たちはそれに従うのみだ。
「さて、まずはお前からだ」
静かに、シグレを引き抜くサヤ。
闇色の切っ先をガリスに向ける。
ミノを――配下をここまで追い詰めた相手……厄介なのは間違いない。ならば、こいつから片付ける。
……というのも一つの理由だが、今、サヤは激しい怒りを覚えている。
自分の配下を傷だらけにしてくれた……その事実に。
「スケルトンが言葉を……!? それにその刀――」
「問答は無用だッ!」
再び動揺するガリスに、サヤは静かに……しかしトンデモナイ速さで踏み込むと、俊速の刺突を放った。
「く……ッ!」
対し、ガリスは小太刀で刺突を阻む……体勢を取ったが、それを解きサイドステップで攻撃を躱す。
「ほう、回避を選んだか」
「……当たり前だ。その刀、膨大な量のマナを有している……。そんな攻撃をただの小太刀で防げるはずがないだろう」
サヤの、感心したかのような声に、ガリスは冷や汗を流しながら答える。
ガリスは見切ったのだ。シグレから感じる膨大な量のエネルギーのようなものを。
そしてそれがマナだと確信した。であれば、何かしらの効果を持っているはずだ。
ただの武器で防ぎきれる保証はない。そう判断し、回避を選択したのだ。
事実、妖刀であるシグレは膨大な呪われたマナを有している。
まともに防御しては、今までの敵のように武器ごとその体を切り裂かれていただろう。
ガリスを見つめるサヤ。
サヤを警戒するガリス。
そんな中、サヤが言葉を紡ぐ。
「お前が動かないならこうするまでだ」
次の瞬間、サヤが気流を操作し飛び出した。
咄嗟に、ガリスはまたもや大きく跳び退き、回避する。
しかし、それは判断ミスであった。
サヤの狙いはガリス――ではなく、後方に控えたガリスの配下の傭兵たちであった。
「《ファイアーレイン》!」
疾走するとともに、再び炎の雨を降らせるサヤ。
後ろで控えていた傭兵たち、攻撃が降りかかる。
予想外の攻撃に、傭兵どもはまたもや攻撃をまともに喰らい、悲鳴や怒号が鳴り響く。
だが、サヤはこれで止まらない。
そのまま傭兵たちの中に突っ込む、シグレを振るってバッタバッタと敵を斬り殺してゆく。
炎の中で妖刀を振るうスケルトン――その様はまるで鬼神のようだ。
「く……させるか!」
サヤの狙いにようやく気付いたガリスが、慌てて小太刀を手に追いすがる。
敵を何体か斬り殺したところで、追いついたガリスがサヤに斬りかかる。
「む……っ」
それに対し、サヤは小さく声を漏らすと、気流を操作し大きくサイドステップすることで攻撃を回避する。
(なかなか鋭い攻撃だ。紙一重では躱しきれんな)
サヤが刀術の達人であるように、ガリスもまた小太刀術の達人の領域に達している。
一度の攻撃でそれを見切ったサヤは、確実に攻撃を躱すために大きく跳躍することを選んだのだ。
(確実に回避することを選んだか。このスケルトン、まさか突然変異種か……?)
サヤが紙一重で回避すれば、蹴りによる打撃で骨を砕こうとガリスは考えていた。しかし、思惑通りにいかなかった。
特殊なスキル、刀を振るう技術、そして高度な判断力に、ガリスはサヤを特殊な進化、あるいは変異を遂げた上位のモンスターではないかと考え始める。
実際は妖刀を手にし、刀術を高め続けたEランクのスケルトンでしかないのだが……。
「喰らえ!」
「お頭をやらせるか!」
再び構えを取るサヤとガリス。
そんな中、無事だった傭兵たちが連携を組んでサヤに攻撃を仕掛けてくる。
「やめろ! お前たち――!」
咄嗟に、ガリスが止めようと指示を出すのだが……時すでに遅し。
サヤの回転斬りにより、ものの一瞬のうちに傭兵どもは切り裂かれてしまう。
「す、すごい……あんなに苦戦した敵たちを……」
『ああ、やっぱりトンデモナイぜ……サヤ様は……!』
敵を圧倒するサヤの活躍に、アリサとミノが思わず声を漏らす。
二人とも、そしてゴブリンたちも敵の死体からポーションを奪い飲み、回復済みだ。
本来なら戦線に復帰すべきなのだろうが……サヤのあまりの圧倒ぶりに、思わず見入ってしまうのだった。
「喰らえ」
サヤが再び刺突を放つ。
それをガリスは先ほどと同じく大きく回避する。
「その動きは読んでいた。……《ファイアーバレット》!」
ガリスほどの達人であれば、ただの刺突は躱されてしまう。
サヤはそれを理解していた。
ならば二段構えだ。
ガリスが回避する方向に、魔法スキル、《ファイアーバレット》を単発で放つ。
流石に、瞬時に《ファイアーレイン》を構築するのは難しいので単発というわけだ。
「は! 無駄だ!」
ガリスが笑う。
どういうことだろうか。
避けるどころかその場から動くことすらしない。
そして次の瞬間であった――
パァン……ッ!
――乾いた音が鳴り響く。
それと同時に、直撃コースだった《ファイアーバレット》が、ガリスの目の前で掻き消えてしまったではないか。
サヤは思わず「何……ッ?」と声を漏らす。
「〝レッサースキルプロテクションリング〟――下級スキルを無効化するマジックアイテムだ」
口元に笑みを浮かべながら、ガリスが右手の人差し指を立てる。
そこには琥珀色に輝く宝石のようなものを埋めた指輪がはめてあった。
「先ほどからのお前のスキルを見て、たった今見切った。お前は刀術やスキルの応用術は大したものだが……スキル単体を見れば下級スキルばかり使っているな?」
小太刀を構えながら、ガリスが言葉を紡ぐ。
そしてそれは正解だ。
サヤの持つスキル群、それは全て下級スキルで構成されている。
だから今、ガリスの持つマジックアイテムによって、サヤの《ファイアーバレット》は無効化されたのだ。
(厄介、だな)
ガリスの言葉を聞き、サヤは思う。
下級スキルが無効化される……それ即ち――
「いくぞ、スケルトン!」
――ガリスが勢いよく踏み込んでくる。
そしてレッサースキルプロテクションリングをした右手の小太刀で攻撃を放ってくる。
「く……っ!」
サヤは大きくバックステップする……が、その動きは先ほどまでよりも鈍くなっている。
よく見れば、纏っていたはずの気流が消えてしまっているではないか。
気流を生み出していたのはサヤの持つ《エンチャントウィンド》だ。そしてこれもまた下級スキルである。
ガリスはサヤに攻撃を繰り出す時にレッサースキルプロテクションリングの効果を発動していた。
攻撃と同時に、サヤの《エンチャントウィンド》を解除してしまったのである。
「ハハハ! やっぱりその風も下級スキルによるものだったか!」
目論見通りだったことに、ガリスが高笑いを上げる。
そして舌なめずりをすると、またもや勢いよく駆け出した。
「は……っ!」
ガリスの攻撃に合わせ、サヤがシグレを振り払う。
ガリスは咄嗟に身を屈めそれを回避。
すぐ様サヤの肋骨めがけて蹴りを放つ。
「ち……っ」
思わず舌打ちするサヤ。
バックステップによる回避を試みたのだが、気流を失ったせいで追いつかず、ガリスの蹴りが掠ってしまったのだ。
「クククク……次で終わりだな」
勝利を確信したガリスが駆ける。
このままではサヤ様が……!
アリサとミノが加勢しようと駆け出すが――
「来るな」
――サヤの静かな言葉によって、それは止められる。
(ああ、サヤ様は……)
(ブモ! 勝つ気だ……!)
サヤの言葉、そこから感じられる絶対の自信に、アリサとミノはそれを確信する。
【…………】
シグレも、所有者であるサヤを信じ、ただ沈黙を貫く。
そして――
「《エンチャントウィンド》! 《フレイムバレット》……!」
サヤがスキルの名を叫ぶ。
そのまま今発動した《フレイムバレット》を切り裂くとともに気流を操作し、大爆発を引き起こす。
「馬鹿め! 下級スキルは通用しないと言ったはずだ!」
笑い声を上げながら、レッサースキルプロテクションリングの効果を発動するガリス。
その効果により瞬く間に爆発は掻き消されてしまった……のだが――
「い、いない……だと……!?」
狼狽した声を漏らすガリス。
爆風の中にいるはずのサヤ……。
それがどこにも見当たらないのだ。
その刹那だった――
「縦・一文字斬り……!」
――どこからともなく、そんな声が響き渡った。
「は……!」
咄嗟に上を見上げるガリス。
その瞳に、妖刀を振り上げ急降下してくるスケルトンが映し出された。
ガリスは思わず小太刀で防御体制に入る……が――
(しまった……!?)
直後に気づく、がもう遅い。
斬――――――ッッッッ!
漆黒の一閃が迸り、小太刀ごとガリスの体は頭から真っ二つに切り裂かれた。
敵の姿が消える……ありえない出来事に動揺し、判断力が僅かに鈍った。
それにより、シグレの効果――絶大なる切れ味を失念し、防御体制に入ってしまったのだ。
サヤは爆風を攻撃に使うと見せかけて、自分が跳躍するのに利用した。
そして姿が消えたと動揺したガリスに、上空からの落下速度を利用した純粋な斬撃を叩き込んだのだ。
「お、お頭がやられた……?」
「まずい! 逃げるぞ!」
頭目がやられたことにより、傭兵たちが逃げ出そうと動き出す。
「ふんっ、我の手から逃げられると思うか……?」
傭兵団たちの目の前に、疾風を纏ったサヤがたち塞がる。
サヤの敵はガリスだけではない。
配下を傷つけた他の傭兵たちも同様だ。
「お前たちには黒幕の存在を吐いてもらわなければならないからな。……さぁ、地獄を見せてやる――」
妖刀を手に、静かに迷宮の支配者が言葉を紡ぐのであった……。
◆
「た、頼む! 情報を吐いたんだから命だけは――ぎゃぁぁぁぁぁぁ……っっ!」
【なるほど、まさか貴族が絡んでいようとはのぅ……】
サヤの活躍により、傭兵団はたった一人を残し殲滅することに成功した。
もっとも、その最後の一人も、拷問により情報を吐いたところでサヤによって斬り捨てられた。
「シグレ、貴族とはこの間言っていたこの地の……領主、というヤツか?」
刀身についた血をビッ! と払いながら、手の中に収まるシグレに向かってサヤが問いかける。
【その通りじゃ、サヤよ。あれほどの傭兵ども雇っておったのじゃ。財のある者が裏にいると思っていたのじゃが……貴族だったとは厄介じゃ】
たった今殺した傭兵の話によると、その貴族――ホフスタッター伯爵は、エルフに異常なまでの執着があるようだ。
だからこそ一度目の襲撃が失敗に終わっても、再び攻めてきたし、今後も襲撃を行う可能性は捨てきれない。
さすがに拉致、殺害行為は貴族であっても許されることではないので、自前の騎士たちを使って襲撃してくることはないだろうが……。
「ふむ、何か対策が必要だな」
【その通りじゃ、サヤよ。まぁ、それについては今後、里のエルフたちと話し合って決めるとするのじゃ】
「わかった。……しかし、我ももっと強くならなければいかん。このような物が存在するとは思わなかったからな……」
シグレと会話を交わしつつ、サヤは自分の人差し指の骨に嵌ったリングを見つめる。
ガリスの死体から奪ったレッサースキルプロテクションリングだ。
このマジックアイテムの効果を発動されたせいで、サヤは苦戦を強いられた。
サヤ自身の機転、そして純粋な刀術の実力がなければ……勝負は危うかったかもしれない。
まだまだ修行を重ね、いずれ新しいクラスを身につけ、中級以上のスキルを獲得したいところである。
『ブモ! 強くならなければならないのは俺もですぜ!』
『キシャ! 私もです、サヤ様! まさかサヤ様以外の……それも人間ごときに後れを取るとは……』
サヤの言葉を聞き、ミノとペドラが悔しげに顔を歪ませる。後ろに控えていたゴブリンたちも同様だ。
ミノに関してはサヤが来るまで使命感と気合で何とか里を守りきって見せたが、もう少し遅ければやられていた可能性がある。
ペドラも、地形のせいで実力を発揮できなかったとはいえ、今回はガリスに一方的にやられてしまった。
ゴブリンたちを含め皆、迷宮の支配者に仕える者として、自分たちの実力を恥じているのだ。
「サヤ様……」
「アリサ、それにお前たち、どうした……?」
やり取りを交わすサヤたちの前に、アリサと里のエルフたちが集まってきた。
サヤが何か用かと問いかけると……彼女たちは黙ってその場に膝をついて頭を垂れた。
「サヤ様、一度のみならず二度も里を救っていただいたこと、感謝に絶えません」
「今までは協力関係という立場でしたが、今後、私たちはサヤ様の配下として忠誠を誓います」
アリサ、それにマリナが続き、エルフたちは一斉にさらに頭を深く下げた。
今回の件で、サヤが命を賭けて里を守り抜いてくれたことで、彼女たちは彼を里の長として迎え入れようとしている……そんなところだろうか。
「む……これは……ッ」
そんな時であった――
突如、サヤの体が青白い光に包まれた。
【ふむ、どうやら新たなクラスを得たようじゃの。それ、ステータス展開じゃ!】
どういった条件で取得したのかはわからないが、手に入ったのであれば確認すべきだと、サヤの視界の中にシグレがステータス情報を展開する。
記されていたのは以下の情報だった。
==============================
名前:サヤ
種族:スケルトン
ランク:Eランク
所持クラス:【スケルトンセイバー】【スケルトンメイジ】【スケルトンテイマー】【スケルトンロード】
スキル:《エンチャント》《ファイアーバレット》《ウォーターバレット》《ウィンドバレット》《ロックバレット》《異種族言語理解》《敗者隷属化》《配下上位化》
装備:妖刀・闇時雨
==============================
「新たなクラス【スケルトンロード】、それにスキル《配下上位化》か……」
【名前の雰囲気から察するに……取得条件は、配下を一定数増やす、もしくは他種族を配下に加える、といったところかのう?】
静かに呟くサヤに、シグレが説明をする。
その最中であった――
『ブモ!? サヤ様! 俺の体が光に……!』
『キシャ!? 私の体も……!』
『グギャッ! な、何だこの光は!?』
驚いた声を上げるミノ、ペドラ、そしてゴブリンたち。
その体を、サヤと同じく青白い光が包み込んでいく。
そして――
『ブモ! 何だ、体に力が溢れてくる! それに頭の中に声が……〝ミノタウロス・ナイト〟……?』
『キシャ! 私も同じ感覚だ! それに声も……〝サーペント・ブレイド・ドラゴン〟……?』
『グギャ……何だか視界が高いような? 俺の頭の中にも声がする……〝ゴブリン・ウォーリアー〟……だと?』
――光が止むと、モンスターたちが口々に呟く。
その姿を見て、エルフたちはあんぐりと口を開いている。
まずはミノ。彼の体は一回り大きくなっており、全身が白銀の甲冑のようなもので囲まれている。
次にペドラは、全身を覆っていた硬質な鱗から、刃のようなものが生えた姿に変わっていた。
次にゴブリンたちだが……彼らは大きさが人間と同じほど変わっていた。そして全身を鈍色の鎧のようなものが覆っている。
【なるほど、ミノタウロス・ナイト、サーペント・ブレイド・ドラゴン、それにゴブリン・ウォーリアー……か。サヤの新しく得たスキル《配下上位化》……配下を戦闘に適した種族に変化させるスキルのようじゃの!】
姿の変わったモンスターたちを見て、シグレが納得! といった様子で声を上げる。
「なるほど、確かに今までにない強い生命力のようなものを感じるな」
シグレの説明、そして配下たちの体から迸るマナを感じ取り、サヤも納得する。
「す、すごい……まさかモンスターを進化させる力まであるなんて……」
「さすが私の旦那様だわぁ……」
目の前で起きた出来事に、アリサは呆然とした様子で、マリナはうっとりとした様子で呟くのだった。
◆
「ふむ、今日はもう家に戻るとするか」
ガリスの率いる傭兵たちとの激戦があった夜――
里の中を歩きながらサヤが呟く。
幸い、怪我人はいたものの里やモンスターたちから死者は出なかった。
進化を終えたミノやペドラ、ゴブリンたちも、今はスヤスヤと里の中心広場で寝息を立てている。
エルフたちには忠誠を誓われてしまったが……ひとまず保留、ということにしてもらっている。
「む……家の中から気配がするな、マリナか……?」
戸を開けようとしたところで、家の中から気配がすることにサヤは気づく。
またマリナが夜遊びをしにきたものだと思ったのだが……。
【サヤ……!】
「ご主人様……!」
……サヤが戸を開けると、家の中からそんな声がする。
「シグレ、アリサ……何だ、その格好は……?」
待っていたのはシグレとアリサだった。
そして二人はいつもの着物とメイド服……ではなく、シグレは黒のベビードール、アリサは白のベビードールのみを着ていた。
【サヤ、ワシの初めてをお前に捧げるのじゃ……♡】
「もうこうなったら二人一緒に食べてもらおうと思いまして……♡」
シグレとアリサが、頬を染めながらそんなことを言い出す。
昼間の戦いで、二人はサヤを失うかもしれない恐怖を覚えた。
そんな恐怖心の反動からか、愛するサヤに二人一緒でいいから抱いてもらおうと決意したのだ。
【サヤぁ……♡】
「ご主人様ぁ……♡」
蕩けた表情で、サヤにすり寄るシグレとアリサ。
そんな時であった――
『グギャ! サヤ様、ご報告です! 迷宮の結界が解除されました!』
――そんな声とともに、サヤの配下であるゴブリンが家の中に駆け込んできた。
「ほう、行く手を阻んでいたあの結界か。面白い、さっそく行くとするぞ」
ゴーレのいた階層に存在していた結界が消えた……。
それ即ち、先の階層への攻略が可能になったということだ。
強者との戦いを求めるサヤに、これほどの朗報はない。
シグレとアリサの手をスルリと振り解くと、サヤは家の外へと歩き出してしまう。
【そ、そんな! この疼きはどうすればいいのじゃ……っ♡】
「お、お預けなんて! それはそれで興奮しちゃいます……っ♡」
サヤにあしらわれた二人の少女が、悲痛な……それでいて妖艶な声を漏らすのであった――