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二十七話 守るものを得たスケルトン

 気流を纏い、一気に里の中を駆け抜けるサヤ。

 それとは反対に、戦う力を持たないエルフたちは里の中心へと避難していく。


『剣を持った……スケルトン……?』


 里の北側の入り口にサヤが着いたのと同時だった。

 一人の男が不思議そうな声を漏らす。その背後には二十人程度の男たちが……その誰もが同じく不思議そうな表情を浮かべ、剣や槍を装備している。


「ふむ、やはり敵か。ゴブゴの偵察のおかげであらかじめ知ることができてよかったな」

【うむ、警戒態勢を強めていて正解だったのじゃ】


 ゴブリンたちによる里の周りの偵察。

 それがなければ、今頃この者たちの里への侵入を許していたことだろう。

 ひとまず最悪の事態を防げたことに、サヤとシグレはホッと息を吐く。

 まぁ、サヤは骨なので息など出ないのだが……。


『けっ……モンスターがいるとは聞いてたが、スケルトンまでいやがるのか。まぁいい、魔法スキルで始末しろ!』

『あいよ! 喰らえ、《ファイアーボール》!』


 先頭の男の指示で、後方に控えていた男が叫ぶ。

 男の手のひらから炎属性の下級魔法が勢いよく飛び出した。


「またこれか、我をスケルトンと見るとこればかり出てくるな……」


 飽き飽きといった様子で、サヤはシグレを振り抜いた。


 斬――ッ!


 鋭い音ともに、《ファイアーボール》を真っ二つに切り裂く。

 二つに割れた火球が、サヤの背後で、ゴウッ! と、小規模な爆発を起こした。


『は……?』

『い、一体何が……ッ』

『魔法を剣で叩き割った……だと……!?』


 にわかに信じられない……そんな様子で、男どもが声を漏らす。

 前にも似たような光景を目にしたことで、サヤは面倒くさそうに「ふんっ」と、小さく笑う。


「今度はこっちの番だな……《ファイアーバレット》――ッ!」


 盗賊の一人に向け、サヤが【スケルトンメイジ】のクラスから得たスキル、《ファイアーバレット》を放った。

 猛る炎の弾丸が、途轍もないスピードで襲いかかる。


「まずい! 散開しろ!」

「ス、スキルを使うスケルトンなんか聞いたことねぇぞ!?」


 さすがは大規模な傭兵団の上位組織のメンバーたちだ。

 スケルトンであるサヤが魔法スキルを放ったことに動じはしたが、すぐさま対処するための行動に移る。


 標的を失った《ファイアーバレット》が地面に着弾し、派手に土煙を上げる。


 次の瞬間だった――


 ヒュンッ……!


 ――と、風切り音が鳴る。


 それに続き、ドパッ……! と赤い液体が宙へと舞い上がった。


 傭兵団の男、その一人の首が地べたへと転がっていく……。

 土煙の中に移動したサヤが、そのまま敵の首を刎ねたのだ。


「まずは一人……」


 そんな言葉とともに、土煙の中からサヤが飛び出した。


「この野郎、よくも……!」


 何が起きたのか理解した男の一人が、剣を持ってサヤの前に立ち塞る。


【ククク、無駄じゃ!】


 立ちふさがった男を見て、妖刀形態のシグレが嗤う。


 サヤが再びシグレを振り下ろす。

 対し、男も剣を迎え撃とうと振り上げるが……それは無駄だ。


 サヤの振り下ろしたシグレは、敵の刃ごとバターのように真っ二つに切り裂いてしまう。

 妖刀であるシグレを前に、鉄でできた剣など意味をなさないのである。


『く……っ、囲め! 一斉攻撃だ!』


 真っ二つに叩き割られた仲間を見て、焦った声を上げつつも、この隊の指揮者と思われる男が仲間に指示を飛ばす。


 剣を、槍を手に、サヤを包囲する傭兵団。

 指揮者が「やれッ!」と合図を出すと一斉に武器を突き出してくる。


「ここだ……!」


 敵が攻撃を繰り出すのと同時に、サヤは再び《ファイアーバレット》を発動した。

 そしてそのまま、顕現した炎の弾丸をシグレで切り裂いた。


 轟――――ッッ!


 凄まじい音とともに、サヤを中心に大爆発が起きる。

 爆風に襲われた男どもが、その身を黒焦げにしながらあらぬ方向に吹き飛んでいく。


 かつて迷宮でペドラの《サンドブレス》を無効化するためにサヤが編み出した、《ファイアーバレット》の炎と《エンチャント・ウィンド》による気流を活かした複合技……それを攻撃に使ったのだ。


 もちろん、サヤは気流の壁を自身に施してあるので無傷である。


「ば、馬鹿な……一体何が起きた……? スケルトンがこんな戦力を有しているはずが……」


 指揮者と思われる男が、呆然としながら後ずさる。


「悪いが時間がない。このまま一気に片付けてやる」


 気流を操り、サヤが駆け出した。

 凄まじいスピードで次々と敵どもを切り裂いてゆく。


「た、頼む! 命だけは――ギャアァァァ!?」


 諸手を上げて、命乞いをする者もいたが容赦しない。


 先に仕掛けてきたのは向こうだ。

 それに、どうせ助けたところで、仲間と合流すれば再び襲いかかってくるに違いない。

 サヤはそれを理解しているからこそ、無慈悲に敵の命を刈り取っていく。


(我はこの里のエルフたちを気に入っている。誰一人傷つけることは許さん)


 しばらく里で過ごすうちに、サヤはエルフたちに愛着を覚えるようになっていた。

 それを蹂躙しようなど言語道断だ。


 誰一人傷つけまいと一心不乱にシグレを振るう。

 その切れ味はいつにも増して研ぎ澄まされていた――

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