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二十四話 蠢く悪意

「は……?」

「モンスターとエルフが共存している……だと……?」


 都市ホフスタッター……そのとある屋敷の中で、二人の男が間の抜けた声を漏らす。


 前者の名は〝クリプキー・ホフスタッター〟。

 この都市を治める伯爵である。

 丸々と太った体を派手なスーツとローブで包み、その顔は貴族とは思えないほど醜悪だ。


 後者の名は〝ガリス〟。

 傭兵団を統べる頭目である。

 体は服の上からでもわかるほどに、筋肉で膨れ上がっており、その瞳は鷹のように鋭い。


 そしてその二人に向かって、とある報告を上げる男が一人……。

 ガリスが統べる傭兵団……〝リーサルバイト〟の一員である。


「し、信じられねぇかもしれないが事実です。遠くから確認しただけだから正確な数字はわかりやせんが、少なくともゴブリンが五体、それにミノタウロス一体が、エルフたちと生活している様子でしたぜ!」


 こいつは何を言っているんだ……? そんな表情を浮かべる伯爵とガリスに向かって、配下の男はさらに細かく報告を上げる。


「モンスターとエルフが共存……。にわかには信じられんが……」

「ああ。だが伯爵様よ、もしそれが本当であれば、部下たちが戻ってこないのにも納得がいく。あいつら程度じゃ、ミノタウロスの相手は務まらないだろうからな」


 部下の報告を受け、伯爵とガリスがそんなやり取りを交わす。

 そして、伯爵は言葉を続ける。


「ガリスよ、お前たちリーサルバイトには高い金を払っている。まさかこのまま引き下がるなんてこと……ありはせんよな?」

「もちろんだ、伯爵様よ。こうなれば俺の率いる部下たち……その本隊、それに俺自身が動く。俺ならミノタウロスごときに後れを取ることはない」

「期待しているぞ、ガリス。私はエルフの女をいたぶるのが好きなのでな。あぁ……想像しただけで滾ってくるぞ……!」


 ガリスの返答を聞き、伯爵は満足そうに頷くと、そのままとんでもない言葉を口にするとともに下卑た笑みを浮かべる。


(こんなクズのせいで、エルフの里は滅びるのか……。まぁ、金のためにそれをやるのは俺らなんだがな。ククククク……ッ!)


 ゴミを見るような目で伯爵を眺めながらも、結局は自分も同じ穴の狢だと心の中で嗤うガリス。


 もうここまで聞けばわかるだろう。


 アリサたちの住まうエルフの里への襲撃……それがこの伯爵と、それに雇われた傭兵団リーサルバイトの手によるものであったのだと――


 伯爵はエルフに対し猛烈な興味を見出していた。

 たまたま奴隷市場で買ったエルフの少女……可憐な彼女を鞭で打つことに快感を見出したのだ。


 伯爵は生まれついてのサディストであった。

 神聖ささえ感じるほどに美しいエルフを傷つけることに、とてつもない背徳感を覚えたのだ。


(もっとだ! もっとたくさんのエルフの少女を嬲り、苦しめたい……ッ!)


 伯爵はそんな願望を持つようになった。

 しかし、いくら貴族といえどもそんな大勢のエルフの少女を表立って買うことは世間の目もあり難しい。


 ではそうするか……?


 様々な案を考えた末に至ったのが、ならず者傭兵団であるリーサルバイトに、エルフの里を襲撃させ……女エルフを誘拐し、あとは証拠が残らないよう男のエルフを皆殺しにしてしまおうという考えだった。


 そして、リーサルバイトを率いるガリスは、金さえあればどんな依頼も受ける男だ。

 その実力は本物であり、ならず者の傭兵になる前はBランクの凄腕冒険者であった。

 しかし今回、ガリスは伯爵の依頼を受け、リーサルバイトの下部組織にエルフの里の襲撃を任せた。


 森の中で平和に暮らすエルフのことだ。

 リーサルバイト本隊や、ましてや頭目である自分が動くまでもない……。

 そう考えての判断だったのだが……そう上手くはいかなかった。


 アリサとサヤが出会うことにより、サヤは配下を連れてエルフたちを助け出した。

 残念ながら、里に着いた頃には男のエルフたちは皆殺しにされてしまっていたが……それでも誘拐される直前だった女エルフたちを守り抜き、リーサルバイトの下部組織を殲滅したのだ。


 いつまで経っても戻ってこない配下たち……

 どうなっているのか探るために、今回ガリスは偵察に長けた自分の直属の配下を、エルフの里に向かわせた。

 そして上がってきた報告が、先ほどのエルフとモンスターが共存しているというものである。


(せっかくだ、俺が直接出るからには伯爵よりも先にエルフの女を楽しむことにするか。そして共存しているというモンスター……そっちはたっぷりといたぶってやる。下部組織とはいえ、俺の配下を始末してくれた礼をしてやらねーとな……!)


 壮絶な笑みを浮かべながら、ガリスは心の中で快楽を求め、復讐を誓う。


 エルフの里に、これまで以上の危機が迫ろうとしていた――

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