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二十三話 目覚めた力と揺るがない想い

(まったく、まったく! お母さまったら、わたしがサヤ様のことを気になっているのを知ってて、あんなことするなんて……!)


 昼下がり――


 アリサは刀を振りながら、頭の中でそんなことを考えていた。


 自分の命の恩人……そして優しいサヤに、言うまでもなくアリサは心惹かれていた。

 種族の壁はあるが、それさえも気にならなくなり始めていた。

 そんな時に、サヤがエルフの姿に変身できることがわかった。


(これでわたしはご主人様の赤ちゃんを……!)


 アリサは歓喜した。


 スケルトンのままであっても、彼のことは慕っていた。

 だが、やはり生き物である以上、子どもを成せるかどうかは大きな問題だ。

 その問題が解決したからこそ、アリサは天にも昇る気持ちとなったのだ。


 だが、その翌朝……。

 愛しい彼は、まさか実の母親であるマリナに寝取られてしまった。

 まぁ……そのことに若干の興奮――もとい不思議な気持ちを抱いたのは確かだが、想い人を横取りされたのは間違いない。


 ゆえに、今もアリサは抜刀術の練習をしながらも、頭の中は母であるマリナに対する怒りでいっぱいなのだ。


(ふむ、アリサ……ずいぶんと太刀筋が良くなってきたな。なぜか顔は真っ赤だが……)


 アリサの抜刀練習を眺めながら、サヤはそのことに気づく。

 アリサの抜刀術の動作、それがみるみるうちにキレを増していくのだ。


(もう! もう! お母さまなんか……!)


 最後の一振り、今日はここで終わりにしようと、アリサが渾身の力……そして怒りを込めて、力強く抜刀する。


 次の瞬間だった……。


 ザン――――ッッ!


 ……鋭い風切り音とともに、刀の軌道を描くように閃光が迸った。


「む? 今のは……」

【まさか、スキル……か?】


 目の前で起きた現象に、サヤとシグレが不思議そうに声を漏らす。


 普通の抜刀術で、今のような閃光が走ることはない。

 あるとすれば、何かしらのスキルしか考えられないのだが……。


「あ、あれ? 何、この感じ……頭の中に声みたいなものが……中級スキル、《円月閃》……?」


 アリサもまた、不思議そうに声を漏らす。


 その言葉を聞き、シグレが――


【驚いたのじゃ、まさか本当にスキルを獲得するとは……それも中級スキルとは……】


 ――と驚きを露わにする。


「え、これってやっぱりスキルなのですか……? 囁きみたいなものが頭の中に流れ込んできて、情報が出来あがっていく感じが……」

【アリサよ、人やエルフ……様々な種族は生まれた時にスキルを持っていなくとも、何かの拍子に後天的にスキルが目覚める時があるのじゃ。例えば、修練を積んで技量が上がった時、それから感情が爆発した時とかに目覚める者がいるようじゃ】


 困惑した様子のアリサに、シグレが説明を始める。

 それを聞き、アリサは「あ……っ」と目を見開く。


 修練を積み技量が上がった。そして感情の爆発……。


 アリサは、サヤやシグレが目をみはる速度で刀術の腕を上げていた。

 そして、抜刀術の練習をしながら、先ほどまでマリナに対する怒りで感情を昂らせていた。

 今シグレが言った二つの条件を、自分は無意識に満たしていたのではなかろうか……。


 ちなみに、スキルは大きく分けて六つ存在する。


〝下級スキル〟〝中級スキル〟〝上級スキル〟〝超級スキル〟その上に今はほとんど使い手のいない〝古代スキル〟。

 そして、世界にただ一つしか存在しない〝固有スキル〟だ。


【せっかくスキルに目覚めたのであれば、使いこなせるようになった方がいいのう。アリサよ、今度はスキルの名を声に出しながら、意識的に使ってみるがよい】

「わ、わかりました、シグレ様。……いきます、《円月閃》――ッ!」


 腰だめに刀を構え、息を吸い込んだところで……アリサは素早く刀を振り抜いた。

 サヤほどではないが、それでもかなりの動作速度だ。


 振り抜くと同時、スキルの名を鋭く叫ぶ。

 すると先ほどのように、空を切り裂く音と、斬撃とともに円月型の閃光が駆け抜けた。


 この瞬間、アリサはスキルのことをしっかりと理解した。

 このスキルには、刃だけでなく放たれた円月型の閃光自体にも攻撃力があるのだと……否、むしろこの閃光による攻撃の方が、威力が高いのだと――


「でも……これはなかなかに〝マナ〟を消費するみたいですね……。スキルを放った後、少し疲労感を感じます……」

【まぁ、中級スキルであるからのう。強力である分、マナの消費は大きくなるのじゃ】


 少し疲れた様子のアリサに、シグレは豊満な胸の前で腕を組みながら、さらに説明をする。


 人であれ、エルフであれ、そしてモンスターであれ、スキルを使うときは体内に存在する生命エネルギー〝マナ〟を消費することになる。

 マナは使えば自然に回復するが、その上限量は生命体によってまちまちである。

 中級スキルを二回ほど使って、若干の疲労感を見せていることから察するに、アリサのマナ保有量はそこそこといったところだろうか。


 ちなみ、サヤは迷宮内でバカスカとスキルを使っているが……それは迷宮から得られるダンジョンマナによるものと、妖刀であるシグレから与えられる特殊なエネルギーがあればこそできることなのだ。


「ご、ご主人様! わたし、スキルを獲得しました! 偉いですか……?」

「む、偉い……か、どうかはよくわからんが、強くなるのはいいことだな」

「で、では……その……頭を撫でてくれませんか?」

「ああ、いいぞ。お前は本当にこれが好きなのだな」

「えへへへ……♡」


 サヤに頭を撫でられて、ニヘラっと表情を緩ませるアリサ。


(うん、やっぱりわたしはサヤ様が好き! お母さまになんか負けません!)


 頭を撫でられる心地よさの中、アリサは心に誓う。


(むぅ……やはり、ワシも負けてられんな!)


 もう一人の少女……シグレも心に喝を入れる。


 一度はサヤを寝取られ、心が折れかけていたが、二人の少女は想いを諦めることはしない。

 障害があるのであれば、それを乗り越えようと奮起するのだった――

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