二十二話 翌朝の悲劇
翌朝――
【な、何じゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!?】
エルフの里に、シグレの絶叫が響き渡る。
昨日、エルフの姿に変身したサヤは、エルフの少女たちに狙われた。
それを阻止するために、サヤは一人で別の空き家で寝ることになった。
シグレにアリサ、そしてエルフの少女たちは、互いに抜け駆けをしないという条約を結んだのだ。
そして翌朝、シグレはサヤを起こしに、彼の寝泊まりする家へとやってきたのだが――
「んぅ〜……あらあら、シグレ様、おはようございます♪」
シグレの前で、マリナが目覚める。
そしてその隣で……。
「む、シグレか。どうした大きな声出して」
サヤだ。マリナの隣でサヤが目を覚ましたのだ。
しかしそこは問題ではない。
……否、問題なのだが、それ以上に気になることが――
【サ、サヤ、それにマリナよ……どうしてお前たちは〝服を着てない〟のじゃ……!?】
――と、シグレがわなわなと震えながら、その事実を指摘する。
「ああ、これは昨日マリナに〝えっち〟というものを教えてもらっていてな。邪魔だったので二人とも服を脱いだのだ」
【んなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? えっち!? えっちじゃとっっ!? サヤよ、お前意味がわかって言っておるのか!?】
まさかサヤに限ってそんな……。
シグレは驚愕のあまり、大声でそんなことを聞いてしまう。
それに対し、サヤは――
「ああ、マリナに教えてもらったからな。我とマリナは昨夜〝子作り〟をした。正確にはバキューン! をドキューン! にズドーン! して――」
【ええい、やめんか! もうわかった! お前がマリナとその……してしまったことは理解した! あぁ……どうしてこんなことに……】
自主規制がかかるようなトンデモナイ単語を口走るサヤを、慌てて制止するシグレ。
そしてその場でガックリと崩れ、地面に手をついてしまう。
サヤが……愛しいサヤの初めてが他の女に……。
それもライバルと思っていたアリサではなく、まさかその母親であるマリナに奪われようとは……。
「マリナよ、シグレが悲しそうにしている……。我は何か悪いことをしたのか?」
悲しげに表情を歪ませるシグレを見て、サヤはマリナに問いかける。
するとマリナは――
「いいえ、サヤ様。悪いことなどしておりません。それよりも……ビックリしちゃいました。初めてだというのに、サヤ様ったら激しいんですもの……私、あんなに乱れたのは初めてです……♡」
――そんな風に答えながら、色っぽい表情でサヤの唇に……ちゅっ――と口づけをしてしまう。
【ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!?】
マリナの言葉、そして目の前の光景に、シグレは本当にそのようなことがあったのだと確信し、またもや絶叫を上げ……そのまま気絶してしまった。
「む、おい、シグレ……?」
気絶という現象を初めて見たサヤは、不思議そうな声を漏らすのだった。
◆
「どういうことですか! お母さま!?」
数刻後――
事態を知ったアリサがマリナを問い詰める。
その後ろにはサヤを狙っていたエルフの少女たち、そしてシグレも一緒だ。
「何って……アリサ、私も元々サヤ様のことは気になっていたのよ? それに、変身したサヤ様を見たら……お腹の下が疼いちゃって……♡」
特に悪びれる様子もなく、マリナはそんな風に言葉を返す。
そして昨日のことを思い出したのか、頬をピンクに染め、太ももをモジモジと擦り合わせる。
『ブモっ……サヤ様、エルフに変身したその日のうちにマリナと交尾するとか……』
『グギャッ! もげればいいのに……!』
隅の方で、ミノとゴブイチたちは悪態を吐くのであった。
それはさておき。
マリナの言葉は続く。
「みんな怒っているようだけど、アリサたちが結んだ条約に、私は参加してないわよ? それに、サヤ様だって私との〝えっち〟を楽しんでいたもの。ね? サヤ様……♡」
そのままサヤにしなだれかかり、彼を上目遣いで見つめる。
「ああ、なかなかに興味深い体験だった。えっちというものがあんなに刺激的とは思わなんだ。マリナ、今日もやるぞ」
「はい! サヤ様♡」
【ダメに決まっとるじゃろうがっ!】
「そうです! よりによってお母さまに〝寝取られる〟なんて……!」
シグレはサヤに、アリサはマリナに食ってかかる。
他のエルフの少女たちからも大ブーイングである。
「シグレよ、我は何か悪いことをしたのか……?」
そんな中、サヤがシグレに問いかける。
【サ、サヤよ……そんな不安そうな表情を向けるでない。別に悪いことをしたというわけではないのじゃが……】
サヤの表情に、歯切れ悪く答えるシグレ。
彼女も理解しているのだ。
別にサヤが悪いことをしたわけではない。
むしろ何も知らない彼を、魅惑的な体で誘惑したマリナが悪い。
しかし、シグレもアリサも、そして他のエルフの少女たちも同じようなことをしようとしていたのは事実。
なのでサヤを責めることはできず、マリナにもそこまで強く言うことはできないのだ。
「わかった。ならば今夜もするぞ、マリナ」
「はい! 旦那様……♡」
素直なサヤは言葉をそのまま受け取り、そんなことを言い出す。
マリナも蕩けた表情で、それに応じるのだった。
(あれ、おかしいのじゃ……サヤがマリナに寝取られたと思うと……)
(何だか興奮してきちゃう……)
シグレとアリサ……どうやら目覚めたらしい。