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十七話 我も食事がしてみたい

『グギャッ!? なんだここは、楽園か!』

『ギギッ! 犯し甲斐のありそうなメスがこんなに……!』


 翌日――


 一度迷宮に戻り、何体かの配下を連れてきたサヤ。


 そのうちの数体……主にゴブイチを始めとしたゴブリンたちが興奮した声を上げる。

 その視線はこの里の女エルフたちに釘付けだ。

 ゴブリンもまた異種交配可能な種族だ。見目麗しいエルフたちを目の前にして興奮してしまっているのだ。


「ひっ……」

「やだ、恐い……!」


 ゴブリンどもの視線に晒され、何人かのエルフが怯えた声を漏らす。


 それを見たサヤは――


「お前たち、決してこの里のエルフに手を出すな。命令だ」


 ――と、少々の威圧感を込めて言葉を紡ぐ。


 するとゴブイチたちは『『『ひぇ……っ』』と情けない声を漏らし、その場に跪いた。


 サヤのスキル《敗者隷属化》の効果は絶対だ。

 彼が命令の意を持って命ずれば、例え性欲の強いゴブリンであっても、エルフに手出しはできなくなる。


 まぁ……圧倒的強者であるサヤの威圧感を前にすれば、ゴブイチたちはスキルがなくとも馬鹿な真似はできないだろうが……。


 怯えるエルフたちに、シグレはその辺のことを説明し、彼女たちを安心させてやるのだった。


「あ! お帰りなさいませ、サヤ様っ!」


 サヤがゴブイチたちを連れて里の中を歩いていると、アリサが上機嫌な様子で駆けてくる。

 そしてそのままサヤに近づくと……なんと、自分の腕を彼の腕の骨に絡ませ密着してしまったではないか。


 むにゅん……っ! と、サヤの腕の骨に柔らかな感触が伝わってくる。

 言わずもがなアリサの豊満な胸の感触である。


【お……おい、小娘! 何を気安くワシのサヤに密着しておるのじゃ!】


 アリサがサヤに密着したのを見て、シグレが顔を真っ赤にして食ってかかる。

 どうやら、サヤに他の女が近づくのが気に食わないようだ。ほっぺを膨らませて、嫉妬してます! といった感情が表情にありありと現れている。


「え……? シグレ様はサヤ様の保護者だって言ってましたよね? 別に恋人でもないのですから、わたしがサヤ様に近づこうと問題ないと思いますけど?」

【な……!? アリサ……! なんじゃお前、ワシに喧嘩売っておるのか!? サヤよ、こんな娘に惑わされるでないぞ!】


 アリサの言葉に、シグレはさらに顔を赤くして、張り合うようにサヤの反対側の腕の骨に組みつき、自分も自慢の豊満バストをむにゅむにゅと押し付ける。


(歩きにくい……。だが、不思議と嫌な気持ちはしない。何だ、この感情は……?)


 二人の絶世の美少女に両腕を塞がれたサヤは、そんな疑問を覚えるのだった。


 そんなサヤたちの姿を見て、ミノが「ブモォォォォォ! 羨ましい! 羨ましいですぞ、サヤ様ぁぁぁぁ!」と叫び声を上げ、ゴブイチたちが『グギャッ! くそ! くそ! 爆ぜろ、サヤ様……!』などと呻き、嫉妬の嵐を巻き起こしている。


 あまりに人間染みたミノたちの様子に、他のエルフたちは思わず笑ってしまうのだった。


 エルフとモンスター……この調子なら、打ち解けるのにそう時間はかからないのかもしれない。


 ◆


『ブモッ……腹が減ったな……』

『キシャッ……ミノ、お前もか』


 時刻は昼頃だろうか――

 何やらエルフたちと話し合いをしているサヤたちを見守っていたミノとペドラがそんなやり取りを交わす。


 それを聞いていたシグレが【む、そういうことか。ここは迷宮の外だから定期的な食事が必要じゃな】と、呟く。


「シグレ、どういうことだ?」


 サヤがエルフたちとの会話を打ち切り、シグレの言葉に反応する。


 それにシグレは――


【サヤよ、迷宮の中では〝ダンジョン・マナ〟というエネルギーが発生しておる。モンスターはそのマナを意識せずに吸収し、活動エネルギーに変換しておるのじゃ】


 ――と説明を始める。


 シグレの言う通り、迷宮内のモンスターはダンジョン・マナによって活動エネルギーを得ている。

 他のモンスターや生えている草を喰らうことはあるが、あくまで気まぐれに食べているだけである。


「なるほど、外の世界にはそれがないからミノたちはエネルギー切れを起こしているということか」

【そういうことじゃ。スケルトンであるお前には必要ないが、肉体を持つミノたちには食事が必要なのじゃ】


 サヤにシグレが答えたその時だった……。


「あの……よろしければお食事はいかがですか?」


 ……そんな声が聞こえてきた。

 声のした方を見れば、蓋をした大鍋を運ぶ、アリサを始めとしたエルフたちが歩いてきていた。


 鍋を地面に置くと、そのまま蓋を開ける。

 するとどうだろうか。何とも食欲をそそる匂いが漂ってくるではないか。

 ミノとペドラ、そしてゴブイチたちの腹がゴロゴロと鳴る。


『ブモッ! 何だ、それは……?』

「ミノさん、これは猪の干し肉と野菜のスープです。他にも果物などもありますよ」


 ミノの質問に、アリサが答えながら木製の容器にスープを注ぎ、これまた木製のスプーンを添えて彼に差し出す。


 ミノはそれを受け取ると、ゴクリと喉を鳴らしてサヤの方に視線を向ける。

 食べてもいいですか……? そう視線で問いかけているようだ。


 サヤは静かに頷く。

 それを確認したところで、ミノはスプーン……の使い方はわからないので、容器からそのままスープを口に運んだ。


『ブ、ブモ! 何だこれは!? 美味い、美味すぎるぞ……!』


 一口スープを飲み込んだところで、ミノは歓喜したかのように声を上げる。

 干し肉と野菜の旨味が溶け込み、程よく塩分を感じられるスープ……。

 そんなものを、草や生肉しか食べたことのないミノからすれば、それは食事という概念がひっくり返るような味わいだ。


『グギャッ! 美味い! 美味いぞこれ!』

【ほう……食事をするのは久方ぶりじゃが、これはなかなかじゃの!】


 ミノに続き、ゴブイチたちやシグレもスープにありつく。

 やはりゴブイチたちはスプーンの使い方はわからないようだが、シグレは上品な仕草でスープを口にしている。


 ペドラに至っては、大口を開けてもう一つ用意されていた鍋からスープをエルフたちに流し込んでもらっている。

 スープが口に注ぎ込まれた瞬間、ペドラの目が嬉しそうに細められる。どうやら彼もスープの味に満足したようだ。


 そんな中であった――


(我も食事というものをしてみたいものだな……)


 ――どこか羨ましそうに皆を眺めながら、サヤがそんなことを思うのだった。

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