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十六話 受け入れる者たち

 アリサとマリナとの会話を終えたサヤたちは、シグレの提案でエルフたちの弔い作業を手伝った。

 里には成人した男衆は残っておらず、死人を弔うのにも残った女や子供のエルフだけでは厳しいと判断したからだ。


 初めて行う弔いという行為に、サヤは不思議な感覚を抱きながら、シグレに倣い丁寧に作業を行った。


 そして作業後、アリサとマリナからこの地域の情報を聞き出すことに成功した。


 まず、この国は〝アウシューラ帝国〟という名の国家らしい。

 そしてここは、この国の伯爵が治める〝ホフスタッター〟領の中にある〝ポーラ〟という名のエルフのみが住まう里だということだ。


「今までこの里には、迷い人やたまに来る行商人くらいしか人間は現れませんでした。それが突然野盗に襲撃されるなんて……」


 今までに野盗などによる襲撃はあったのかシグレが問うと、マリナからはそんな答えが返ってきた。


 さらに、シグレはこの国の情勢について質問をした。


 さすがに森の中に里を作り、ひっそりと暮らすエルフたちからの情報だったので詳しいことはわからなかったが、この国――アウシューラ帝国が大規模な国家であること。

そして現在は帝国が有する〝帝国勇者団〟と蘇った〝魔王〟が有する軍との戦いが始まろうとしている……らしい、という情報を得た。


「勇者……以前シグレがステータスの説明をする時に話していた者のことか? 確か〝神聖属性〟という特殊な力を使うとか……」

【その通りじゃ、サヤよ。しかし、まさか本物の魔王が存在するとは……物騒な時代じゃな】


 サヤの質問に答えつつも、シグレは着物からはだけた豊かな胸の前で腕を組み思案顔を浮かべる。

 勇者には賢者や聖騎士といった仲間が、魔王には魔族やドラゴンといった強力な配下がそれぞれ存在する。


 もし今の自分たちが運悪くそのような者たちに遭遇してしまったら……。

 まだ地上に出てくるのは早かったかもしれない……。


 そのような考えが頭の中で巡っているのだ。


「ふん、やはり地上に出てきて正解だったな。先ほどの野盗には拍子抜けだったが、そのような者たちが存在するのであれば……我は強さの高みに近づくことができる」

【ぷっ……あはははは! サヤよ、まさか勇者や魔王に恐怖するどころか闘志を燃やすとは! 本当に面白いやつじゃ……♡】


 自分は不安で考えを巡らせていたというのに、所持者であるサヤ本人は、強さの頂点に属するような者たちに対し闘志を燃やしていた……そんな事実に、シグレは思わず笑ってしまうのだった。


『ブモッ! サヤ様、それではこの森を抜けるんですかい?』

『キシャッ! このペドラ、どこまでもお供いたします!』


 強さを求め昂ぶるサヤに、ミノとペドラが興奮した声を上げる。

 どうやら二体ともサヤに刺激されて闘争本能が揺り動かされたようだ。

 ここしばらくで、この二体もかなりサヤの考えに染まってきている。


「ふん、そうしたいところではあるが……」


 ミノとペドラの言葉に、徐に応えるサヤ。しかし、どこか歯切れが悪い。

 そしてその視線(目はないが)は、この場にいるエルフたちに向けられている。


(この者たちは我らモンスターと違い戦う力がないようだ。もしまた野盗が現れたとしたら……)


 サヤは頭の中でそんなことを考える。

 そんなサヤの考えを読んだのか、シグレがこんな提案をする。


【どうじゃ、サヤよ。ここを拠点として、しばらくエルフ族の生活を学ぶというのは? 人里から離れているとはいえ、外の世界の生き物がどのような生き方をするのか知るのも面白いのではないか?】


 と――


 それに対し、サヤは「ふん……」と声を漏らし、ゆっくりとエルフたちに再び視線を向ける。


「そ、それって……」

「あのモンスターたちが里に残るってこと……?」

「モンスターは恐いけど野盗たちから守ってくれたし……」


 シグレの言葉を聞き、エルフたちが小声でそんなやり取りを交わす。


 皆、命を救われ、野盗に殺された家族を丁寧に弔ってくれたサヤたちに好意……とまではいかないものの、感謝の念を抱いていた。

 そして、野盗が最後に漏らした「このままで終わると思うな」という言葉を聞き、いつまた襲われるか……という恐怖の念を抱いていた。

 本当に、サヤたちが危険なモンスターではないというのであれば、また自分たちを守ってくれるかもしれない……そんな淡い希望も抱いているのだ。


「エルフたちよ、今の話は聞いていたな? もし、お前たちがいいと言うのであれば、我らはこの地にしばらくの間滞在しようと思う。その間に、もしまた野盗が現れたら助けてやる。……考える時間はやる。答えを用意しろ」


 囁き合うエルフたちに向かって、サヤはそう言って里の入口へと歩いていく。


【なんじゃ、サヤよ。言い方はアレじゃが、選択の余地を与えるとは……随分と優しいのじゃな?】

「シグレ……。優しいというのはよくわからんが、アイツら……エルフたちは戦う力を持っていない、それにモンスターと違い敵意も持っていない」


 強者や歯向かってくる者であれば、打ち倒し配下に加えたいとサヤは思う。

 しかし、エルフたちはそうではない。それを無理に従えたところで何の得もない。


 それに……サヤは気になっていた。

 戦う術もなく、野党に蹂躙されるエルフたちを見て、頭の中を駆け抜けた感情のことを――

 それを知るためにも、エルフの里にしばらく滞在しても良いのではないか……そう考えたのだ。


「それに……この里にいれば、また野盗が現れるかもしれない。今度は斬り応えのあるヤツが現れるかもな」

【クククク……なんじゃ、結局は強い敵と戦いたいというのが本音というわけか。やはり、お前は魔王に相応しいのじゃ!】


 闇雲に動き回るよりは、再び現れる野盗を待つ方が強敵と合間見える可能性は高い。

 仲間が戻ってこなければ、次に襲撃をかけるとすれば、より強い者たちを送り込んでくるだろう……そう考えたのだ。


 やはり行動原理に強者との戦いが絡むサヤに、シグレは愛おしげな表情で笑うのだった。


 数刻後――


 里の入口で寛いでいたサヤたちのもとへ、マリナとアリサを先頭にエルフたちがやってくる。


「それで、答えを出せたか?」


 エルフたちに向かい、サヤが静かに問いかける。

 それに応えるべくマリナが口を開く。


「サヤ様、どうかこの里を拠点となさってください」

「そして、わたしたちをお守りください……!」


 マリナ、それに続きアリサが言葉を紡ぐ。

 どうやら話し合いの末に、サヤたちを受け入れることを決めたようだ。


【ふむ、賢明な判断じゃな。モンスターであるサヤたちを受け入れるかどうか……かなり悩んだのではないのか、マリナ、アリサ?】

「シグレ様、確かに悩みました。しかし、残された私たちだけではこの先、生き残ることはできません」

「そして何より、わたしたちは己の勘を信じることにしました。エルフの勘は鋭いのです。サヤ様とシグレ様からは邪悪な気配を感じませんでしたから」


 シグレの質問に、マリナとアリサが少しだけ笑いながらそんな風に応える。

 他のエルフたちも、それに続きそれぞれ頷いてみせる。


 どうやら多数決で決まった……というわけではなく、全員一致でこの答えに至ったようだ。


(勘か……。そういえば、シグレがエルフは勘が鋭いと言っていたな)


 自分たちの勘に従い、サヤたちを受け入れることを決めたことに、彼はそのことを思い出す。


 シグレも(なるほど、疑い深い人間よりも、己の勘を信じるエルフだからこそ出せた結論というわけじゃな……。サヤが最初に交流する異種族としては都合がよかったかもしれんのぅ)と、感想を抱く。


「……よし、ならば我はしばらくの間この里に身を置く。その間はお前たちを守ることを誓おう」


 静かに、しかしハッキリとした声で宣言するサヤ。

 それにエルフたちは深く頭を下げ、感謝の意を表す。


『ブモっ! サヤ様、迷宮以外の場所も支配してしまったぜ!』

『キシャッ! あやつらを力で屈服させることなく支配してしまうとは……恐ろしいお方だ……!』


 やり取りを見守っていたミノとペドラが、隅の方で興奮した声を上げる。


 支配どうこうはさておき。ここから、サヤの地上での生活が幕をあけるのだった――

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