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十五話 妖刀の嫉妬

【ふむ、これで野盗どもは殲滅完了の様じゃの】


 サヤが最後の野盗を斬殺したところで、シグレが妖刀形態を解除して少女の姿へと変わる。

 すると捕えられていた女エルフたちが「け、剣が女の子の姿に……!?」「それに言葉を喋ってる……!」と、どよめき始める。


『ブモッ……どうします、サヤ様?』

『キシャッ、この者たち……配下に加えたところで、この様子では戦う力は持っていない様子です。無駄足だったのでは?』


 ミノとペドラがサヤに近づき、そんな質問を投げかける。


 サヤは配下を求めてエルフの里にやって来た。

 しかし、サヤは野盗どもを仲間にすることなく殲滅を選択した。

 生き残ったエルフは女と子どもしかおらず、配下に加えたところで意味はなさそうだ。

 弱肉強食の迷宮で生きてきたミノやペドラにとって、無駄足だったと判断するのは当然かもしれない。


「シグレ、今殺した男の言っていた言葉が気になる」

【ふむ、サヤも気づいておったか】


 ミノとペドラの質問に応える前に、サヤは徐にシグレに問う。


 サヤと同様に、シグレもそれが気になっていたようだ。

 最後に殺した野盗……彼は〝これで終わりと思うなよ〟と言っていた。

 つまり、野盗たちはかなり大規模な組織であり、襲撃は今回だけで終わりではない……そんな想像ができるというわけだ。


「あの、サヤ様……」


 顎の骨に指の骨を当て、何やら考えを巡らせ始めたサヤに、アリサが遠慮がちに声をかけてくる。


「どうした、アリサ」

「里を救ってくださり、ありがとうございます。そこでサヤ様たちのことを里の者たちに説明したいのですが……」


 アリサの言葉で、サヤは里のエルフたちに視線を向ける。

 その誰もがサヤたちのことをどこか怯えた表情で見つめている。


 野盗を倒してくれたとはいえ、相手はモンスターだ。

 今度は自分たちが殺されるのではないかと恐れている……そんなところであろう。


【そうであったの。皆、安心せい。ワシたちはお前らを襲うような真似はせん】


 エルフたちに向かって、安心するように言葉を紡ぐシグレ。

 人間の少女の容姿をした彼女が説明をしたことにより、エルフたちは幾分か安心したような表情を見せる。


 その様子を確認したところで、シグレはさらに言葉を続ける。


【アリサの言う通り、ワシたちの自己紹介をしたいところではあるが……まずは自分たちのことを優先させてはどうじゃ? 家族を殺された者もいるじゃろう……。ワシたちの自己紹介はその後じゃ】


 と――


 そしてエルフたちを拘束するロープを切るように、ミノに指示を出す。


 ミノタウロスという中級モンスターに近づかれたことで、エルフたちは再び怯えた表情を見せるが……ミノは『ブモッ、怖がるな。サヤ様やシグレ様の命令がある限り、俺はお前たちを襲わないぜ』と、言葉をかける。


 拘束を解かれたところで、エルフたちは自分の夫や息子……その亡骸の横たわる場所へと駆けて行くのであった。


「あの……サヤ様でよろしかった、でしょうか……?」


 そんな中、サヤに恐る恐るといった様子で声をかけてくるエルフが一人……。

 見れば野盗に犯される寸前に、助け出したアリサの母であった。


「そうだ。……お前は行かなくていいのか?」

「私は夫を昔に亡くしておりますので……唯一の家族であるアリサは、サヤ様のおかげで無事でした」


 そう言って、隣にいるアリサの頭を撫でる。

 アリサも「お母様が無事でよかったです……!」と、そのまま彼女に抱きつく。


【サヤよ、この光景を見て何を思う?】

「シグレ……よくわからない。……だが、嫌な感じはしない……な」


 こっそり後ろから話しかけてきたシグレに、サヤは何とも言えない不思議な感情を抱きながら、静かに答えるのだった。


 ひとしきり抱き合うと、アリサの母が話を再開する。


「申し遅れました。私の名前は〝マリナ〟といいます。この子の……アリサの母です。娘を、私を、そして里を救ってくださったこと、感謝いたします」


 そう言って、深く頭を下げるアリサの母――マリナ。

 それに続き、アリサも深く頭を下げる。


「むぅ……」


 初めて人助けをし、感謝というものをされたサヤ。

 どうしていいかわからず、小さな声を漏らしながら、自分の頭蓋の後頭部を指の骨でカリカリと掻く。


『ブモっ! サヤ様が恥ずかしがっている……だと……!?』

『キシャっ! 萌えるぞ、萌えますぞ、サヤ様……!』


 自分たちの支配者が戸惑う様子を見て、ミノとペドラがそんな下らないことで隅の方で盛り上がる。

 どうやら普段は魔王然とした振る舞いをするサヤと、今のサヤのギャップに〝萌え〟という感情を見出してしまったようだ。


 それはさておき。


 戸惑うサヤの代わりにシグレが話を進める。


【マリナといったか? 気にするでない。ワシたちは自分たちがやりたいようにやっただけじゃ】

「えっと、あなた様は……私の見間違いでなければ剣から変身していたような……」

【ワシの名はシグレ、人格と人の形を持つ妖刀じゃ。今はサヤの恋び――保護者をしておる。そしてサヤはとある迷宮の支配者じゃ】

「人の形を持つ武器……それにスケルトンが迷宮の支配者ですか……。ですが里の男衆が、全く歯が立たなかった野盗たちを殲滅した戦闘力、それに中級モンスターを従えているのを見るに本当のことのようですね」


 シグレの言葉に、嘘のようなことでも納得せざるを得ないと理解するマリナ。

 そしてシグレが途中で言いかけた言葉。彼女の僅かにピンクに染まった頬、そしてサヤを見つめる優しい瞳を見て、彼女が彼に惚れ込んでいるのだろうと何となく理解する。


『ブモっ、俺はミノ! サヤ様の配下の一体だ!』

『キシャッ、私の名はペドラ。同じくサヤ様に仕える配下の一体である』


 支配者たるサヤと、その保護者であるシグレが自己紹介したのであれば、自分たちもするべきであろう……そう判断したミノとシグレが、アリサとマリナに向かって名乗る。

 近づいてきた中級モンスターに、マリナは引き攣った表情を浮かべつつも、二体にも里を救ってくれた礼を口にする。


「ミノ、興奮するな。この者たちが怯えている」

『ブ、ブモ! 申し訳ありません、サヤ様……!』


 サヤが嗜めると、その場で跪いて謝罪を口にするミノ。


 アリサとマリナを見るミノの瞳は血走り、息は荒くなっていた。

 二人は絶世の美少女と美女と言っても過言ではない容姿を持っている。

 胸はこれでもかと実っており、例えるのであれば〝メロン級〟だ。

 そんな二人を前にしてミノは興奮を覚えていたのだ。


(あ……サヤ様って……)

(見た目は恐いけどお優しいのね……)


 怯える自分たちを気遣ってくれた……。

 そのことに気づいたアリサとマリナは、そんな感想を抱く。


 二人とも心なしか頬がピンクに染まっているような気がするが……スケルトン相手にそれはないだろう……多分……。


(むぅ……サヤよ、なぜかエルフに優しいような気がするのじゃ……)


 サヤの言動を見て、シグレはそんなことを思い、むぅ〜! と、ほっぺを膨らませるのだった。 

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