百三話 雪山に潜む者ども
翌朝、朝食を済ませ山登りを再開して少し経った頃だった――
「フラン、これを見てくれ」
そう言って足を止め、地面を指差すサヤ。
そこには人の足跡のようなものが、しかしそれしては大きすぎる。
「これは……やはりいるようですね、魔族が」
足跡を見つめながら、静かに言うフラン。
ヴァルカンとダークも真剣な表情で頷いている。
「シグレよ。今さらなのだが、魔族とはどのような存在なのだ? 何となく人類と敵対する種族認識しているだけなのだが……」
「サヤ、魔族とはお前の言う通り人類の大敵じゃ。人間を殺すことに快楽を見出し、さらに言えば七大魔王やその各配下である四魔族たちに連なりし存在なのじゃ。人類と敵対し種族の存亡をかけて、常にどこかの国や地域で戦いが起きておる」
サヤの質問に、改めて魔族がどんなものかを詳しく説明するシグレ。
彼女に続き、フランが補足をする。
「それに加え、魔族は通常の人族と比べ強力な力を持っている場合がほとんです。私たちのように特殊な力を持っていなければ、個々で対抗することは不可能と言われています」
……と。
「なるほど。そんな厄介な魔族がこの山脈に潜んでおり、なおかつバハムートと手を組んでいる、もしくは操っている確率が高い……そういうことだな?」
「その通りにゃ、サヤくん。どれほどの数が潜んでいるかはわからにゃいけど、魔族の足跡が見つかった以上、心して進む必要があるにゃん」
サヤの質問に、ヴァルカンがそう言って答えた……そんなタイミングであった――
「ガオーーンッッ!」
そんな鳴き声……否、咆哮が鳴り響く。
声のした方――上空を見ると、持つ青白い体色の翼竜、そしてその背に跨る人のような姿が。
「アイスエッジワイバーンにゃ!」
「それに魔族も乗っています!」
警戒の声を上げるヴァルカンとフラン。
サヤたちもそれぞれ得物を構える。
「ククッ、何やら不穏な気配がするかと思えば人間、それにスケルトンか」
アイスエッジワイバーンの背中から、気取った喋り方でサヤたちを見下す存在――魔族。
身長は二メートルくらいあるだろうか、薄い紫の肌、髪は毒々しい緑色をしている。
「魔族、この山で何をしている」
そう言って、聖剣 《アロンダイト》を召喚しその切っ先を魔族へと向けるフラン。
彼女が聖剣を呼び出したのを見て、魔族が驚いたかのようにその目を大きく開く。
だがすぐに冷静さを取り戻したのか、首から下げた角笛のようなものを口にし、その音色を大きく鳴らす。恐らく増援要請の合図といったところだろうか。
「やれ! あの人間どもを凍らせてしまえ!」
そう叫び、フロストエッジワイバーンの体を蹴りつける魔族。
フロストエッジワイバーンはどこか悲しげな咆哮を上げると、その顎門から凍てつくブレスを放った。
「やらせるか! 《デモンズシールド》!」
いつの間にか悪魔の姿――第一形態へと変身していたグランペイルが、魔法陣型の魔力の盾を展開し皆を氷のブレスから守ってみせる。
「よくやった、次は我に任せろ」
そんな言葉とともにその場を飛び出すサヤ。
凄まじいスピードで跳躍すると、闇霞をコントロールすることで魔法陣型の足場を形成し空中を駆る。
そして――
「喰らうがいい……《ウィンドバレット・極》!!」
スキルを発動。サヤの頭上に魔法陣が展開し、その中から高圧縮された巨大な風の弾丸――否、もはや砲弾とも呼ぶべき攻撃が放たれた。
轟――ッッ!!
と嵐の如き音を鳴らし、フロストエッジワイバーンと魔族に直撃する。
「ぐっ!? 制御が……ッ!!」
なす術もなく、魔族は自身の駆る竜とともに地面に叩きつけられた。
「サヤ、さらに強くなっていますね……っ!」
珍しく興奮した声を漏らすフラン。
そう。彼女の言葉の通り、サヤはドラキュリアとの戦いを経てさらにパワーアップを果たしていた。
今は放ったのは既存のスキルが《属性弾・極》へと進化したうちの一つである。
「ふむ、進化前は敵に小さなダメージを与える程度の風の弾丸を打ち出す程度の力しかなかったが……これはいい」
試し撃ち程度のつもりでスキルを発動したサヤであったが、その絶大な攻撃力に満足そうに頷く。
「グ……グルル……ッ」
地面に叩きつけられたフロストエッジドラゴンが、苦しそうな声を漏らしながらサヤを見つめている。その横には頭を打ち付け、気絶した魔族の姿が……
「ふむ……氷の竜よ。我の配下にならぬか?」
シグレの峰を肩に置きながら、フロストエッジドラゴンに問いかけるサヤ。
しかし――
「つ、強き者よ……あなたのような者のような誘いであれば是非とも。しかし、私にはヤツの――魔族の術師による呪いがかかっている……」
呻くように声を振り絞るフロストエッジドラゴン。
その瞬間、サヤの中で不思議な感覚が走り抜ける。
「これは……《敗者隷属化》のスキルがレジストされた、のか?」
「どうやらそのようじゃな。恐らくこのドラゴンが言っていた魔族の術師による呪いとかやらのせいじゃろう」
サヤの言葉に、妖刀形態のシグレが答える。
「ふむ、どうしたものか……」
配下にできないのであれば、このドラゴンは始末すべき。
しかしそれは少しばかりもったいない。何か手はないものか……とサヤは逡巡する。
フロストエッジドラゴンの助けを求めるかのような瞳も理由の一つである。




