百二話 過去の因縁
活気のある都市の表通りを歩きながら、フランたちがぽつぽつと話し始める。
「サヤの言っていた通り、バハムートと私たちには過去に因縁があります」
「一年前、私たちは魔族の討伐を依頼されたにゃん。複数の魔族との戦いの最中、ヤツ……バハムートは現れたにゃ」
「バハムートの乱入により、戦況を見出された妾たちに大きな隙ができた。その隙を突き、魔族の術師が封印と転移の効果があるマジックアイテムを使い、妾は禁忌の森の奥にある迷宮へと飛ばされ、そのまま封印されたのだ」
なるほど、ダークが迷宮に封印されていたのにはそのような理由が……
フランたちの話を聞き、サヤそのことを理解する。ダークの言っていた悪き存在、その正体が魔族だったのだと。
「バハムートが戦いに乱入してきたのは魔族と手を組んだからなのか? それとも操られていたのか?」
「サヤくん、それはわからないにゃん。バハムートは暴れるだけ暴れると、大きな魔法陣のようなものの中に転移していったにゃ」
「それを確かめるために、そしてもし魔族に操られているのなら、これ以上私たちのような被害者を出さぬために……そんな思いで私たちは今回の旅に同行することを決めました」
サヤの質問に、過去を思い出し悔しそうな表情で答えるヴァルカンとフラン。
そえに続き、ダークが言う。
「サヤ殿、もしバハムートと戦うのであれば、妾にやらせてほしい」
「お前単騎で、か?」
「うむ、ヤツにはやられた借りを返さなければ……そして万一魔族に操られているのであれば、解放してやらねばならぬ。それができるのはこの中で妾だけだ」
神妙な様子のダークに、サヤは「ふむ……」と逡巡する。
「わかった、バハムートはお前に任せよう。しかし無理だと判断した場合は割って入るぞ」
「サヤ殿、かたじけない」
そう言って、ダークは足を止めて頭を下げる。
そんな彼女を持ち上げると、サヤは腕に抱いて頭を撫でてやるのだった。
「そういうことなら、俺もとことん力を貸すぜ。他のドラゴンや、万一魔族が潜んでいるなら相手は任せな!」
そう言って、前足で自分の胸をトンっと叩いて頼もしい表情を浮かべるグランペイル。
アリサも「魔族が潜んでいるならモンスターも連れているはずです。私も戦ってみせます!」と意気込む。
「ドラゴンに魔族――相手にとって不足なしじゃ!」
シグレも、サヤの妖刀としてやる気満々といった様子。
「皆、感謝します」
「サヤくんたちにはまた恩ができちゃうにゃね」
「本当だな、ヴァルカン嬢よ」
三人揃って感謝の言葉を伝えるフランたち。
そんな彼女たちに、サヤは「気にするな」と言って歩き出すのだった。
◆
馬車に揺られること半刻ほど――
サヤたちはムルトニア山脈の麓へと辿り着いた。
険しい山道となるため、登山者はまず現れることはないだろうということで、サヤはスケルトンの姿に変身する。
「皆、装備を確認するのだ」
そう言って、懐から先ほど買った品々を取り出すサヤ。
彼以外のメンバーは追加で買ったマジックアイテムを装備する。
山頂に近づけば近づくほど空気が薄くなり活動が困難になる。
それを緩和してくれるマジックアイテムだ。
「それでは行くとしましょう、バハムートのもとへ――」
フランを先頭に、一行は山道を登り始める。
◆
山道を登り始めて半日――
「話によると、そろそろ山小屋が見えてくる頃なのですが……あ、ありましたね」
そう言って、遠くの方を指差すフラン。
見れば木製の山小屋がぽつんと立っている。
「ふむ。それでは、今日はこの辺で休むとしよう」
「そうですね。まだまだ元気ですが、明日以降のために体力は温存しておかなきゃですし」
サヤの言葉に頷くアリサ。
さすが森育ち。過酷な山道だというのに、まだまだ余裕な様子だ。
言わずもがな、Sランク冒険者パーティの面々であるフランたちにもそこまでの疲労は見えない。
小屋のある方へと進んでいくサヤたち。
もうすぐ休めるが警戒は怠らない。
いつドラゴンや魔族が出現するかわからないからだ。
気配がしないか確認し、一気に小屋の扉を開けるサヤ。
どうやら魔族どころか、しばらく人が使った気配もない。
一応交代制で眠りをとることになるだろうが、それなりに安心して過ごせるだろう。
「お、ベッドも用意されているぜ!」
そう言って、ベッドに飛び込むとピョンピョンと跳ね始めるグランペイル。
多少の埃が立つが、これであれば許容範囲であろう。
「まったく、お前それでも本当に異界の大悪魔なのか?」
グランペイルの様子に呆れた表情を浮かべながら、ダークもベッドの上に飛び乗ると、ぽてんっと寝転ぶ。
マジカルウォーマーのおかげで十分に温かいのだが、ヴァルカンがなんとなく気分的に暖炉に薪を入れて火を付ける。
「ふむ、こういった雰囲気も悪くないな……」
椅子に腰掛けながら、暖炉の火を見つめてそんな感想を漏らすサヤ。
少し休んだのちに、ダークの収納スキルで持ってきた食材を堪能し、翌朝まで過ごすことにする。




