8 舐めると痛い目を見ますよ?
仮面を取り本来の力を解放した俺の迫力に、白髪の男は久しく感じていなかった感情が湧きあがってくるのを感じていた。
そう、恐怖という感情を。
「Lv.300。ハッタリだとしてもこれ程の圧力。私より高レベルであるのは間違いないようですね。ですが、私はこんな所で死ぬわけにはいかないんですよ。あのお方の計画が実現するまではね……。いいでしょう。 そこまで言うならあなたの力を見せてください、その自信、砕いて見せますよ」
「へぇ……、意外と悪あがきはしないんだな」
「当たり前です! 私はあのお方の忠実な臣下。その辺りにいるような低級魔族とは格が違うのです!」
あのお方……? つまりこいつよりも更に黒幕がいるということか??
「さぁ、行きますよ! 中級魔法 亡者の嘆き!!」
俺が考え込んだ隙を突き、男は地面に手を置くとそこから巨大なアンデッドの腕が4本出現。
その腕に触れた植物やネズミなどの小動物は瞬時に生気を吸い取られ干からびていく。
「なるほど、亡者の嘆きか」
「やはりご存知ですか。で、あるならばこの魔法の効果ご存知でしょう?? これは腕に触れた生きるもの全てから生気と魔力を吸い、それを元に更に巨大化していく。放っておくとこの森は全てのみ込まれるかもしれませんねぇ」
確かにそうだが、アンデッドである俺には全く効果がないだろ、これ。
一体こいつは何を考えているんだ??
しかし男は俺の顔を見つめると、その口元を緩ませ笑みを浮かべた。
その瞬間、背後のエイラ達から声が上がり地響きと共にもう1本の腕が地面から生まれエイラ達に襲い掛かる。
そうか、こいつの狙いは最初から!
「あなたにはこの魔法は効かないかもしれませんが、彼女たちにはどうでしょうね」
「くっ!! 何が悪あがきはしないだ、汚い手を使いやがって!!!」
笑い声を上げる男を睨みつけると、身体強化の魔法を使用しエイラ達の元に急ぐ。
しかし既に亡者の嘆きはエイラ達に到達し、その攻撃をルナがかろうじて防いでいる状態だった。
「痛っ、いだだだだだだ」
「が、頑張ってくださいルナ様!!」
「おぉぉぉ! これはすごい!! 猫様、もう少しの辛抱です!!!」
「お、お前達、褒めるのは結構だけど、少しくらい手伝って」
巨大な腕をその小さな体で止めるルナの腕は徐々に生気を失い干からび始めていく。
それに気づいたエイラは、ルナの背に手を置き自らの魔力を注入、少しでもルナが耐えられるように支えていった。
だ、だめだ、 このままじゃエイラの魔力も長くは持たない。そうなったら3人とも……。
「ぬぉぉぉぉぉ!! 私はこんな所で死にませんよ!!!」
「全く、お前はすごいのかバカなのか分からないな」
間一髪と言ったところか。
3人の元に到着した俺はエイラ達の後ろからルナが押さえている腕に手を当てる。するとその腕は一瞬で炎に包まれ燃え尽きていった。
「タ、タイチ様、遅いですよ」
「ご、ごめん。てか、泣くなよ!!」
ルナは俺の顔を見るやいなや、涙を浮かべ俺のマントに飛びつき鼻水をマントに擦り付けていく。
き、汚い、まじでやめてくれ!!
でも、こいつも頑張ったんだな。
何とかマントにしがみつき離れないルナを引きはがすと回復を使用。
ルナの体は光に包まれ、干からびていた指先や腕の一部は徐々に元に形状に戻っていった。
ルナは守護者だが、俺の創造で新たな肉体を手に入れている。
つまりこれは体を構成する俺の魔力が吸い取られた結果だろう……。
エイラが魔力を分けてくれていなかったら危なかったかもしれない。
「わっ! な、なんですかタイチ様!!」
「いや、何でもない。ただ、よく頑張ったなエイラ」
「……はい」
俺がルナの治療を終え隣で腰を抜かしていたエイラの頭を何度も力強く触ると、エイラは少し抵抗するもどこか嬉しそうに笑みを浮かべるのだった。
「後は俺がやる。皆は少し下がっていてくれ。ルルミア。動けるようならルナとエイラを連れて俺の後ろへ少し離れてくれるか?」
「わ、分かりました!」
ルルミアはルナを腕に抱え腰を抜かしているエイラを背負うと、一度俺に頭をを下げ急ぎ後方の家の瓦礫に身を隠した。
まずは残りのあの腕を何とかしないといけないな。これ以上村を荒らされたんじゃ報酬も貰えないかもしれないじゃないか。
それだけは何としても避けなければ。この世界に来てまで金欠は嫌だ!!!
「上級魔法 神々の業火(ゴッズヘルファイア)!!」
3人が安全な場所まで退避したのを確認し右手を前方に向けると、4本の腕と男の足元に魔法陣が浮かび上がった瞬間、凄まじい勢いで炎が天に向かい吹き上がる。
その威力は凄まじく、上空へと吹き上がった炎は空を覆っていた雲を消滅させ、辺り一面を昼の如く照らしていく。
しばらくして炎が消失し辺りが再び闇に包まれていくと、そこにあった4本の巨腕は完全に消失していた。
しかし、驚いたことに男だけは依然として無傷のままその場に立っていたのである。
す、凄っ。これってこんなに威力のある魔法だったのか。
これからは上級以上の魔法は自重した方がいいかもしれないな。
だがあれを受けて無傷ということはやっぱりあいつは。
「お前、スキル 完全防御を持っているな??」
「ハハハハハッ! その通りです。流石はそれだけのお力を持っているだけの事はある。私のスキルに気が付くとは」
俺の言葉を聞いた男は大きく笑いながら答えた。
「おいエイラ、完全防御とは一体どのようなスキルなんだ?」
「……私も詳しくは知りませんが、確か上位魔法でさえ防ぐ事が出来るというスキルだったはずです。その希少性から、500年前の魔族との戦いでは重宝された存在だったとか……」
「その話なら私も知ってるわ。レベルが上がるにつれ身に着けることが出来るスキルの中ではかなり上位のものだったはずよ」
「なるほど……。だからタイチ様の攻撃を防ぐことができたのね……。生意気な奴め!」
瓦礫の隙間から戦況を眺めていたルナは、同じく戦いを見つめているエイラとルルミアの説明で男がどのような能力を持っているのか把握し、どこから持ってきたのか白い布を口にくわえ地面を何度も踏みつけていた。
「さぁ、どうしますか?? あなたの攻撃は私には通じない」
確かに完全防御を持っているのは厄介だな。
「……まぁ、もうそれもどうでもいいんですが」
しかし俺が完全防御の存在に一瞬思案を巡らせた瞬間、男の首元の水晶が光を放つと俺の左右に黒い影のようなものが発生。
その影は徐々に纏まり人型を形成すると、翼の生えたアンデッドへと姿を変えるのだった。
「先ほどの亡者の嘆きはただの時間稼ぎですよ。この水晶は魔力を込めるのに時間がかかるのでね。召喚 上級アンデッド 空の死者(スカイアンデッド)。 ……2体ともレベルは60を超えます。流石のあなたでも同時にこの2体を相手にするのは骨が折れますよ??」
「ギィィィ!!」
「ガァァァ!!」
「さぁ、行きなさい! 空の死者(スカイアンデッド)!!」
男の言葉で、空の死者(スカイアンデッド)は俺へと移動を開始した。
Lv.60。確かに普通に考えれば強いんだろうけど……。
「まさか上級アンデッドを召喚するなんて……。 お前、俺を舐めてるだろ??」
しかし男の考えは予想が外れ、いや、俺の力は彼の想像を遥かに超えていた。
奇声を上げながらとてつもない速さで自分に迫ってきた空の死者(スカイアンデッド)の頭部を両手でいとも簡単に捕らえると、同時に地面へとその手を振り下ろした。
その衝撃で捕まっていた2体の空の死者(スカイアンデッド)は頭部を完全に破壊され、その身体は煙を上げながら消滅していく。
「ば、馬鹿な、こんなに簡単に敗れるなんて……。まさか、こいつ本当にLv.300だというのか……」
男はあまりに呆気なく自分が召喚できるアンデッドの中で最強のアンデッドを倒されたことで、恐怖のあまり足が動かないのだろう。
彼の視界には自分へと近づいてくる俺の姿があり、それは目の前まで進んでくると動きを止めこちらをじっと見つめているのだから。
「……ハ、ハハハッ! これほどまでに力の差があるとは! ですがあなたの攻撃も私には」
「1つ教えてやる」
「えっ……?」
「確かに完全防御は上級魔法さえも防ぐことが出来る。でも完璧に全てを防げるわけじゃない。一定以上の上級魔法以上の攻撃を受け続ければ、限界を超え完全防御は崩壊する」
(スキル 習得者が発動。 魔法書を選択してください。)
俺は習得者を発動させると、ある魔法書を手元に出現させその中央部に書かれている魔法に視線を移した。
そしてもう片方の手、左手をこちらを見つめたまま動くことが出来ないでいる男の頭部の上に乗せる。
「一体なにを言って」
「お前の命の期限は俺に会った時から決まってたってことだ。 ……上位上級魔法 永遠の苦しみ|(エターナルサファ―)。」
俺のその言葉によって魔法書の一文が光を放つと、次の瞬間男の体から無数の小さな炎が発生していく。
だが完全防御のお陰か、未だ男の表情にも余裕が見て取れた。
「ハ、ハハハッ、どうだ?! お前の攻撃など私には全く効かない。 な、なんだこれは……!!」
ボッ、ボッ!! 男の体に発生した炎は発生しては消え、発生しては消えるのを繰り返しながら徐々にその数を増やし男の体を包み込み始める。
「何故だ!? なぜこの炎は完全防御で消してもまた生まれてくるんだ。それに何だか体に熱が伝わってきて……」
「上位上級魔法は上級魔法の更に上の魔法。その中でも永遠の苦しみ|(エターナルサファ―)は相手の魔力を吸い取り永久的に燃え続ける魔法だ。見かけは地味だが、お前にはこれ以上なくうってつけの魔法だな」
「上位上級魔法だと……!! そんな魔法を使う奴なんてこの世にいる訳が、クソ、クソがぁぁぁぁぁ」
パリンッ!!! 男の完全防御はついに俺の攻撃に耐え切れなくなると消滅。
その瞬間、男の体は一瞬で炎に包まれ、辺りには男の断末魔が響き渡る。
「あぁぁぁぁ、ハ、ハハハ!! これで勝ったと思わないことです、あなたはあのお方の計画を妨害したのですからね」
「……その時はまた返り討ちにしてやるよ」
パチンッ!! 燃え盛りながらも笑みを浮かべ笑い声を上げる男に答えたのと同時に右手の指を鳴らすと、炎はさらに火力を増し、一気に男を燃やし尽くすのだった。
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