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5 獣人達の村には何がいる??

 俺達一行は、地獄狼ヘルウルフ襲撃後ようやく落ち着きを取り戻した獣人2人の後に続き森の奥へと進んでいた。

 この2人、二足歩行の狼の様な風貌をした白毛の獣人ヘスタと、兎の様な耳を持っているが人間とあまり変わらない容姿の女性ルルミアは俺達を先導しながら自分達が置かれている状況を説明していた。


 彼らが言うには、あの地獄狼ヘルウルフは村を襲ったモンスターの1体らしい。

 その討伐のため冒険者を雇おうとこの辺りで一番大きな街であるギュースト市へ向かっている途中で運悪く見つかり殺されそうになっていたところを俺達に助けられたという訳だ。

 そして、俺達は今村の生存者達が隠れているという村の避難所へ向かっている。


 「しかし、まさかあのような所で冒険者様とお会いできるとは幸運でした」


 「本当ですね村長。しかも地獄狼ヘルウルフを一撃で倒すほどの使い魔を使役する方なんて、滅多にいないですよ」


 へぇ、あの狼の方は村長なのか。

 そう言われれば少し年を取っているようにも見える。

 俺は笑いながらも前を進んでいるへスタとルルミアを観察していた。


 獣人は個体によって人間のようなものもいればヘスタのように獣の様な容姿の奴もいるみたいだな。

 なんせこの世界に来て殆ど引きこもっていたせいで、あの部屋で見つけた魔法書の知識しかない。

 まずは情報を得るところから始めないといけないなこれは。


 「タイチ様、どうしました??」


 「ん? いやなんでもないエイラ。 だが全く、旅に出てすぐこうも厄介ごとに巻き込まれるとは」


 「ふふふふっ。でもそう言いながらお助けになるタイチ様のお優しい所、私は好きですよ。 ……あれ? タイチ様何だか顔の血色がいいような」


 エイラは笑みを浮かべ答えた後、俺の顔を不思議そうに見つめると俺の手を握った。


 「え、暖かい。 それに、何か脈を打っているような」


 「まぁ、あのままだとあいつらも俺をアンデッドと気づくだろうしな。 上級魔法 死者(ししゃ)反逆(はんぎゃく)で今の俺は人間と変わらない姿になっている」


 上級魔法 死者(ししゃ)反逆(はんぎゃく)

 これは通常死体でしかないアンデッドの肉体を、魔法を使用している間のみ生前の姿と変わらない肉体へと変化させる魔法である。

 上級魔法の中でも習得が最難の魔法の一つであり、また、使用には膨大な魔力を消費するため上級冒険者クラスでも長く使用することは出来ない。

 その上、死者の反逆を使用中は上級魔法以上、つまり中級魔法までしか使用できないという欠点もある。

 だが俺はその底知れない魔力量から、まるで初級魔法かのようにその死者の反逆を使用しているのである!


 「上級魔法ですか!! 流石はタイチ様、そのような高位な魔法を使えるなんて!」


 エイラは俺の言葉に目を輝かせながら答えた。

 まぁ、これを使っても何故か右目だけはこのままだからな。

 このマスクを外す訳にいかないのがツラいところだ。

 右目部分を覆っているマスクを触っていると、前を歩くへスタとルルミアが後ろに振り返る。


 「冒険者様、到着致しました!! ここが我らが避難している場所です」


 俺がその言葉で2人が指差す方向に視線を向けると、そこには川が流れ、奥には小さな達滝が流れ落ちている場所に何十人もの獣人達が避難している姿があった。



 「村長! もうお帰りになられたんですね!!」


 「ルルミアもよく戻ったな!!」


 しばらくして避難所へ戻ってきたへスタとルルミアの姿を確認した村人達は幼い子供から老人に至るまでが2人の元に集まってきた。

 そしてその後ろに続く俺達を見つけると、さらに大きな声が上がる。


 「おぉぉ!! 冒険者様だ! これで村は救われる!!!」


 「神様のご加護のおかげだわ!!」


 「ねぇ! お姉ちゃんも冒険者なの?!」


 「え、ええ! あなた達を助けに来たのよ」


 おいおい、そんな事言っていいのか??

 まぁ、相手もうれしそうな顔をしているし、今回は大目に見るか。

 俺は駆け寄ってきた子供に笑顔を浮かべながら答えるエイラに小さく笑みを浮かべると、周りを更に見渡していく。


 何人か怪我人もいるみたいだな。

 回復ヒールを使用してもいいが、死者の反逆を使っているからな。魔力を多く使う回復ヒールはあまり使いたくない。

 確か俺が習得した魔法書の中に回復薬の作り方があったはず……。

 えっと確か材料は……。あーくそ!! 魔法以外はあまり覚えてないんだよなー。


 (スキル 習得者が発動。 魔法書を選択してください)


 な、なんだ?!?!

 魔法薬の材料を思いそう苦労していると声が頭の中に響き、いくつもの魔法書が目の前に浮かび上がってきた。

 これは今まで俺が見てきた魔法書だ。そうか、習得者で得た魔法書はいつでもその中身を再確認できるってことなのか。

 そう言えば俺特定の魔法しか使ってなかったもんなー。この能力に気が付かない訳だ。


 俺は小さく笑みを浮かべると、目の前に浮かび上がる魔法書の中から回復魔法に関するものを見つけ出し、それを選択。

 すると手元にその魔法書が実際に現れるのだった。


 「これはすごいな。この能力があればこれからかなり楽になりそうだ。 っと、その前に今は回復薬の作り方だ」


 ふむふむ。これならハーブティーを作る際に手当たり次第に摘んだ野草の中に似たようなものがあったな。

 もっと早くこの能力に気が付いていればハーブティーの調合を見つけるまで何度もマズいお茶を飲むことも無かったのにな。

 空間魔法マジックボックスの中に収納していた大量の野草を出現させると、その中から魔法書に書かれている薬草を見つけ調合を始めていった。

 するとその姿に気が付いたエイラとルナを始め、村人達も次々と俺の元へ集まってくる。


 「タイチ様、何をなさっているんですか??」


 「ああ、回復薬を作ろうと思ってね。まぁ、初めてだから上手くいくかは分からないんだけど」


 「おお、流石はタイチ様! 私もお手伝いいたします!」


 「あっ、ルナ様ずるい! 私もお手伝いします!!」


 おいおいおい、これじゃ手伝うどころか邪魔してるんじゃないか??

 俺は薬草を取り合うエイラとルナの姿に小さくため息を付くと、薬草と同時に空間魔法マジックボックスから取り出した容器の中で黙々と調合を続けるのだった。











 「冒険者様、この度は怪我人まで治して下さり感謝の言葉もありません」


 「礼ならあとでいい。 それで、お前達の村を襲ったというモンスターは全部で何体なんだ??」


 その日の夜俺は他の村人たちが寝静まった後、村長 へスタと数人の獣人達からモンスターの詳細を聞かされていた。

 隣のエイラは少し冷えるのか、目の前の焚火に手を伸ばしながら一緒に話を聞いている。


 「はい。我らの村に奴が来たのが2週間前。奴はその姿に気が付いた村人数人を殺害すると、その亡骸を使いアンデッドを召喚。さらに村人が次々と殺されていきました。我らも必死に抵抗しましたが、地獄狼ヘルウルフを始めとするモンスターには到底敵うはずもなく、命からがらここまで逃げて来たのです」


 奴……。 敵は1人だけなのか。

 それに生贄を必要としている所から、恐らくそいつが使ったのは初級召喚魔法のアンデッド作成だ。

 それでもこの人達からすれば脅威なのは変わりないが。

 村長を始め目の前の獣人達に視線を向けると、全員がその惨劇を思い出し厳しい表情を浮かべていた。


 「その、奴と言うのは一体何者なんだ?」


 「分かりません。奴が男なのか女なのかも。ですが奴はこういっておりました。これは始まりに過ぎないと……」


 「タイチ様! こうしてはおれません!! すぐにその敵を倒しに行きましょう!!」


 話を聞いていたエイラは立ち上がると、拳を握り俺の元に近寄る。

 まぁ、ここまで話を聞かされた後で見放すことは出来ないけど。

 だが情報が少なすぎる……。しかしこれ以上の情報を得るのも難しいんだろうな。

 俺はしばらく考えた後、村長に視線を戻し答えていった。


 「分かった、その敵の事は俺に任せろ」


 「おぉぉぉぉ!! ありがとうございます冒険者様!!」


 「ただし条件がある。 今回の事に対する報酬はきちんと払ってもらう。それが守れるなら俺も敵を倒すことを約束す」


 「も、もちろんです! 元々冒険者を雇うための資金、銀貨50枚を成功の暁には冒険者様に支払わせていただきます!!」

 

 へスタは懐から袋に入った銀貨を俺に見せると、他の者達と一緒に頭を下げた。

 しかし、俺の言動にエイラは納得していないのか難しい表情を浮かべながら口を開いた。


 「タイチ様。このような時にお金の話なんて」


 「そうは言うが、これから旅を続けるには金は必要だろう? それに大きな街に行けばお前の服や装備も調達しないといけないし」


 「えっ、服ならあるじゃないですか?? 私この服で十分ですよ??」


 エイラは立ち上がると、体を1回転させ俺に来ている服を見せる。


 「いや、それはあくまで俺の創造クリエイションで作ったものだ。創造クリエイションで作り出されたものは完全な物質ではないからな」


 「それが何か問題あるんですか??」


 「ああ。もし敵に解除魔法を使う奴がいれば魔力が分散しお前の服は原型を保てなくなるんだ。こんな風に……」

 

 俺はエイラに右手を向けると、解除魔法を使用した。

 するとエイラの服は光に包まれたかと思うと、一瞬でその原型をとどめ無くなり空中に四散していく。


 「きゃぁぁぁぁ!!! 何するんですかタイチ様!!!」


 「え、いや、悪い!! これはあくまでどうなるかという実践であって、決して悪意があったわけじゃ」


 「タイチ様の変態ー!!」


 「お、落ち着けエイラ! 話せば分か……、ぐはっ!!!」


 「ニャー!!」


 エイラから放たれた重い一撃は俺の右頬を直撃。その衝撃で俺は地面に倒れ、可愛そうにも肩の上にいたルナもその巻き添えを喰らうことになった。


 「だ、だ丈夫ですか冒険者様」


 「だ、大丈夫だ」


  心配そうに見つめるヘスタに、俺は揺れる視界の中なんとか頭を上げ笑みを浮かべて見せる。


 いや、しかしエイラの奴、見かけによらず中々良い物を持って、じゃなくて!

 本当にこういう時は容赦ないな……、グヘッ!

 エイラは倒れる俺に再び追い打ちをかけるように腹部に蹴りを加えると、頬を膨らませながら顔を背けた。

 こうして村を襲った謎の敵の討伐は、その後エイラの機嫌が直る数時間後まで延期されることになった。

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