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4 旅の始まり!

 「ふぅ。ここまでくれば大丈夫だな」


 「そ、そうですねアンデッド様」


 俺とエイラは遺跡から少し離れた丘の上まで逃げてくると、後方に未だ見える塔へと視線を移した。

 その腕の中には亀に形を変えられたあの守護者ガーディアンの姿もある。 

 全く、この守護者ガーディアンは余計なことをしてくれたもんだ。 

あの後、俺達の騒ぎに引き寄せられ辺りを埋め尽くすほど大群のアンデッドがエイラへと迫ってきた。

 しかもそのアンデッドを狙った多くの冒険者も付いてくるというおまけまでついてだ。

 流石の俺でもあれだけ多くのアンデッドを一度に使役は出来ないし、それ以前に生きている人間に使役の魔法を使うことは出来ない。

 という訳で身体強化の魔法を使いここまで急いで逃げて来たという訳だ。

 はぁ、もっときちんと別れをしたかったのに。

 無事でいてくれよ、俺の家!!


 「……さて、それでこいつをどうするかな」


 「キー!! キッー!!!」

 

 腕の中の守護者ガーディアンを地面に下ろしその姿を見つめていると、守護者ガーディアンは言いようもなく弱弱しい鳴き声を上げ、俺に何かを訴えているようだった。


 「うーん。流石に喋れるようにはしてやるか……。 創造クリエイション


 手をかざすと、守護者ガーディアンの体が光に包まれる。


 「あ、しゃ、喋れる!! 喋れるわよ!! ありがとうございます、ご主人様!!」


 「もう抱き着いてくるなよ? してきたらまた喋れないようにするからな」


 「は、はい!!」


 守護者ガーディアンはその言葉に、その小さな頭を何度も上下しながら答えた。


 でも流石にこの姿だと色々面倒だよな。

 さっきみたいに急いで逃げるときは俺が抱えないといけないし、何よりこいつ重いんだよ。

 

 「どうしましたか、アンデッド様??」


 俺が腕を組み考え込んでいると、それに気が付いたエイラが声をかけた。


 「いや、こいつの姿をどうしようかと思って。 この姿だと素早く動けないだろ?? いくら守護者ガーディアンの力は残っているはいえ、動かない的だとやられるだろうし」


 「そういうことですか。 うーん、そうですね、それならアンデッド様の好きな動物とかいいのでは? その姿なら愛着も湧くでしょうし!!」


 好きな動物か。俺あんまり動物知らないんだよなー。

 でも、それなら一つだけ思い浮かんだのがある。


 「よし、決めた。 創造クリエイション!」

 

 再び右手を向けたことで再び光に包まれた守護者ガーディアンは、徐々にその姿を変えていき光が消えると二足歩行で立つ真っ黒な猫の姿になっていた。

 その姿に、エイラは目を輝かせながら急いで抱き上げると、自分の頬を守護者ガーディアンに擦り付けた。


 「きゃぁー、可愛い!! 歩いてる猫なんて見たことない!!」


 「ぬぁぁぁ?! は、離れなさい小娘! 私に触っていいのはご主人様だけなのに、む、むぎゅぅぅ……」

 

 もぎゅ、もぎゅ。 守護者ガーディアンはエイラに強く抱きしめられているためみるみるその顔色が悪くなっていく。

 よし、成功だな。 昔飼っていた猫のにゃん太。

 俺には全く懐かなかったけど、懐かしくて涙が出そうだ。

 まぁ、中身あのアンデッドなんだけどな。


 「アンデッド様! この子の名前は何にしますか??」


 「な、名前?? そんなのいるのか??」

 

 エイラの突然の言葉につい声が上ずってしまう。


 「当たり前ですよ! 守護者ガーディアンなんて名前はこの子には似合いません!」

 

 「そんなものか」

 

 うーん。 俺、ファッションと同じくらいこういうこと苦手なんだけどなー。

 にゃん太、、は流石にダメか。

 いや、そもそもこいつ男なのか?? それすら分からない。


 俺はしばらく悩んだ末、頭の中に浮かんだ名前を口にした。


 「……ルナ。そうだ、ルナにしよう!!」


 「ルナ。いい名前です!!」


 「ふぁ、ふぁたひぼひひほぼぼいばふ(わ、私も良いと思います)!」

 

 エイラが笑みを浮かべると、その腕の中で意識を今にも失いそうな守護者ガーディアンも震える手で親指を立て俺に笑みを浮かべた。  

 お婆ちゃんの家にいた猫の名前だけど、気に入ったみたいだな。

 ありがとうお婆ちゃん。 


 「……それと、もう一つだけいいですか?? アンデッド様、あなたのお名前も教えて下さい!!!」


 その後しばらくの沈黙の後、エイラは意を決して俺に口を開いた。その顔はいつになく赤く染まりながら。

 そう言えば名前言ってなかったな。

 なんて言えばいいんだ? 柊太一、は長いか。

 なら、ファーストネームだけでいいか。


 「……俺の名前は太一だ」


 「タ、タイチ様……。 えへへへ、良い名前ですね」


 エイラが笑みを浮かべると、風に吹かれ少し舞い上がった彼女の金色の髪が日に当たり美しく輝きを放つ。

 その姿に俺もしばらくの間、目を奪われたがすぐに気を取り直すと後ろを向き顔を隠した。


 「どうしたんですか、タイチ様?!」


 「な、何でもない! ほら、用も済んだんだ。早く出発しよう!」


 「は、はい! これからお願いしますね!!」


 あ、危なかった。つい見とれてしまったが、俺、顔赤くなってないよね!?

 なんだ? 300年異性に会ってなかったから免疫がなくなっているのか??

 はぁ。早くエイラを届けて、引きこもり生活に戻ろう。


 こうして、俺とエイラ、そしてルナと言う名前を貰った守護者ガーディアンの1体と1人と1匹の旅が始まるのだった。
















 「ほら、タイチ様!! 早く早く!!!」


 俺達の旅が始まってから数日。エイラは毎日あのように楽しそうにしている。

 今まで一年間、奴隷として暮らしてきたため、自由に動くことが出来るのが嬉しいんだろうな。

 俺は前を笑顔で走るエイラの姿に、微笑ましく思う反面、彼女の境遇を思い複雑な感情を抱かずにはいられない。


 「全く……。エイラは騒がしいですね。タイチ様のご迷惑になるとは考えないんでしょうか!!」


 「まぁ、体を動かすのが楽しいんだろう。別に近くに危険な反応は感じられないんだ、今は遊ばせてやろう」


 「はぁ。まぁタイチ様がそう仰るのなら」

 

 俺の隣を歩くルナは、エイラの姿に視線を移すと小さく息を吐いた。

 この数日で分かったことだが、ルナは姿こそ普通の猫が立った程度の大きさしかないが、その力は以前と全く変わらないようだった。

 現に今も道中で狩った小型の牛の様なモンスター、とは言っても大型のイノシシ程の大きさなのだが、まるで重さを感じていないかのように容易く担いでいる。

 確かこいつのレベルは40前後だったよな? そういえば、この世界のレベルの事を俺は全く知らないな。


 「タイチ様、タイチ様!!」


 「……あっ、ごめん! なんだエイラ?」


 「なんだ? じゃありません、何度も呼んでるのに!!」


 その声で目の前に視線を移すと、そこにはエイラが頬を膨らませながら俺の顔を覗き込んでいる。


 「ハハハハッ。ちょっと考え事をしてたんだよ。 そうだ、前から聞きたかったんだけど、エイラってレベルはいくつなんだ??」


 「へっ、レベルですか?? 私はLv.24ですよ? エルフの中ではまだ低い方ですが、普通の人間と比べれば高い方だと思います! それがどうかしたんですか??」


 俺の言葉に、エイラはいつもの表情に戻ると首を傾げながら答える。


 Lv.24。しかもそれでそこまで低くないとすると、俺のレベルってこの世界じゃかなり高いんじゃないか??

 確か今のレベルは200、ってあれ!?!?

 俺はほぼ100年ぶりに右端上に浮かんでいる数字に目を向ける。

 するとそこには記憶にある200という数字ではなくその遥か上、Lv.300という数字が浮かんでいた。


 えっ、なんでだ?? 俺あの部屋以降は魔法書も見つけてなければ読んでもないぞ??

 いつの間にこんなに上がって……。


 俺はそこであることを思い出す。


 そ、そうか!! 暇すぎて遺跡にいるアンデッド達を的に、魔法の練習をしていたんだった!!

 倒してもいくらでも復活するから何も考えていなかったけど、あれでもレベルが上がるのか。

 まぁ、100年近く暇つぶしで魔法を使ってたからな。でも100も上がるなんて。

 Lv.300。これは流石にバレたら色々と面倒なことに巻き込まれそうだ。

 よし、このことは俺だけの秘密にしておこう。


 「タイチ様、タイチ様!!」


 「あ、ごめん。なんだエイラ?」


 「なんだ? じゃありません! タイチ様が質問してきておいて無視するなんて!! それに何ですか! このやり取り、2度目ですよ?!」


 その言葉で気を取り直すと、再びエイラが頬を膨らませながら俺を睨んでいる。

 しかしその瞬間、辺りに地響きが響き渡り森中の鳥が一斉に飛び立った。

 その異様な光景に、俺だけでなく、隣のルナも担いでいたモンスターを地面荷下ろし警戒を強める。

 なにかこちらに近づいてくるな。


 「タイチ様!!」


 「ああ、分かっている! エイラ、俺の後ろに隠れるんだ!!」


 「は、はい!!」 


 同時に気配を感じたルナと俺の言葉でエイラが後方に回った瞬間、前方の木々が勢いよく倒れ、2人の人影と四足歩行のモンスターが姿を現した。

 あれは、人間ではないな。

 1人はウサギの様な耳をしているし、もう1人は完全に動物の様な容姿をしている。

 いや、問題なのはその後ろか……。


 「地獄狼ヘルウルフ!! なんで中級モンスターがこんなところに……」


 俺の後ろからその光景を眺めていたエイラは、俺のマントを掴みながら小さく呟く。

 地獄狼ヘルウルフ

 地獄の使いとも呼ばれる中級モンスターであり、そのレベルは30を超える。

 また、既に死んでいる動物が何らかの影響を受け復活した姿であるため、物理攻撃のほとんどは効果がなく、魔法による攻撃しか有効な対抗手段がないって読んだ気がする。


 「地獄狼ヘルウルフか……。つまりアンデッド、それなら俺の出番だな」 


 アンデッドなら俺の使役魔法で従えることが出来る。

 仕方ない、こっちに来られても面倒だ。あの2人もついでに助けてやるか。


 「地獄狼ヘルウルフ! 動きを止めろ!!」


 俺は目の前の2人に迫る地獄狼ヘルウルフに右手を向け使役魔法を発動させる。

 しかし地獄狼ヘルウルフは何事もなかったように目の前の獲物に飛びかかっていった。


 ……くそどういうことだ!! 俺の使役魔法が効かない!!

 ここで再び魔法書の一文を思い出した。

 

 (対象であるアンデッド1体に複数人が使役魔法を使用することは出来ない。)

 

 そうか、こいつ既に誰かに操られているんだ。


 「く、来るなぁぁぁ!!」


 「助けて」


 「タイチ様……、ここは私にお任せください!!」


 ルナは使役魔法が効かないのを確認すると目にも止まらぬ速さで移動しその手に炎を纏わせると、目の前の2人に迫る地獄狼ヘルウルフの頭に拳をめり込ませた。

 すると、地獄狼ヘルウルフは叫び声と共に体が炎に包み込まれ、その体を崩壊させていく。


 おぉぉぉ。あいつこんなに強かったのか。

 流石は俺の家を守るために召喚した守護者ガーディアンだ!


 「た、助かったのか?」


 「お二人とも、大丈夫ですか!?」


 二人の獣人は駆け寄ってきたエイラに気が付くと、未だ燃え続ける地獄狼ヘルウルフから後ろの俺へと視線を移す。

 そしてその服装や、腕の装備を目にした2人は一瞬で表情を変え俺の目の前に膝を付くと、涙を流しながら頭を下げるのだった。


 「……ぼ、冒険者様!! 我らをお助け下さい!!」


 「どうかこの通りです!!!」


 「ちょ、ちょっと待て、どういうこと……?」


 俺はその後もしばらく頭を下げ続ける2人の獣人の姿に、ただただ混乱するしかなかった。



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