3 さらば我が家!
久しぶりにこんなに遅くに投稿する( ・∇・)
俺がエイラと共に旅立つと決めた翌日。
2人の姿は、俺の住処である塔を眺めることのできる遺跡中央部にあった。
「ほら、アンデッド様! 早く行きましょう!!」
はぁ。俺の手を引くエイラは、まるで遊園地に行く前の子供のようにはしゃいでいる。
何がそんなに楽しいのやら。
「ま、待てエイラ。もう少しだけ目に焼き付けたいんだ」
「もう! そんなこと言って1日も塔を眺めてるじゃないですか!! それだけ見れば十分ですよ!!」
どうしよう。何かここから出ていきたく無くなってきた。
これが数百年間、引きこもっていた弊害なのだろうか。
あぁ、さらば俺のオアシス!!
左目からこぼれそうになる涙を何とか堪えると、自分の右手を引くエイラへと視線を移す。
それにしても、エイラのこの服装はどうなんだろうか?
ボロボロの布切れ一枚を羽織っているような物だろこれ。
そんな視線に気づいたエイラは不思議そうな表情で俺を見つめ返していた。
「どうしました、アンデッド様?? 私の顔に何かついてます??」
「いや、エイラの服をどうしようかと思ってな。流石にそれで歩いていると、私は奴隷ですって言ってるようなものじゃないのか?」
「……確かに。そう言われればそうですね。 でも、アンデッド様も似たようなものですよ? 私と違って綺麗な布ですけど」
フフフフッ……。 エイラは彼女の癖なのか、いつものように口に右手を当て目を細めながら笑うと、俺の服を指差した。
そう言われればそうだ。
誰にも会うことがなかったから、俺も創造で作った白い布を羽織ってるだけだった。
最初はローマ人かよ! って一人で遊んでいたな、そういえば。
まぁ外見は人間だった頃とほとんど変わってないんだけどな。
「確かにこれだと、2人とも奴隷とアンデッドって言ってるみたいだよな」
「そうですよ! まぁ、遺跡の外に出ればどこか街があるでしょうし、そこで服を調達しましょう!!」
「でも、服買うにもお金がいるんじゃないか?? 俺お金なんて持ってないし、エイラも持ってないだろ??」
「…………あっ」
エイラはその言葉にようやく気が付いたのか、口を開けたまま動かなくなる。
こいつやっぱり天然だな。
まぁ、可愛いから許したくなるんだけど。
仕方ない。ここは俺が何とかするしかないか……。
「分かった。今回は俺が何とかしよう。 でも、文句は言うなよ?? 俺、服のセンス全くないんだ」
「……えっ?? でも、何とかって言ったって」
「創造」
ヴゥゥゥゥン!! 俺の言葉にようやく気を取り直したエイラを横目に、右手を彼女の頭の上に乗せると創造の魔法を発動し、これまで見てきた女性の冒険者の服装を頭の中に思い浮かべながら、エイラに合いそうな服を作り上げていった。
「す、すごい!! こんな綺麗な服を貰ってもいいんですか?」
しばらくして光が消えたことで目を開いたエイラは、自分の体を包んでいる綺麗な服に目を輝かしながら飛び跳ねる。
ふぅ。なんとか上手くいったな。まぁ冒険者の服装だから、可愛いとは程遠いだろうが、今までに比べれば100倍はマシだろう。
ただ、その腕の盾は俺からの餞別だ! ありがたく思えよ??
「でもアンデッド様、何でこんな古い盾を付けてくださったんですか?? 少し重くて腕が上がらないです」
ん?? 古い??
「その盾って古いのか?? 俺がこの世界……じゃなくて、目が覚めた時に見た冒険者が付けてたものなんだけど」
右手に付いている盾のせいで腕が肩から上に上がらず、苦笑いを浮かべるエイラに恐る恐る聞いてみた。
するとエイラは驚いた表情を浮かべたかと思うと、しばらく考えた後答え始めた。
「これは300年前くらいの盾ですね。今では魔鉱石で作られるのが一般的ですから。となると、アンデッド様は少なくとも300年はここにいるということになりますね」
「まじか」
300年?? 俺そんなにここにいたの??
そうか、俺、あの魔法書があった部屋に思っていた以上籠っていたんだ。
300年引きこもりって、完全にダメな奴だな、俺って。
自分の想像以上に時が過ぎていたことに肩を落としていると、エイラは俺を励まそうと急いで体の前で両手でガッツポーズを作り笑みを浮かべた。
「だ、大丈夫ですよ! ほら、これからは遺跡から出るんですし、300年くらいどうってことないです!!」
「本当に??」
「はい!! それに、アンデッド様がここに引きこもっていたお陰で私は命を救われたんです! 引きこもりは罪ではありません!!」
ぐはっ! こんな女の子に引きこもりを連発されるなんて。
でもまぁ、そうだよな。人一人助けられたんだ。引きこもりも悪くないさ!!
俺はエイラの言葉に何とか頭を上げると、自分にも創造の魔法を発動。
これまで見て来た冒険者の装備を頭に思い浮かべ、俺の体を包んでいた光が消えると新たな服がその身体を包んでいた。
「おぉー!! 流石はアンデッド様! すごく似合ってます!!」
ふふふ、そうだろう! 右肩にかかる黒いマント! それにこの腕に装着された装甲!
こういうのはやっぱり気分が上がるよな。中学生のころを思い出すよ。
エイラの反応に、先ほどまでとは打って変わり胸を張る俺は、実は単純なのである。
「それじゃ、そろそろ行きましょうか」
「ちょ、ちょっと待って!!」
「何ですか? あ、まさか、まだ見足りないんですか?」
「ち、違うよ!! 俺が留守の間にあそこが荒らされるのは嫌だからな。留守を守る人が必要だろ?? 召喚 アンデッド、 守護者」
ヴゥゥゥゥゥゥン!!!!!
頬を膨らませながら詰め寄ってきたエイラから離れると、地面に手の平を向ける。
すると地面に浮かび上がた魔法陣の中から金色の鎧に身を包まれたアンデッドが数体出現した。
「これは、上位アンデッドの守護者?! す、すごい。こんな高レベルのアンデッドを召喚できるなんて」
(守護者。レベルは少なくとも40を超える上位アンデッド。
初級冒険者ではまず歯が立たないし、中級冒険者でも1対1だと勝てるかどうか。
それを4体も同時も召喚されるなんて!!)
エイラのそんな考えなど知る由もない俺は目の前に現れたアンデッドに命令を伝える。
「よし、それじゃあ守護者達、俺がここを留守にしている間、あの部屋が荒らされないようにきちんと守るように。 あ、それと掃除もよろしく!!」
命令に守護者達は頭を下げると、ゆっくりと塔に向かい歩き始めたが4体の内、左端にいた1体だけはその場に留まっていた。
あれ? 久しぶりだったから失敗したのか??
今までこんなことは無かったのに。
「…………」
「お、おい。どうしたんだ?? 早くお前も行くんだ」
「……嫌です」
しゃ、喋った……!!!
あれ、アンデッドって意思はなかったんじゃなかったのか??
い、いや、今まで何回かアンデッドは召喚したけど、こんなことは一度もなかったぞ??
突然喋った守護者に戸惑っていると、その守護者は手に持つ槍を投げ捨て俺に飛びついて来た。
その突然の光景に、エイラも開いた口が閉まらないようだ。
「え! な、何だよ!! 離してくれー!!」
「私はご主人様から離れません~!! 一生ついていきます!!」
「はぁ?! 何言ってんだよお前……、って、こ、怖い! お前歯がむき出しだから!! よだれが出てるから!!」
守護者は俺の顔に自分の顔を近づけると、激しい息遣いになり、その半分裂けた口からよだれを垂れ流していた。
すると、頭の中にいつぞやの聞き覚えのある声が響き渡った。
(ははははは! なんだか面白いことになってるね!!)
ん? なんだ?? あ、この声、お前はあのときの……!!
(やぁ、久しぶりだね。元気だったかい?? それにしても、まさか特殊アンデッドを召喚するとは……。僕もびっくりだよ)
と、特殊アンデッド!? どういうことだ!!
(特殊アンデッドはアンデッドの中から稀に生まれる自我を持ったアンデッドのことさ。分類上は君もそこに入るだろうね)
な、なるほど。って納得してる場合じゃない!
こいつどうしたら消えるんだ?? こんなのが一緒に来たんじゃ、街にも入れないじゃないか!
俺の言葉に声の主はしばらく考えた後、再び話始める。
(それなら創造で新しい肉体に作り変えたらどうかな???)
創造で?? でもあれは生き物は作り出せないぞ??
(大丈夫だと思うよ? この守護者は君の魔力で作り出されたものだ。つまり君の魔力そのものと言ってもいい。だから肉体を変化させるのも、生物を作り出すわけじゃない。君の魔力を変化させるってことだからね)
なるほど。こいつに限ってはそれでいけるって訳か。
(そうそう! ってことで後は自分で頑張って!! それじゃあね!!)
あ、おい待て! お前は一体だれなんだ!! おい、おーい!!!!
しかしそれ以上その声は質問に答えることは無く、俺も自分から離れようとしない守護者の対処にそれどころではなくなってしまった。
「はっ!! ちょっと、アンデッド様から離れなさい!! 私だってそんなに抱き着いたことないのに!!」
しばらくして気を取り直したエイラは、俺に抱き着く守護者の体を後ろから抱きしめると、何とか引きはがそうと後ろに体重をかけながら引っ張り始めた。
しかし守護者は頭だけを後ろに向けると、エイラに声を荒げる。
「離しなさい小娘! 私はご主人様に用があるのよ!! あなたはお呼びじゃないの!!!」
「い、嫌です!! 私だってアンデッド様に抱き着きたいもん!! あなたこそお呼びじゃないんです!!」
「な、何ですって!!!」
エイラの言葉に一瞬体を抱きしめる力が緩んだのに気が付いた俺は、その隙を突き守護者の腕を取ると一気に後方へ投げ飛ばす。
そして地面に倒れる守護者に右手を向けると急いで創造を発動させた。
「ク、創造!!」
守護者は光に包まれると亀に変化し、二度と抱き着くことが出来なくなる。
「はぁ、はぁ、助かった」
「アンデッド様、大丈夫ですか?」
「あ、ああ。ありがとうエイラ」
俺は駆け寄ってきたエイラの頭に手を置くと、亀の姿になった守護者へと視線を向けるのだった。