俺の、居場所
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* 俺の、居場所
* @俺
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枯れた蔦が絡まった古びた貧相なアパート……。昭和の雰囲気むき出しで、呪われた廃屋に見える。
ここは、なかなか味がある! なんて、住んだことのないやつは、そう言うかもな。
けど、ここは一か月の家賃がたった2万円のボロアパート、わずかな地震や台風にさえ耐えてるのが不思議なくらいだ。
幽霊や、妖怪が現れても納得する、そんな、不気味な佇まいもある。
俺は、ここに住んでいる!!
つか、収入は少なく、生きていくためには、しょうがないんだよぉ〜〜。
四畳半一間の、かび臭い畳の部屋。キッチンは部屋の一角、奥まったところにあり、その下は収納で、そばにゴミ箱…てか、ただの段ボール。
日陰には水槽、中にはペットとしては珍しい、ナメクジが一匹。
名前はナナコ、同居してる、昆虫だ。
ナナコはトイレの便器の中に居た。危うく流すところだったぜ。俺は用をたすまで、ナナコを手の平に置いた。その間、ナナコは俺のことをずっと見ていた。つまり、ナナコは俺の秘密を知っている、なんて(笑)。
同居している昆虫は他にもいるが…まーそいつらの話は後にして、それよか、俺の紹介をしよう。
鏡の前でスーツを着こんでるのが、そう、俺だ。俺は自分をカッコいいと思ってる。え? 図々しい? つか、男ならそう思わないと世の女子に笑われるぜ。
そんで、テーブルにある封筒が…退職届だ。
そいつをこれから会社に出しに行くんだ。
会社につくとやっぱいつものように居場所はなくて、話しかけてもみんな無視、上司も同じだ。だから、退職願を出すタイミングに苦戦した。
上司の手が空いた隙を狙いやっと提出完了。
何か言われると思いきや、退職願はあっさり受理。いや、むしろ辞めることを喜ばれてる感じで、同僚たちなんかも、嘲笑していた。
これはいわゆる流行りの、卒業という名の温かい送り出し、決意や挑戦をともなったそれとはぜんぜん…、ちげぇ! 嫌な記憶だけが残るものだ。
帰り道、繁華街をぼぅっと歩きながら、考えていた。
今日の夕飯は何にしよう、そんなどうてもいいことだ。
ふと、足を止めた。! 時間差で、急に不安が襲ってきた。俺はこれからどうなるんだろう。まじでヤバくねぇか? だって貯金はほとんもうねぇし、また働くにしても、あの嫌な思いはしたくない。
「はー」
俺のため息は重い。吐き出すとすぐに足元へと沈む。
思えば、世の中は不公平で溢れてる。
一生幸せに過ごすやつもいれば、一生、不幸せに過ごすやつもいる。
それは、生まれながらに決まる。男は男として、女は女として生きることが決まり、裕福な家庭に生まれれば、贅沢に暮らせて、イケメン、イケ女は、いい思いをする。
これはいわゆる偏見なのだ。中身なんて二の次だ、外見やらで、イメージして、決めつける。
いやいや、ひがんでるんじゃねぇ、俺の偏見でもねぇ、だってそう思わないか?
俺は、繁華街で、人の波を避けながら、行き交う人を観察した。
なら、俺も、外見で人を判断してみる。
ほらあそこ。
だらし無く両腕を前に垂らしながら歩く女子…眼の下にクマ? ああ、彼女を考察しよう。
黒ぶちのダサイ眼鏡、地味に茶系で目立たないようにしている。つまり、彼女は…アイドル? いや、私立探偵…いや、
「彼女は今、探偵小説にはまっている!」
探偵になりきっているただのオタクだ!
うわーなーんだ、そうだったのかぁ。
じゃあ、あっちの女子は?
「日焼けして、一見健康そうだが、ダルそうに歩くOL…」
あの日焼けは海で焼けたのか? 違う、炎天下で歩き詰めだったんだ…つまり、営業だ。
バッグから財布が落ちそうだ、財布が落ちれば気が付くだろうけど小さいものなら…。
「小さいものなら…そうか! ついさっき、鍵を落としてる! そうだ! しかし、まだそれに気がついてない!」
よしよし、じゃあ、次の女子だ。
あそこ、横断歩道で、珍しいキャラをバッグにつけてる、女子高校生は?
「数分後、その珍しいキャラ…こいつを知ってる人に出会えて、ひどく興奮して、おしゃべりする!」
喫煙エリアでタバコを吸う貴婦人は?
なんつーファッションなんだ。
「自分には、超能力があって、時間を止められるかも知れない、でも、自分も止まるから、いつ止まったか分からない、分かるためにはどうすればいいか、と、真剣に考えてる」
バカバカしい、超能力なんてあるはずないぜ。
じゃあ、ティッシュを配ってい女子。
「ひ弱な彼女、こいつはきっと、いじっても、無抵抗のまま笑っているだろう、と思われてることは容易に想像できる、だがじつのところ、彼女の背中には凶暴なミツバチの刺青がある。真の姿は凶暴な蜂女」
じゃあ、建物のガラスに映っている自分は!?
「こいつは…訳の分からない推理と想像で他人を判断する、最悪な、男」
がっくりと肩を落として鏡の俺に背を向けた。
「帰ろ」
「それから数ヶ月が経った。俺は、ガッツリと引きこもりになっていた」
毎日、外を恨めしく眺めては、ほおづえをつき、ため息をつく。
食事は通販で済ませ、もはや、部屋はおろか、アパートの敷地内からも出ない。
しかし、引きこもりから三ヶ月と三日目ぎ経って、俺の人生を変える重大な出来事が起こった。