僕(昆虫)たち、ここに住んでます!
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* プロローグ
* @ナナコ
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枯れた蔦が絡まった古びた貧相なアパート。
ここはなかなか味がある……なーんて、住んだことの無い人ならそう言う、と思う。
けどここは地震や台風に耐えられてるのが不思議なくらいの、ただのボロアパートなんだ。
幽霊や、妖怪が現れても納得する、そんな不気味な感じもするんだ。
僕は、ここに住んでいる!!
僕はナメクジのナナコ!!
僕は、女の子? 男の子?よく分からない。
とにかく、僕は、飼い主様に命を助けられて以来、このちっちゃな水槽で飼われている。
そんな飼い主様は、ガッツリと、今、引きこもりだ。
ここ数か月、会社を辞めてからずっと、アパートの外を出てない。
毎日、外を、恨めしく眺めては、ほおづえをつき、ため息をつく。
「はー」
飼主様のため息は重い。吐き出すとすぐに足元へと沈む。
けど、飼主様に転機が訪れたんだ。
たまたま外で雨宿りをしてた女の子に、恋をした!
でも、勇気をもって話しかけたけど、僕以外と話すのは、まるで久しぶり過ぎてまるで緊張しすぎて、まるで挙動不審、怖がられて、結局、逃げられた。
―で、このありさま。
飼主様は、畳の上で大の字になり、身体をよじってもがいた。
「あぁぁーーっ! リベンジしたい、リベンジしたぁーーーーい!」
朝から晩まで泣きわめく日々が続いだ。
うるさかったよ、けどこのアパートには飼主様しか住んでなかったからよかった。他にいたら、クレームどころじゃない、お巡りさんへの通報レベルだよ、まったくもう。
だから僕はこう思った。
「飼主様を助けたい」
こんな馬鹿みたいな飼い主様を見て、僕は少しも呆れずに、真剣に考えてあげたんだ。
「飼い主様は今、大好きな人に、気持ちをどうやって伝えるか悩んでいる。教えてあげたい、恩返しをしたい、その為にはどうすればいいんだろう」
それは、部屋に住んでる他の4匹の昆虫もおなじだった。
部屋の隅に巣を作っている、蜘蛛のくぅちゃん。
「飼主様、お可哀そう…」
ゴミ箱の周りを飛んでいる、おしゃべりのハエの、ハエたん。
「ふつーに告ればいいじゃん?」
蛍光灯の影で身を隠している蜂、荒々しいけど、実は弱虫の、ハッチ。
「まったくだらしねぇ、イジけてんじゃねぇーぇで、気合いれろ!」
台所の、ゴキブリのゴっちゃん。
「諦めた方がいい」
ゴっちゃんは少しネガティブだ。
僕たちは、飼主様に何とかして伝えたかった。
僕は水槽から出て、寝ている飼主様に少しずつ近づいた。
飼主様は、涙を流していた。悲しい夢でも見ているのだろうか。
可哀そうだ、涙をぬぐってあげたい、そう思って、飼主様の顔に近づいた。
飼主様の顔がすぐ近くまで来て、僕は、なんだかドキドキした。
さらに少しづつ、飼主様に近づく。
そして…。
もう少しのところで。
プチ
…潰された。
飼主様が寝がえりをうち、僕はその下敷きになったんだ。
ほかの昆虫たちも寝ている彼に近づいて、
プチ
…潰された。
僕は飼主様を恨んでない、だって、寝ててやったことだし意図的じゃ無い。何より僕らは、かつて飼主様に救われたんだ。
でも心残りだった、どうしても飼主様が可哀そうだったんだ。
そしたら、奇跡が起きた。
月夜に照らされるぼく(昆虫)たちの身体は、みるみるまに、人間の女の子へと変わったんだ。
これならどうにか出来る、そう思った。
だから僕は口に出してこう宣言した。
「こんどは、僕らが恩返しをする!」