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音のない世界  作者: 横須賀かもめ
95/99

何のために④

 盤面に集中する。

 後手が△8五歩と指した。

 ▲7七角△3三角▲4六歩△2二玉▲3六歩△4四歩▲3七桂△4三金▲6五歩△3二金▲6六銀△7四歩▲4八玉△1二香▲5六歩△1一玉▲4七金△2二銀▲3九玉△5一

角▲2八玉△8四角と駒組みが進んだ。




 立会人の先生が、対局場に入ってきた。

という事は、昼休憩の時間だ。

昼前にしては、思ったよりも指し過ぎてしまったと、少し思った。

いや後悔しても、仕方ない。

思ったよりも、進んで良かったじゃないかと思おう。

 自分の部屋に戻ると、昼食がもう用意されていた。

 うどんである。




 前日の検分の時に、今日と明日の昼食のメニュー渡され、その場で決めたのだ。

 二日制のタイトル戦では、事前に昼食を決める事が多い。

 今回もその形を取ったのだろう。

 メニューを見ながら、うどんが良いと伝えた。




 「温かいのと、冷たいのどちらが良いですか?」と聞かれたで、冷たいうどんと伝えた。

 「だけで良いですか?」と聞かれたので、「かき揚げとかあればいいですね」と答えた。

 今目の前には、冷たいぶっかけうどんと、かき揚げ・まいたけの天ぷらも添えてあった。

 かき揚げと、まいたけの天ぷらにテンションが上がった。

 明日も、同じでも全然ありだなと思い、食した。




 食事を済ませると、自然に盤面が頭に浮かんできた。

 まだ始まったばかりで、優劣がついているわけではないが、穴熊はやはり堅い。

 それだけでも気が重い。

 棋士人生で何度も、立ちふさがってきたのが穴熊であるからだ。

 △8四角は、角の睨みを生かして攻撃的に指すこともでき、また後手番らしく千日手を狙う事もできる。




 とにかく柔軟な戦法だと思う。

 こちらの対策としては、後手が6二飛と回ってくると考えて、①5七銀②8六歩から考えてみる。

 ▲2六歩△9四歩▲9六歩△6二飛▲5七銀△6四歩▲同歩△同銀▲8六歩と読んでいく。

 5七銀に対して、後手は6四歩から仕掛ける。

 ▲8六歩は狙いの反撃である。

 △8四角+△6二飛型にはこの形が良いと、経験で知っている。

 だからと言って、勝てるとは言い切れないのが将棋の難しい所である。




 目を開き、覚悟を決めて対局場に向かうために部屋を出る。

 時計を見ると、対局再開時間よりも少し早かった。

 部屋を出るとき、空になったうどんの器を見て「ごちそうさま」と言ってみた。

 何がどうなる訳ではないが、願掛けの様に言ってみた。

 対局場に戻り、座ってまた目を閉じた。

 頭の中で盤面を確かめる。

 目を開き、実際の盤面を眺める。

 そして周りを、昼食から戻って初めて意識

した。




 記録係の子は、もうすでに座っていた。

 竹本は、今まさに戻ってきて座る所だ。

 少しして、立会人の先生が入ってきて、対局再開の合図をした。

 念には念を入れて、もう一度読み直そうと思い、湯飲みにお茶を淹れながら考える。

 △7三桂▲6三歩△同飛▲8五歩△5七角成▲同金△6五桂▲4七金△7七角成▲同桂と読んでいく。

 △7三桂に変えて、△8六歩は▲同角△6五歩▲8五歩△7三角▲6九飛としておいて、次の▲7七桂から▲6五桂を狙って、先手が良いだろうと、▲2六歩と決断して指す。

 △9四歩▲9六歩△4二銀▲2七銀△3一銀右▲3八金と進んだ。

 ソフトは△4二銀を選んできた。




 △6二飛は、攻撃重視の手だったが、△4二銀はさらに固めて松尾流穴熊や、銀冠穴熊を目指してると思われる。

 相手の隙を見て攻める狙いで、場合によっては千日手も視野に入っている。 

 ソフトが千日手を視野に入れてるのかは、不明だが千日手はマズい。

 それは出来ない。

 千日手になって、先後逆になるのも、時間を使うのも避けなければ、絶対に勝てない。

 不利を通り越して絶体絶命である。




 考えなければ、△4二銀に対しては、▲2七銀か▲5七銀が見える。

 △5一角▲5五歩△4二角と局面を読む。

 先手が最も恐れるべきなのは、代償なしに

後手の角を4二に転換されることである。

 これが実現すると、あっという間に作戦負けになるのだ。

 何度も何度も思いだしたくない事を、思い出す。

 だから、△5二角と引かれた瞬間に▲5五歩と仕掛けた。




 これを同歩と取ると、こちらは6四歩、同歩、5五銀としてこちらの成功である。

 なのでソフトは、▲5四歩△8六歩▲同歩△同角▲同角△同飛▲5三歩成△同金▲9七角△8九飛成▲5三角成△9九龍と、確認しながら局面を読んでいく。

 気付けば、時間ももうすぐ夕方六時に近づいている。

 三時に出されたおやつがあったが、局面に集中しすぎて食べた記憶がない。

 空のお皿が転がっているのに、今やっと気づいた。

 ▲5四歩としてからは、ここまで必然の流れである。




 時刻もそろそろ封じ手の時間が迫ってきた。

 事前の検分の時に、封じ手はソフト側がすることもあると聞いている。

 開発者の竹本が、ソフトの指し手を記入するという流れである。

 しかし、恐らく封じ手をするのはこちら側であろうと思っていた。

 空気は読むものだと思う。

 記録係に封じ手を頼んだ。

 そこからは、タイトル戦と同様の流れで封じ手が行われた。


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