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音のない世界  作者: 横須賀かもめ
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小説の名は「柴崎駿物語」13

 ビックリする森田が「僕は、弟子になる時に一度だけ」と答える。

 「プロになった時は、師匠からは?」

 「高価な将棋盤をプレゼントされたな」と奄美。

 一方の森田は「何もなし」と答えた。




 本当に師匠と弟子の関係は、師匠と弟子の数だけあるのだなと思う泰斗であった。

 「師匠と弟子の関係は、師匠と弟子の数だけあるんですね」と同じことを雨竜が言った。

 それが少しうれしい泰斗であった。

 タイトル戦を獲った時でも、森田の師匠・香田はおめでとうのハガキ一枚だったそうだ。

 奄美の師匠・高村は、奄美の初めてのタイトル戦に現地まで赴き見守っていたそうだ。




 「プロになってから、今まで対局前のルーティンって変わりましたか?」

 「プロ入り直後は、自分の指したい手ばかり指していたような‥‥‥今は、対局の二週間前から対戦相手の研究に時間を割いてますね。対局の前の日はの寝る時間は、十時って決めてます」と奄美が答える。

 森田の方は「対戦相手の研究ももちろんしますが、自分の指定局面の研究を今は好きでやっています。時間があれば対戦相手の研究もちゃんと出来るんですけどね」

 三冠の森田は対局以外にも、棋界の顔であるため仕事が多く、研究に充分な時間がとれない現状があるようだ。




 奄美の方も、ソフトと森田とのタイトル戦と控えており、時間がないのは奄美も同じであるが、森田の方はこの生活を十年はしているだろう。

 「対局中は、相手の手番の時もやはり考えてるものなんですか?」気になった疑問をぶつける泰斗。

 奄美は、明日することや今日何時に終わるか、昼ご飯は何を食べようか、夜ご飯はどうしようとか考えてると思う、と答えた。




 森田も、次何を指してくるのかなと盤面の向こうを読んでいるというか、ぼんやり眺めてる感じですと、更に何時ぐらいに終わるかはけっこう考えてますと、はにかみながら答えてくれた。

 「去年のお二人でのタイトル戦はどういった気持ちで挑まれたんですか?」と雨竜が質問する。

 力が入りすぎていた。もう反省しきりと奄美が答える。

 準備の段階から、気合いが空回りしていて、対局本番にへばってました。

 あんなにタイトル戦の空気に呑まれるとは思ってなかった、何をするにも疲れた、将棋する体力がなかったのが悔やまれると。




 森田は、奄美とのタイトル戦楽しみにしてました。

 前回は僕というより、タイトル戦の空気と闘っている印象でしたね。

 僕も呑まれたことがあるので、分かるんです。

 今回も楽しみですと、森田が楽しそうに本当に待ち遠しそうに答えているのが印象的だった。

 色々と話しを聞けて、時間を経つのを忘れていたが、そろそろインタビューの終了の時間だ。

 なにせ二人には時間がない。




 雨竜に、インタビュー終了の時間が迫っている事を伝える。

 雨竜が頷き最後の質問をする。

 「将棋に出会えて幸せですか?」

 雨竜らしからぬ質問があった。

 奄美と森田が、言葉こそ違えど幸せですという意味合いの回答をした所で、インタビュは終わった。

 満足した様子の雨竜は、二人に感謝の気持ちを込めて、握手を奄美と森田に求め、最後に泰斗にも求めた。




 いよいよ、退室しなくてはいけない時間になり、帰り支度をしている時に、奄美と森田が楽し気に話している光景を見た。

 とても、これからタイトル戦で戦うとは思えない姿だった。 

 帰り際に「無事に終わって良かったですね」と雨竜に話しかける。

 安堵の表情を浮かべながら、確信と自信に満ちた目で頷く雨竜。

 「奄美君の、ソフトとタイトル戦両方見に行けたりしますか?」 

 「もちろん! その手配をしています」

 無邪気な笑顔で、喜ぶ雨竜。




 この人は、本当に将棋が好きなんだなと思う泰斗。

 そしていよいよ、奄美のソフトとの戦いが始まるのだなと、実感する泰斗であった。


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