小説の名は「柴崎駿物語」12
「そういえば、奄美君とタイトル戦見に行って、迷子にもなりました」
「あった、あったそんな事が」と奄美が同意した。
森田が奄美に「タイトル戦を観に行きたい」とお願いしたのが始まりだったそうだ。
案の定、奄美の院卒で山形県の天童で行うタイトル戦を観に行くことになった。
奄美が中二で、森田が小五の時である。
二人での初めての旅行だったそうで、奄美が事前に経路と宿泊先を決め、というか将棋連盟に教えてもらった。
森田の旅費も、森田の両親から預かるほど信用されていた。
「中二だからな、地方に行ったら迷子にもなるじゃん」
期待を一身に背負い森田君の引率を仰せつかまった奄美であったが、東京駅からすでに間違い青森の方まで行ったらしい。
結局、現地に着いたのは初日の深夜で、二日目は眠い目をこすりながら初めてのタイトル戦を見たらしい。
「あの時は、師匠に初めて怒られたなー未来の名人に何かあったらどうするんだって!
後にも先にも怒られたことはないなー」と奄美が言い、森田も師匠に怒られたと言った。
それを聞いて雨竜が「お二人の師匠って、どんな人なんですか?」と質問をぶつけた。
奄美の師匠は高村で、森田の師匠は香田八段である。
香田は高村の初めての弟子である。
そして森田は、香田の生涯唯一の弟子と現時点ではなっている。
香田は、森田以降弟子を取っていないのだ。
これは棋界の七不思議の一つという者もいる。
「将棋界での師匠と弟子って、よく連絡取り合ってるの?」と泰斗が疑問を投げかける。
「俺はよく連絡取り合ってるよ。泰斗とも三人でよくご飯行くしな」と奄美。
「僕は年に一回連絡取り合うぐらいですね」と森田。
師匠と弟子の関係は、師匠と弟子の数だけあるんだなと感心する泰斗である。
雨竜も同じように感じているようで、しきりにメモを取っている。
「師匠と将棋を指すことはあったんですか?」と雨竜が聞く。
「今でもたまに指しますよ」と奄美が答える。




