小説の名は「柴崎駿物語」10
指定された部屋は対局室であった。
その襖を開けると、盤に向かいあって坐っている奄美と森田の姿があった。
将棋を指してはいないが、プロ二人が将棋盤を挟んでいるだけで一種の緊張感が張り巡らされている。
泰斗はこの静けさが苦手であった。
嫌いというより怖いのである。
雨竜は、貴重なこの光景を目に焼き付けようと、目をキラキラしながら見ている。
二人に気付く奄美と森田。
挨拶も程々に早速インタビューの準備をすることに、なにせ時間がないのだ。
「それではインタビュー始めさせていただきます」と雨竜が二人に伝える。
頷く二人。
「お互いの初めての印象、奨励会時の思い出などを聞こうと思っています」と泰斗が言う。
「初めて会った時の事、覚えてますか?」と雨竜が聞く。
昔を思い出すように、お互いの顔を見る奄美と森田の二人。
二人が初めて会ったのは、埼玉にある将棋道場であった。
奄美は小学校の時に、友達にルールも知らない将棋でボコボコに負かされた事に腹を立て、将棋を祖父に教えてもらったのが、将棋を始めたきっかけだそうだ。
その友達には一週間後には、ちゃんとリベンジを果たせたそうだ。
森田の方は、父に教えてもらったのが将棋を始めたきっかけだそうだ。
二人とも周りで自分より将棋が強い人がいなくなり、というかそもそも将棋を指している人もあまりいなかったみたいだが、それで道場に通う事になったそうだ。
奄美が道場に通いだしたのは、小学四年の時だった。
森田が初めて道場に行ったのは、小学一年の時であった。
二人の年齢差は三歳なので、同じ年に道場に通いだした事になる。
二人ともその事実を知らなかったようで、インタビューの時に驚いていた。
話を聞くまで奄美は、道場に先に通いだしたと思っていたらしい。
この話しを聞いても、そう言い張っていた。
苦笑いの森田君の顔を見て、どっちが年上か分からないなと泰斗は思った。
森田は、初めて奄美を見た時の印象を声のデカい子供と思ったそうだ。
大きい声でおじさんと感想戦をしていたのが、強烈に印象に残ってるという森田。
全く覚えていない奄美。
逆に奄美に、森田と初めて会った印象を聞くと、物静かで礼儀正しい小学生だったと語ってくれた。
「だってトイレに行った後、手をキレイに洗って、その後ポケットからハンカチ出したんだぞ!」と興奮気味に話す奄美。




