小説の名は「柴崎駿物語」⑧
先輩一人とバイクに乗って遊んでいる時に、恵さんとすれ違ってしまった。
先輩が悪ふざけで、恵さんにちょっかいを出してしまった。
悲劇の始まりであり、泰斗の新たな人生の始まりにもなった。
あまりにも無視をされたので、先輩がキレて最悪の事態が起きてしまった‥‥‥。
事が始まった時、泰斗は見張りを先輩に命令された。
少し離れた所で、見張りをしていたが、恵さんの悲鳴が聞こえた。
何度も助けに行こうと思ったが、足が竦んだ。
その間も悲鳴が続いていた。
やがて事が終わったようで、先輩が泰斗に元にやってきた。
至る所に傷があり、疲弊していた様子だった。
先輩が先に帰るから、泰斗に口封じをしとくように指示された。
現場に行くと、衣服が破れ泣いている恵さんを見た。
泰斗を見てビクッと身体を震わせ、肌を隠す恵。
それを見て、着ていた上着を差し出す泰斗。
何も言わずジッと泰斗の方を見ている恵。
「よ、良かったらこれ着て」と無理矢理、恵に上着を渡す。
「あ、ありがとう」と上着を受け取る恵。
何も言えないでいる泰斗。
かける言葉が見つからず、助けられたにも関わらずビビって何も出来ずにいた自分を責める泰斗。
声を掛けたくても、何て声をかければ良いのか分からずオロオロしている所に、パトカーのサイレンが聞こえた。
慌てている泰斗に恵が「逃げて」と震えた声で言う。
驚いている泰斗だったが、恵がさらに「アナタの事は言わないから」と付け加える。
その目は涙くんでいたが、決意の目に見えた。許さない絶対にと言ってるような目であった。
“アナタの事は言わないから”という言葉に甘えてみたくなったが、考えをすぐ改めた。
「いや、俺がした事にして下さい!」と言って頭を下げる泰斗。
何を言っているのですかアナタは? という表情の恵。
「逆に先輩の事は黙っていて欲しい!」
更に驚く恵。
続ける泰斗。
「俺が全部したことにして欲しい」
彼女を守れるのは泰斗だけだったのに‥‥‥それをしなかった。
先輩にビビったわけでも、ましてやこうなることを望んだわけでもないのに。
ただただ流れで空気で、その場の勢いで最悪の結果になってしまった。
色んなニュースでそんな事、俺ならしないと思っていたのに、なってしまった。
彼女をこんな目に合わせてしまったのは、泰斗自身ではないかと泰斗は思ってしまった。
先輩の焦りを隠すようにこの場を立ち去った後姿を見て。
それを見るまで、その事を考えなかった自分を許せなかった。
もちろん加害者は先輩ではあるが、自分が止めていれば先輩もこんな事をしなかったはずである。
先輩の後姿がとても喜んでいるように見えなかった‥‥‥誰も喜んでいない。
先輩にビビった訳でもなく、なんとなくその場の流れで先輩の言う事に、従ってしまったのが一番の悪ではないかと考える。
なのでもう一度「俺がしたって事にして欲しい」と頼み込む。
それでいいのだろうかと悩んでいる、戸惑っている恵の様子がはっきりと泰斗にも分かった。
更に説得をしようと思ったところに、警察がやってきた。
その後、捕まった泰斗は恵には会えずにいたが、滞りなく刑が執行されたので、言うとおりにしてくれたんだと思った。
この事は、泰斗と恵の二人しか知らない。
奄美にも言っていないが、奄美は何かを感じているようでもある。
でも泰斗の口からは言っていない。




