小説の名は「柴崎駿物語」⑦
「ガリクソン、広島行ったらしいな」
「広島? 何しに?」
「恵が大学時代過ごした所だからだろ」と奄美が言う。
広島と恵が結びつかない泰斗ではあったが、頭では広島は恵の大学時代を過ごした場所だとは理解してるが、中々結びつかなかった。
「あれは絶対、恵が好きだな」と奄美がいたずら小僧っぽく言う。
「そうなの?」全く気付かなかった泰斗。
「ライバル出現だな!」
「いや俺はそんなんじゃないから‥‥‥」
話さなければいけないが、逃げてしまう。
「そういや、結婚おめでとう! まだ言ってなかったな!」
「おっはぐらかしたな! でもありがとう!」
缶ビールで乾杯する二人。
「でお前はどうするの?」と諦めない奄美。
「俺は、ほらアレだから‥‥‥」と言葉が続かなくなる泰斗。
「恵も、そうは待ってくれないぞ」とハッキリその名前を出した。
「恵さんは、関係ないよ‥‥‥」
思わず言ってしまった“関係ない”実際そうなのだが、そう思いたくない感情があることを、泰斗ははっきり理解した。
いや前から認識したのだが、その思いは封印していた。
深い深い心の底に、沈めていた思い。
十四年という時間が経っても、後悔が消える事がないただの一日も、いやただの一秒も。
“どうしてあんな事をしてしまったのだろう”いまだにあの時の自分の心理が理解できない。
あの異常な心理‥‥‥は何だったんだろう。
当時の泰斗は荒れていた。
盗んだバイクで走り出したり、夜の校舎窓ガラス叩いて割ったり的な時があった。
どうして問われると、自分の境遇だった気がする。
泰斗の実家は明治からある和菓子屋である。
いわゆる老舗の跡取りであった。といっても次男ではあるが‥‥‥。
兄は五つ上で幼少期から勉強もスポーツも出来、小学校の時からボランティアにも参加していて、弟から見ても完璧な人間だった。
比べられるには、圧倒的な差があった。
両親からも期待と、そして尊敬の念まであったと泰斗は思っている。
父親は特に泰斗と兄を比べた。事あるごとに‥‥‥。
お前は兄と比べて全然ダメだ! 事あるごとに言われ続けてきた。
それは何百回、下手すれば何千回と浴びせられたと思う。
だからこそ荒れた。父親、世の中この世の全てを敵だと思い、敵意を向け生きていた。
自分の存在意義が見つからなかった‥‥‥。
中学に入った頃から、地元の悪い先輩たちとつるむようになっていった。
そしてあの日事件は起きてしまった‥‥‥。




